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世界に1人だけの魔物学者  作者: べるりん
迷宮の異変
16/26

岩窟

俺が本で調査をし始めてから8日。俺はあらかた(ドラゴン)についての情報を整理し終えた。


(ドラゴン)についての情報についてはおいおい話すとして…


今、俺は王都の正門で人を待っていた。

俺は宮殿の方をチラリと見る。朝の木漏れ日が差し込んで白い宮殿は、星のように輝いていた。


「遅れました~っ」


俺は後ろから声をかけられる。振り向くとそこには小走りで向かってくるナタリアと、一礼してこっちへ向かってくるペンタクール。ナタリアは杖を後ろに背負い、桃色の髪の毛を纏めてポニーテールになっている。ペンタクールは以前迷宮で見かけた装備を纏っている。右の籠手の部分だけどうやら外れているようだ。若干日焼けた肌に反するように真っ白いズボンが映えている。


「お久しぶりです。ローラン殿、今日は迷宮へ行くと伺っております。」

ペンタクールが目を合わせ確認してくる。


「あぁ。すこし入り用があって海霊馬(ケルピー)の素材を取りたいんだが…。ほら組合(ギルド)から注意が出されているだろう?」


組合(ギルド)からの注意とは、(ドラゴン)出現によって魔物の分布が変化したため危険だからソロでの迷宮探索が一時的に禁止にするとのことだ。もちろん(ドラゴン)が出たという情報は伏せて。


「なるほど。それでパーティーを。でも私たちで良かったんですか?ローランさん曰く私たちは迷宮初心者なんでしょう?」


ナタリアが口を挟む。


「それは…根に持ってるならすまない。悪意はないんだ。

俺は依頼(クエスト)を全然やってこないから冒険者の知り合いが少なくてな。それに2人なら声をかけたら来てくれると思って。」


迷宮で売った恩は迷宮で返してもらうのだ。


「理解しました。では本日はよろしくお願いします。」


俺たちは再度、迷宮へ歩み出した。



俺たちは現在は迷宮入り口前へ来ている。


海霊馬(ケルピー)は迷宮三層、迷宮内の巨大地底湖に住む魔物で馬の見た目でありながら水棲生活を送る奇妙な魔物だ。

と言っても海馬のように馬そのままが水に沈んでいるのでは無く、後ろ足は大きな尾鰭に、首元にしっかりとエラが生えている。


「今日は三層の地底湖まで直通で向かう。消耗もしたく無いし1、2層を最短で突破する。」


「へぇ、ずいぶん早いですね。」


「何が出てくるかわからないしな…それと」


俺は徐にナタリアに近づき…とナタリアが手で制す。


「香水はつけてませんよ。私も、ペンタも。学びましたから。」


「それは良かった。」


そしてナタリアは眉ひそめて付け足してくる。


「それで、今回もするんですか?うんちシャンプー。」


「いや、必要ない。今回はレッサーバットの巣窟は通らない。」


俺の言葉を聞くや否や、ナタリアは顔を明るくして足取りが速くなる。わかりやすい奴め。


安全地帯(セーフティポイント)についた俺たちは最後の装備の点検をする。ナタリアは杖に魔力の通りを確かめていたり、ペンタクールは槍の先を磨いているようだ。


俺も持ち物の点検をする。投げナイフに、普段用の剣。自分で作った回復ポーションに、乾パン、干し肉。ランプ用の油、火打石…etc。後ろに背負っているナップサックにはもしもの時の死体袋と採血用キット。そして魔法の素材袋。

魔法の素材袋は空間魔法により空間を拡張してある袋だ。通常の何倍もの量の物が入る。

…故に高い。俺の持っている魔法の袋は海霊馬(ケルピー)1頭ぐらい丸々入る大きさを持っているがコイツを買うために一年分の貯金を使うことになった。


そして今回使うのは採血キット。何を隠そう今回俺は海霊馬(ケルピー)の生き血を摂りにきたのである。


昔言ったように俺の回復ポーションは海霊馬(ケルピー)の生き血を調合用として使う。今回はコイツのストックがきれかけているので採取をしに行くのだ。そのついでに迷宮の様子を見れたら尚上出来である。


よし、準備はできた。


「皆準備はできたか?ここからは気を引き締めて。じゃあ行くぞ。」



赤黒い空間に洞窟を一歩、踏み出した。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


さて、迷宮一層を最短で抜けるにはどうしたらいいか。

答えは簡単、「整備された道を行く。」だ。


第一層はそこまで広くないため、壁掛けランプで照らされた道を行くと第二層へ繋がっている。


わざわざ好き好んで横道にそれなければスライムなりレッサーバットなりには基本的に出くわさないのだ。


…何でナタリア達は前、レッサーバットの巣窟に迷い込んだんだ…?と思ったが口に出さないのも優しさである。


「そういえば、ナタリアとは共に戦ったことはあるがペンタクールとはない。お前はどれくらい戦えるんだ?」


「ペンタは私よりも数倍は強いよ!」とナタリア。


「それは買い被りですよ。ナタリアさm、…コホンッ。ナタリア。メヴィア槍術より黒の位を承ってはおります。黒の位というのは…そうですね。王国の聖騎士ぐらいには戦えると思ってください」


