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恋はたまに怖い

掃除を一通り終わらせてから急いで着替えた。そして教室棟に向かえば、登校してきた生徒達でにぎわっている頃だった。ふぅ、と息をつく。


(間に合ってよかったね~)


アロマさんは俺の右上、生徒たちの頭上より少しだけ高い位置で飛びながらついて来ている。


(アロマさんも掃除を手伝ってくれてありがとう)


(いーよー。することなかったし)


正直、手伝ってくれなかったら雑巾がけまでは終わらなかったかもしれない。

アロマさんはきょろきょろとあたりを見回していた。

その様子を横目でみて、顔を正面に向けたままテレパシーを送ってみる。


(物珍しいか?)


(そうだね。でもあたしが通ってたとこもちょっとにてるかも)


驚いたが表情には出ださなかった。仏頂面もたまには役に立つ。


(サキュバスの世界にも学校があるのか?)


(あるよ~。テレパシーとか透明化とかは学校で習うし)


サキュバスの、学校。

…何故だ。なんとなくいかがわしい気がしてしまう。

いや、こんなに役立つ技術を教えているんだ。きっと真面目な学校だったのだろう。

首を振って邪念を追い出す。


(学校の様子っていうか、定宗くんの好きな子探してる~)


「ぐわっ!!」


大声が出た。びっくりした。

周囲にいた同級生たちが何事かと俺を振り返る。

口元に手をやって気まずく下を向いていれば、特にそれ以上は気にされなかった。


(大丈夫?)


(大丈夫だ。というかそれが目的で来たのか…)


(そりゃ定宗くんの反応見てたらきになるでしょ~)


アロマさんは楽しそうな声音だ。

今まで誰にも話す機会のなかった好きな人の話をこんな形で明かしてしまって良かったのだろうか。いや、バレてしまったものは仕方ないか。

右上にふわふわ浮かぶ人影を見つつ、覚悟と諦めを混ぜた息をつく。

その時、廊下の角を曲がってくる人影を見つけた。


廊下にあふれる人波を、軽やかな野兎のようにすり抜けていく人。

さらりとした黒髪は肩につく前にくるっと外を向き、動くたびに子犬の尻尾のように揺れている。

リンゴのように赤い頬と、陽を受けて輝く瞳を持った彼女、黒坂璃々くろさか りりね…さんだった。

ぼうっとして棒たちになっていた俺を、彼女の大きな目が見つけた。


「あ、白木…くん。おはよう」


「あぁ。おはよう黒坂さん」


2秒くらいお互い何も言わない間があって、どちらからともなく教室に入った。

彼女の後ろで俺はこっそり息をつく。緊張した。


(あの子だね)


アロマさんの声は非常に冷静で確信を持っていた。

探偵に名指しされた犯人のように、俺は体を固くした。


(ぐっ…。何故わかる…)


下唇を噛みながら振り返ると、そこには天井にくっついてさらに歪に広がる巨大な綿あめがあった。入道雲かと思った。それのせいで俺からは教室に入ってくる他の生徒がまったく見えない。

それを支える棒を持ちながら、アロマさんは俺をまっすぐ見ていた。


(逆にこれで違ったら怖いよ)


(そう、だな…)


俺も怖い。



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