王女レジーナ
「お父様に、お話があります」
直轄騎士団と聖騎士団がローザリア城に戻ると、鎧を着こんだままのガイゼリック王にレジーナ王女は呼びかけた。
父と娘の再会に笑顔はない。
「なんだ?」
「夫がロンダルギアで反乱軍を結成しているとの件です」
「それがどうした?」
レジーナの美しい顔に不快な表情が一瞬。
自身の父王は勇者たる夫を魔王と呼び、討とうとしている。
「夫が闇の一族と聖魔の盟約を結んだのは、光と闇の統一であって、大陸の覇者になろうとしているワケではありません」
「……ヤツがローザリアに戻れば、レオンハルトを人々はこう呼ぶだろう〝聖魔王〟と。まさに覇者にならんとしておる。自由と理想を重んじてな。ワシは光の法と秩序をヤツから守らなければならん」
「及ばずながら……私も陛下と同じ思いです。従姉には申し訳ありませんが……騎士の一分としか言えませぬ」
王と姫の間に口を挟む護衛騎士。
もちろん王族であるグリルヴァルツァーだからこそである。
「夫が覇権を掴もうとするのは、アスガルドの平和のため、各種族が平等となり、二度と戦のない世の中にするためです」
「ヤツに何を吹き込まれた? ワシとヤツの考えは同じだ」
「お父様と夫の考えでは、種族の公正さが違います。影は光の隷属ではありません」
「どうやらお前は地下迷宮に幽閉され、洗脳も受けてしまったようだな。グリルヴァルツァーよ、レジーナを部屋に連れていけ」
「誰か、姫を丁重にお連れしろ」
王は衛兵と侍女を呼ぶと姫を部屋へと下がらせた。
父と娘の袂を分かつ瞬間だった。
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レオンハルト率いる闇の勢力1万vs光の勢力4万
この死闘は後に〝英雄戦争〟と呼ばれることになる。
そう、勇者が5人もいたのだ。
王国軍の主力はレフガンディーに集結したが、イシュタル会戦と相違する部分は大隊規模だが、国王直轄騎士団が参戦していることだ。
この騎士団が王城の警備たるのか、レフガンディーで動くのかはレオンハルトも想像に難しく、籠城と出撃に頭を悩ませていた。
籠城すれば、兵力と補給が乏しいことが確実に知られてしまう。
出撃すれば、移動だけで新生魔王軍は疲労を極めるが、敵に策ありと思わせることができるかもしれないと考えたのだ。
砦を持たない魔王軍は移動する際に駐屯するしかない。レフガンディーを手に入れなければ、この戦いは負ける。
だが、戦の準備中であるロンダルギア城に魔法騎士の使者が現れた。降伏か全滅か_________
「降伏を促したが、攻撃を受けた」とレジーナ王女に対する叔父としてのシュターゼンの僅かな配慮。
レオンハルトは「戦場で相まみえる」と伝え、丁重に使者を見送る。
ロンダルギア王城戦はこうしてはじまった。
勇者レオンハルト、大賢者シュターゼン。
ともに至高神レイアの軍旗を掲げた光の軍勢であった。