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第9話 小さな食堂①


飯がないとのことなので、部屋で少し休憩した後は街へ繰り出した。

ホテルから少し歩いたところに食堂があると、おっさんが教えてくれたのでそこを目指す。


人通りが少ない街中を歩いて3分ほど。

見つけた店は小さな食堂で、中を覗くと誰もいない。4人掛けのテーブルが6つ並んでいるだけだった。

休業中かな、と思ったが、電気はついているし営業中の札が掛かっていた。

大外れの店で客が来ないのかな、と思って移動しようとしたら、奥から出てきた恰幅の良いおばちゃんと目が合った。

さすがに気まずくなり入ることにした。


「いらっしゃい」


空いている席に座ると無愛想なおばちゃんが注文を取りに来た。なぜかそこはアナログで、タブレットで注文、とかではない。

まあ、小さな店なのでそこまでする必要はないということなんだろう。壁に貼ってあるメニュー表を見ると、洋食がメインだった。和食、中華などはない。

何だか昭和のお店にタイムスリップした気分で、ここだけが取り残されたみたいに未来感がない。でも、壁に大型モニターが掛かっているので、そこだけは違っていた。


「へえー、ハンバーグはあるのだな」


意外にも食文化は日本と酷似していた。

ただ、メニューが偏っているようで作れるレパートリーが少ない。ステーキ類はあるがパスタなどはなかった。


「米はないのか……」


ボソッと呟く。

パンがセットで付くようだが、米の事は一切書かれていない。

生サラダもないようだ。


「米が作れる自動調理器は置いてないのでね。この店では出せないよ」

「自動調理器?」


俺の呟きが聞こえたようで、ムッとして答えるおばちゃん。

なぜか知らないが、気分を害したようだ。


自動調理器のことを詳しく聞くと、自動調理器にもランクがあるそうで、全てが作れる自動調理器はかなり高価らしい。小さな食堂では買えないとのことだ。

そして、米が作れる自働調理器はもっと高いとのこと。「それは失礼」と言って頭を下げた。

なので、洋食なら洋食、中華なら中華だけと、ある程度的を絞って限定して提供しているそうだが、それでも全てのメニューが作れるというわけではなく、更に限定して提供しているらしい。他の店も大体同じような感じだと教えられた。

しかし、米のことを知っているとは。

この世界には米があると知って、ちょっとだけ安心した。


ハンバーグのセットを注文すると、おばちゃんがポケットからスマホみたいな機械と取り出し、操作を始めた。これにオーダーを入れると勝手に作ってくるそうだ。さすがは未来の食堂だ。後は出来上がるのを待つだけだと言う。


「全て自動調理器ということだが、自分で調理はしないのかい? そうすればわざわざ高い調理器で作る必要もないだろ?」

「フ、何言っているんだお客さん。料理人じゃ無いんだから自分で調理はできないよ。うちは自動調理器での販売しか許可が貰えていないからね」


鼻で笑われた俺は意味がわからず首を傾げた。

何でも料理を作るには調理師免許が必要で、自動調理器で作るのであれば調理師免許は必要ないそうだ。

それは確かに必要ないね。機械か勝手に作るんだから。


「それに生憎と生の材料は高くてね。自動調理器で作った方が安上がりなのさ。中には自動調理器で食材だけを作って調理している変わったお店もあるらしいが、そんな面倒臭いことするわけがない。時間が掛かるだけだし、味は自動調理器で作った方が数段美味しい。無駄、というやつさ」


使っている材料が同じなら、後は焼き加減や味付けしだい。

だが、その味付けも全て調理器と同じ調味料を使っているので味も変わらないという。逆に調理器で作った方が絶妙な味付けもできるというので、自分で調理する必要はないとのことだ。

何とも夢がない、悲しい話だな。


「それでも自分で作ればオリジナル料理も開発できるのでは? 味だって研究すれば美味しいのができると思うし」

「確かにそういうお店もないとは言わないが、でもね、値段が高いんだよ、そういう店は。自分で料理すればそれだけ手間は掛かるし、設備にも投資しなければならない。調理場は必要だろ? 自動調理器も必要なんだし、結局は余計なお金が掛かるだけさ。それが価格に乗ってくる。金持ちで無いと食べれない料理になるという話さ。そんな高い料理、この街で誰が食べる? この街に住んでいる人は一応市民権は持っているが、それでも食べていくだけで精一杯。全部、税金が上がったせいで生活が苦しいのさ。そんな状況下でそんなお店が流行るわけがないだろ。まぁ、外から来たお客さんには分からない話だろうけどね」


