聖魔王レオンハルト
「叛乱軍? 俺が魔王だと!?」
ロンダルギアの王城で勇者レオンハルトは絶叫した。
ヴァ―レンファイトから秘密裏に届いた手紙には、レオンハルトがアスガルドを統一する覇者になるべく、闇と手を結んだとある。
敵対してしまうヴァ―レンファイトであったが、レオンハルトにレフガンディーの情報を伝えることにした。
それは作戦の詳細ではなく、若く才能に秀でるレオンハルトに逃げてほしいという願いだった。
「王国軍は完全に魔族を駆逐するというのか……」
レオンハルトにとって、これは光の一族との戦いだけではない。
妻のレジーナ王女はローザリアにいる。
そして、魔王軍が壊滅し、疲弊している魔の一族を差し出すというのも勇者たる彼にできるはずもなかった。
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「ま……ゆ、勇者様に拝謁いたします!」
その時、ロンダルギア王の間にかつての戦鬼兵団の参謀オーヴェルシュダインら幹部が集結した。
彼は気を失っていたことが幸いし、少数の戦鬼兵と降伏していたのだ。
レオンハルトに差し出された書状は王国軍の宣戦布告。
『至高神レイアの使徒としてアスガルドの太平を守護す』と文章はむすばれていた。
「……神が何をしてくれると言うのだ?」
レオンハルトは書状を握りしめると、魔王の玉座に座り、頭を抱え込む。
滑稽だ、と思った。
勇者の刻印が施された正義の鎧兜を着込み、光の盾、聖魔の光剣を両手に持つ自分が、光の勢力から魔王の玉座で闇の勢力の存続を考えなければならない。
「勇者様は何故にローザリアにお戻りになられないのです?凱旋し……我々にもう一度討伐軍を差し向ければ、汚名は晴れるはず」
そう言うのは、ダークエルフィンの魔戦士だった。
ハイウェルラインはダークエルフィン族のNo2だった男。今では族長。
レオンハルトは今まで高々に上げていた聖剣を逆に柄頭が上になるようにグリップを握った。
それは魔王の錫杖のよう……。
「降伏した兵だけでなく、女子供まで殺そうとする光の勢力に女神は微笑まないさ。俺は専制を否定するつもりはないが、君主と臣下の主従がいいとも思わん。君たち魔族はそれが嫌で、平等で対等な友達を作りたくて闇に隠れたのだろう?考え方が違う者を至高神レイアの名を借りて戦争するというのなら……」
レオンハルトは歩き出す。
勇者の後を新生魔戦将軍たちが追った。
悩みながらもレオンハルトの本隊に従軍していた光の一族もその後を追う。
王城から出て、集う民衆の前に出る。
新しい魔王はどんなヤツなのかと興味深々の子供たちがレオンハルトの覗き込む。
魔王が代わった途端に食事がとれるようになったのだから、ロンダルギアの子供たちはレオンハルトを見て喚起していた。
正義とは……。
「我らは神に挑む! アスガルドに真の平和を!!」
勇者であり、魔王であるレオンハルトは闇の群衆の喝采の中で誕生した。
聖剣と闇の水晶球の光は、燦然と対等の光を放つ。