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世界に1人だけの魔物学者  作者: べるりん
迷宮案内人ローラン
3/26

契約


「俺はローラン。君、名前は?」


刃についた血を布で拭いながら彼女の方をみる。


「ナタリア‥です。」


ナタリアと名乗った彼女をよく見ると、濃い桃色の髪の毛に青い瞳、キリッとした眉毛など端正な印象を受けた。


彼女の肩と脚を見る。脚には小さな咬み傷があり、肩口は肩から胸にかけて大きな裂傷があった。


そこから血が少しづつ流れているようだった。


「これを飲め。」


俺はポーチから澄んだ赤い液体の入った小さなフラスコを取り出して渡した。


「これは?」


「俺が作った回復薬だ。深く無い傷ならすぐ治る。もっとも失った血は治らないが」


「ありがとうございます」


ナタリアはフラスコの栓を開けてグッと飲んだ。

その瞬間彼女は顔をくしゃくしゃにして呻き声を上げた。


「うっ!ウォェ!」


「言い忘れていたけどそれは死ぬほど苦い。」



一瞬すごく睨まれた気がするが気のせいだろう。



「あ、すごい…傷が消えていく。」


彼女にあった全ての傷はきっれいさっぱり消えたようだ。


「回復薬なんてそう珍しいものでもあるまい。」


「いや…、ここまで即効性のあるものは魔法でしか見たことありません。どうやって作ったんですか?」


「内緒だ」


海霊馬(ケルピー)の生き血と小竜(ドレイク)の糞、ルビーゴキブリを砕いて混ぜたモノだと知られたら怒られそうなので黙っておいた。



「奥に私の仲間が逃げたんですけど見てませんか!?」


ナタリアは傷の具合を確かめながら立ち上がった。


「見てないな。向かうつもりか?」


彼女はこくりと頷いた。


「おすすめはしないな、君は血を失いすぎているし俺1人では大軍相手は無理だ。全滅してもおかしく無い。」


「で、でも!!」


「それに」


俺はナタリアに近づき、髪と服の匂いを嗅ぐ。


「な、何するんですか!!!」


フローラルな花の匂い。

やはり種類はわからないが香水をつけているようだ。


「レッサーバット然り大抵の魔物は鼻が効く。香水をつけてダンジョンに潜るなどもっての外だ。」



「…それは、知りませんでした。ごめんなさい。」


彼女は俯きながら言う。


「で、でもどうしても助けたいんです!!!」



さて、どうしたものか。



「…俺の見立てではその仲間はすでに死んでいるはずだ。君ら見るからにダンジョン初心者だろう?あの量のレッサーバットは中級者のパーティーでも対処が難しい」


「………」


ナタリアは俺の言葉に何も言わずに聞いている。

歯を食いしばって今にも泣きそうな顔をしている。それほどまでに大切な仲間なのだろうか。



冒険者というのは死と隣り合わせな環境なため、助からないと踏んだ相手はすぐ損切りをする。


ナタリアのような人間は珍しい。


俺はナタリアを見て思案する。


俺がコイツのために命を賭けるメリットはあるのか。


ナタリアはダンジョン初心者だ。連れていくだけ足手纏い…それにもう彼女の仲間はレッサーバットに食われている気がする。


…待てよ?


何でナタリアは《《ダンジョン初心者》》なのに高価であるはずの香水を付けている?? 

相場は知らないが香水は上級の冒険者や貴族、王族でしか手を出せない程高いはずだ。


俺はナタリアの装備を見る。



「少し貸せ」


「はっはい」


杖を眺める。杖は質素で素朴な形をしているが、よく魔力が通っている。いい杖だ。


そしていい杖といえばどこかに……


あった。


上物の武器には必ず制作者の名前が彫ってある。



《《オットー・ハルトマン》》と銀色の魔法文字で小さく彫られていた。


ハルトマン…王都で有名な高級杖店だ。


間違いない。なぜダンジョンに潜っているかはわからないが、ナタリアは上流階級出身の人間だ。



俺の夢、本を出版するにはとにかく金がかかる。大量の羊皮紙、なめし革、そして活版印刷機。どれも揃えるには家を一つ建てるぐらいの金がかかる代物だ。



差し当たって貴族や商人へのコネクションがいつかいると思っていた。


つまり、俺にナタリアに恩を売る理由(メリット)が生まれたと言うことだ。



「…死体を回収してすぐに蘇生を行えばまだ助かるかもしれない」



俺の言葉を聞いてナタリアは顔を明るくする。


「じゃあ……」



「君は冒険初心者だろう?冒険者というのは金と利害の関係だ。無償で結ばれる関係は綻びが生じやすい。しかし冒険者は仕事の関係は絶対に守る。自らの信用に関わるから。」



「ナタリア、俺を迷宮案内人として雇え。そうすれば俺は君を君の仲間の元まで連れてってやる。生きてるなら助けるし死体が残っていたら回収、蘇生を手伝う。」


俺は手を差し出す。


彼女はその手を握り返して


「わかりました。」



歪な雇用関係が結ばれた。




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