凄く嫌味っぽく言われた。

何もわかっていないから渡航者ということか。

しかし、確かに手間を掛ければそれだけ値段が上がるのは仕方がない。技術料みたいなもんだし。

それが裕福な市民なら問題ないが、今の街の情勢では厳しいという話だ。

金がなければ切り詰めて生活しなければならない。それは食費でもだ。だから流行らないと言う。


「そういえば生の食材は高いという話だが、食料品店にも置いていなかったな。何か理由でもあるのか?」

「お客さんはこの惑星のこと、どれだけ知っているんだい?」

「え、惑星?」


惑星と言われ、キョトンとしていしまった。


「はぁ、その顔だと何も知らないようだね。この惑星は空気は良いがそれ以外は全部駄目なのさ。土に微量ながら有害物質が混じっててね、野菜や魚など、この惑星で取れた物は全部食べられないのさ。水はかろうじて濾過すれば飲めるが生水は駄目だね。腹を壊すよ。そういうことで、ここで作られる野菜は全て水耕栽培で、しかも水は濾過しなければ使えない。だからコストが掛かって高いのさ。そんな野菜、誰が買うかっていう話さ」

「有害物質て……」

「ああ、有害物質といったって大量に食べなきゃ死ぬようなものじゃないよ。体の中に入ると腹を壊すだけで、それさえ気をつければ問題ないさ。それにたとえ大量に食べたとしても、医療ポットで除去剤を注射すれば助かるレベルだ。生活できないようなものではないね。ただ、面倒なだけでね」


定期的に健康診断を受けないといけないようで、それが面倒だと言っていた。知らないうちに食べていて、体を壊している、何てことも無いとは限らないとのことで。

しかし、死ぬことはないとはいえ、よくこんな所に住もうと思ったものだ。

自給自足ができない環境なんだから、住むなんて考えないだろう、普通。

何か理由があるとしか思えないが、まぁ、国が考える事なんて分かるはずがない。それに住んでいる市民も、わかっていて住んでいるようだし、みんな納得しているのなら何も言うことはない。

それ以上は聞かないことにした。


「生の食材が高いのは分かったが店に何も無いというのも変な話だ。高くても買う人はいるだろう? 1人や2人ぐらいは」

「昔ならいただろうが今はいないね。それに流通が制限されていてうちらには回ってこない。全部、惑星外に出荷され代官の懐に入っている。生野菜は高額で取引できるからね。うちらに回すよりは外で売って儲けた方が良いということさ」


代官ということは、この世界は貴族制なんだろうか?

てっきり民主主義が発展しているかと思っていたのだが。


「この国は誰が治めているのだ?」


あれ、おばさんがびっくりした顔をしている。不味いことを聞いたみたいだ。


「お客さん、旅行者では無いのかい? てっきり旅行者だと思っていたんだが」

「あー、旅行者に変わりは無いんだが、ちょっと事情が複雑でね。気が付いたらここにいたんだ。だから惑星のこととかよく知らなくて、ハハハ……」


引き攣った笑顔で誤魔化す。

それ以上は突っ込まないでね。答えられないから。


「まさかと思うが密航者では無いだろうね。不法滞在は重罪だよ。気を付けな」


鋭い目で睨むおばちゃん。

そっか、パスポートが必要なのか。気がつかなかった。

魔王がいた異世界はどの国にいくにもそんな物は必要なかった。金さえ払えば入れたからな。

気をつけなければ。


「違うよ。密航者ではない。ほら、この通りカードもあるでしょ? 手続きしてここにいるのさ。だから大丈夫だ」


貰ってきた?カード、正確には盗んできたカードだが、それをチラッと見せた。

この国で作られたカードであれば身分は証明されているということだ。審査とかあるだろうからね。

おばちゃんはチラッと見たが、興味なさげに直ぐに視線を外した。


「そうかい。まぁ、お客さんが密入国者だろうが不法滞在者だろうが金さえ持っていれば気にしないよ。うちらも稼がないと税金が納められないのでね」


そんなことを話していると料理ができたようで、おばちゃんが取りに下がった。




ご覧いただきありがとうございます。

ストックがある間は、小まめにアップしたいと思います。

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