古代の大百足
古代百足の巨大な口から強酸が噴出する。
「っきゃ!」
俺はナタリアの肩を掴み後ろへ突き飛ばす。ナタリアはバランスを崩し尻餅をついた。
その直後、先ほどまでナタリアが居た位置に強酸の雨が降りかかる。
ほどなくしてジュージューと地面が沸き立つ音が聞こえてきた。
さて。少し状況を整理しよう。
前方には7mほどの大きさの強酸持ち巨大ムカデ。
穴から半身を乗り出して俺たちに襲い掛かろうと睨んでいる。
対する俺たちは魔力の残量が少ない初心者魔導士と死体という重い枷を背負っている。
あれ?これ詰んでね?
…いや思考を放棄するにはまだ早い。こういう時は逃げの一手に限る。
「ナタリア、立てるか?」
「っはい」
「魔法はあと何回使える?」
「1回は確実に打てます。2回は魔力切れで気絶しちゃうかも…」
瞬間、古代百足の脚がワナワナと動き出した。
飛びかかりの合図だ。
「…作戦会議中に攻撃するなんて悪い子め。」
俺は剣を構え、いなす準備をする。
「ナタリア。閃光の準備を。」
俺が言い終わる直前、奴が飛びかかってきた。
想像してみて欲しい。顔のサイズが1mぐらいのムカデが全力で噛み付いてくるところを。
「たまったもんじゃないな。」
俺は剣で受けつつ、相手の勢いを活かして横の壁に叩きつける。
体勢を崩した古代百足の大量の足の一部を切り落とす。
古代百足は怯んで後退りする…訳もなく口をガバッと開けた。ムカデの口の奥から特殊な管が見え隠れする。
「マズイっ」
俺は咄嗟にナタリアの方へ飛び出してナタリアの横に転がる。
「キャっ」
先ほどまで俺の居た場所は酸の海。
少しでも遅れたらと思うと冷や汗が出る。
古代百足が顎をキチキチと鳴らした。
俺は死体袋を思いっきり後ろへ放り投げる。
すまんなペンタクール。
「数秒欲しいな。」
身体が軽くなった。
俺は剣を振り顎に引っ掛ける。そのまま顎の一部を切り落とした。
緑色の体液が飛び散る。ようやく古代百足が少しのけぞる動作を見せた。
今しかない。
俺はなけなしの魔力を腕に込める。これで俺の魔力はほぼゼロになるだろう。
「ナタリア、左目を頼む。」
「左目…?…あ!了解です。」
「太陽の神よ。永劫に近きこの闇を、今払わんとする光を授けたまえ。閃光」
「閃光」
俺とナタリアの魔法が木霊する。戦闘に夢中で今まで気づかなかったがナタリアは無詠唱で魔法を唱えることができるようだ。かなり高度なこととされている。
俺は右目に、ナタリアは左目に。まるで太陽のようにギラギラとした光が放たれた。
キチキチと顎を鳴らしながら古代百足は後ろにのけぞる。十数秒ぐらいは目が見えないはずだ。
「今だ!!!」
俺は投げ飛ばした袋を拾い叫ぶ。
「にっげろ~~~!!!!!!」
俺たちは全速力で一本道を引き返した。