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黒坂璃々音という少女

Side:黒坂璃々音


「じゃあ次、白木~」


あ、次は白木君なんだ。

先生の声に私はぱっと顔を上げて、白木君をみた。

女子と男子が座っている位置は、指示があったわけじゃないのにどことなく離れている。

私と白木君の距離も離れているけど、彼の姿は良く目についた。


「はい」


呼ばれて立ち上がった彼は、背筋がすっとしていて、いつも通り堂々としていて、キリっとした表情だ。

かっこいいなぁ。


友達は白木君のことを「仏頂面で怖い」っていうけど、そこがかっこいいと思うんだけどなぁ。毎日1人で剣道の朝練をしているところも真面目な白木君らしくて良い。


「あ、璃々音の王子様じゃん」


ぽやっと白木君を眺めていた私に、隣に座っていた綾子ちゃんがそう言った。

綾子ちゃんは幼稚園のころからの友達で、当然私の気持ちも知っている

「やめてよもぉ。脈ないんだから…」


体育座りしていた膝に顔を埋める。

綾子ちゃんは「うーん」とうなってから言った。


「唯一する会話があいさつだし、その上相手はあの無愛想っぷりだし。へこむのもわかる」


「うぅ~…」


私がヘタレなせいで自分から「おはよう」と言うのが精一杯だ。顔だってきっと真っ赤だろう。

一方、定宗君はクールな表情を崩さない。

…まぁ、あいさつくらいで舞い上がっている私がおかしいのだけど。


「いうてなぁ、小学生のころはよく遊んでたのにね」


「そうなの。いつの間にか疎遠になっちゃって…」


気づいた時にはお互い苗字呼びになっていて、今ではもう同じクラスという事しか接点がない。

一言も話さなくなったらいよいよ他人になってしまう気がする距離だ。


定宗君がボールを投げる位置に立ち、肩を回して準備運動をしている。

彼の友達や元気な野球部が「がんばれー!」「飛ばせー!」と気楽な声援を送っている。

鷹のように揺るがない目をしながら、その声たちに律儀に片手を上げて返事をしている。私も応援したいな。


「がんばれー…」


「絶対聞こえないって」


綾子ちゃんが呆れた表情で言った。

正論を言われた私は言いかえせずに頬をふくらます。


「聞こえたら恥ずかしいからこれでいいんだもん」


定宗君は肩を引いて、しなやかな筋肉がついた腕がボールを投げた。

新幹線みたいに、放たれた矢みたいに、ボールは綺麗な軌道を描き、クラス記録に並ぶ距離に落ちた。


「白木やべ~!」「やっぱ野球部入れよお前~!」と飛ぶ賞賛にも定宗君は表情を変えず「剣道部があるから無理だ!」と返している。


私は頭を抱える。

「かっこいい~…」


顔が熱くなる私とは対照的に、綾子ちゃんは悠々と言った。


「でたね~堅物身体能力オバケ」


「かっこいい…クラスの女の子がみんな定宗君のこと好きになっちゃう…」


深刻な危機だ。定宗君をめぐっての戦いが始まる。

今からでも筋トレとかしておいたほうが良いかもしれない。

対して綾子ちゃんは首を傾げ、厳しい評価を出した。


「どーかなー。堅物すぎてちょっと…ってのが大体の女子の意見だしねぇ」


「アンケートとかとったの?統計間違ってない!?」


堅物すぎてちょっとって何!真面目でかっこいいじゃん!

結婚する人も付き合う人も真面目な人が良いよってお母さんもおねぇちゃんも言ってたし!

という気持ちそのままに、綾子ちゃんに詰め寄る。


「近いし勢いが怖い。もちろん悪口じゃないよ。でも派手さがあるほうが大概モテるよね~」


「世の中間違ってる…」


「あと白木ってさぁ。ちょっとムッツリっぽいよね」


「はぇ!?」


急な話題に驚いて肩が跳ねた。

綾子ちゃんは飄々としている。


「あーいう仏頂面こそ、意外とそういうのに興味ありそうじゃない?」


「そんなことないもん!真面目な人だもん!!めいよきそんだぁ!」


この間見たドラマに出てきたセリフと一緒に綾子ちゃんを指さす。


「まー思春期だしなぁ。そんなもんだとおもうけどね」


綾子ちゃんだって同じ思春期の癖に、ずいぶんと他人事みたいに言う。

その姿を見ると私はむぅっと口を閉じるしかなかった。


そして、2回目の投球も終えてもとの位置に戻る定宗君を視線で追う。

私だけなのかな、普通は綾子ちゃんみたいにサッパリしてるのかな。

定宗君ともっと話したいし、手とかつないでみたいし…キスとかしてみたいし。

朝にあいさつした時だってそんなことを考えてちょっとぼーっとしてしまった。


はぁ、と大きくため息をつく。

ムッツリなのは私のほうなんじゃないのかなぁ。




===


(どうしたんだアロマさん?黒坂さんの方をみて、なんか納得いったような顔をしてニヤニヤしているが…)


(いや~?綿あめミックス味の理由がわかったな~と思って)


(そうか、それはよかったな)




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