「そうか。では期待する。」


メヴィア槍術は聞いたことがある。メヴィアに伝わる特殊な槍の使い方。貫通力に特化した戦い方をするのだそうだ。位については詳しくは知らないが聖騎士ほどの戦闘力と見ると二層までは難なく潜れるだろう…というのが俺の見方だ。


ちなみに俺はソロで深層まで潜れる、珍しい人材らしいが戦闘力はそこまでない。一重に俺がソロで深層まで行けるのは魔物の知識と迷宮の構造を知り尽くしたからであり、魔物と真っ向勝負すればぺちゃんこだ。


結論から言うと一層は難なくクリアした。

古代百足(アースロプレウラ)は愚か一体も魔物には遭遇しなかった。かえって不安になるほどに。


一層と二層の継ぎ目、青白い苔が繁茂し始める辺りで俺はおもむろに苔を剥ぎ取る。


「何してるんですか?」

ナタリアが興味深々で聞いてくる。


藍藻(アイダモ)…二層全体に生え散らかしてる別に珍しいものでも何でもないがコイツを集めている。家でハッコウナメクジを飼育していてな。これを食べるとよく光るんだ。」


「ナメクジって飼うものなのですか?」とペンタクールが聞いてくる。


もしナメクジ愛好家が聞いたらショックを受けるだろう。


「…まぁ趣味みたいなものだ。それに上手く使えばランプの代替品に使えるのではと言う下心もある。」


ハッコウナメクジは食べたものによって光の種類が変わる。いろいろ試したがこの苔が一番好きな色を出す。


それを聞いたナタリアが何かに気づいたように声を明るくする。

「へぇ…ランプ、あ、ローランさんランプなら私の魔法でも似たようなことできますよ!」


「みててください!」


そう言って彼女は杖を構える。俺は彼女の手にから杖へ魔力が流れ杖の先に凝縮するのをみていた。


導火(ルッキオラ)


彼女が一言呟くと、温かい小さな光の玉が彼女の周りを照らしだした。光の玉には羽が生えていて…中に小さな炎が…いろんな魔術の性質が混ざり合ってしまってるな。


だけど、あいもかわらず無詠唱……やはりナタリアは魔術の才に恵まれているな…それに…


「…閃光(フラッシュ)の応用か。魔力回路を書き換えるなんてすごいな。俺にはできん。名付けも自分で??」


褒められたナタリアは嬉しそうに

「えへへ、そうなんですよ。古代語から蛍を意味する言葉を取りました。こんなんでも安定するのに1ヶ月ぐらいかかったんですよ?」


無詠唱ができると言うことは魔力回路を隅まで理解しているということだ。書き換えも容易ではないが行えるのだろう。


若い才って羨ましい。彼女はこれからどんどん伸びていくだろうな。


「暇があったらそいつの魔力回路を書いて俺にも見してくれ。その魔法は使ってみたい。…今はその光は後ろを照らしておいてくれ。前は俺のランプで照らす。」


これは本心。導火(ルッキオラ)が使えたら俺のランプの燃料高すぎ問題は解決する。


そんな下世話なことを思いながら俺たちは二層へ踏み込んだ。


二層からは壁掛けの松明が無くなる。仄かに青く発光する苔に覆われた洞穴である二層では迷路のように細い道が入れ込んでいる。一層よりも横に広がっているが、道が入り組んでいてより閉塞感を感じる。そんな洞穴だ。


「ここが二層、ジメジメしてておまけに狭い~」


「ローラン殿、二層にはどんな魔物が出るので?」


「…二層には一層から引き続きスライムとレッサーバット、そしてスライムの進化にあたるアッシドスライム。それにスケルトン種が多数。…二層は別名魂の溜まり場と言ってな、不死者(アンデット)が多いことで有名だ。」


ちなみに不死者(アンデット)は厳密には魔物じゃ無い。祈祷術等の類で動いている魔導生物と言った方が正しい。要はゴーレムとおんなじ括りだ。


「死の魔術で動くようにプログラミングされているので、光の魔術で浄化、殲滅が可能だ。」


正直俺は不死者(アンデット)には興味はない。だって生きてないんだもん。魔物のような面白い生態もなければ、特殊な技能も持ってない。要するに面白みがないのだ。


「あと特筆すべきは…っと聞こえてきたな。」


「!?」


ナタリアはペンタクールの方ににじりよる。

何をこんなに驚いていうのかというと答えはこの羽音、

幾本もの道の先々から聞こえてくる鈍い羽音。レッサーバットとは違う。小刻みにビートを鳴らしている。


個人的に二層で一番厄介な魔物。それは鋭い顎と、毒針、馬鹿でかい羽を持ってタチの悪いことに群体行動をとる。迷宮の羽蟲


陽虻(アロギリオス)だ」


アロギリオスとは南方の国の言葉のアブと太陽から来ている。


「運悪く、徘徊中らしい。…もっともこのルートは奴らの群れには当たらないはずだが…」


陽虻(アロギリオス)は決まった時間に決まった場所を飛び回る。めんどくさい相手だがルートを知っていれば出会うことはない。


出会うことはない…のだが。


やはり(ドラゴン)の影響か。奴らの縄張りが変化したらしい。



「うえぇ……大群にはいい思い出がありません!!」


ナタリアが叫ぶ。俺もそう思うよ。



「次期奴らに見つかる、ここで罠を張って迎え打とう。」




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