4将軍
幕舎が開き、各軍団を率いる大将たちが現れる。
聖騎士団長ヴァルハーディン侯爵、魔法騎士団長シュターゼン侯爵、エルフィン族長ヴァランギース、ドワーグ長ガルフリードの4名だ。
「総司令官殿、意見具申に参りました」
一同を代表して剣聖と評されるヴァルハーディン侯爵が述べた。
4大将で最年長であり、実戦経験豊富な聖騎士。
だが、勇者はヴァルハーディンに続ける必要はないとジェスチャーした。
「卿らの言いたいことはわかっている。我軍は数に劣り、進軍も遅れをとっている、と言いたいのだろう」
「仰る通りですぞ、勇者殿」
ヴァルハーディン侯爵ではなく、シュターゼン侯爵が前に半歩あゆみ出て応じる。
大将の刻印が刻まれる鎧に漆黒のマントが魔導師のローブを思わせる。王都にある賢者の学院の創始者である彼は博識で知性ある者を好む。
彼が総司令官ではなく、勇者殿と呼ぶのは、やはり次期国王となるレオンハルトを若輩と見ているからであろう。シュターゼンは勇者の妻の叔父。賢者であり、王弟である。
「偵察兵の話では敵の数は2倍、我軍から見て、左将軍オーガ族ゴルダーグが率いる戦鬼兵団は歩兵ですが、右将軍ダークエルフィン族イースレイ率いる妖鬼兵団には獅子鷹騎士隊がおり、ヤツらは上空から進軍し、我軍を後方から挟撃せんとするでしょう」
勇者は睥睨たる眼差しで大将を直視。
「我軍は負けると言いたいのか?」
「とは言いませんが、あまりに不利すぎる」
シュターゼンは地形図にある自軍のコマを下げる。その位置はレフガンディーの砦。王国軍の兵站の要である。
「中央後方に位置する魔王軍の本隊も歩兵。補給も乏しい。我々はレフガンディーに兵力を集中させ、地の利ある砦にて敵が遠征で疲労のピークに達するところを全軍で迎え討つのです」
シュターゼンは軍事拠点での籠城戦を提案したのだ。
「卿の案も一理ある。だが、籠城戦など思いもよらぬことだ」
「なっ!?」
他の3名も困惑している。籠城戦であれば、引き分け以上の成果があると一致していたのであろう。
シュターゼン大将の表情は孺子と言いたげだとわかる表情だ。
「我々は魔王軍より、圧倒的有利にコマを進めている!」
勇者は自軍のコマを掴むと自軍から見て右、右将軍イースレイの妖魔兵団を弾き飛ばした。
「俺が有利とするは、敵は分散していることだ。平均2万に分けたとして右側の軍より、我軍は1万も多い。グリフォンは長距離の移動には向いていよう。しかし、鳥目で夜は飛べない今は移動していない。かつ、飛竜よりその羽毛で覆われた皮膚は弱く、地上に降りればペガサスのように走ることはできない。逆にグリフォンがいるからこそ、火矢を装填した弩銃と近接格闘の波状攻撃で一気に殲滅することが可能だ」
次に勇者は自軍のコマをそのままに進行方向たる角だけを半ば左に向け、そして左に向けた。
「戦場の移動に関しては中央に陣取り、機動力のある騎士団主力の我軍が最短で敵に先制できる。だが、中央かつ、はるか後方の魔王は左側の軍と合流するにも我軍と戦うにも迂回しなければならず、双方主力は歩兵団。つまりは、我軍は敵に対し、配置も機動力も優位である」
そして、勇者は自軍のコマで左軍のコマを弾き飛ばす。
言い負かされたように思われたが、シュターゼンは「う~ん」と腕を組み顎に手を当てる。
「包囲の危機だと? 我軍は敵を各個撃破する陣形が整っているのだ。籠城戦を提案する卿らは消極的で敵前逃亡の恐れすらある。忘れてはおるまいな?国王陛下に命ぜられた任務は魔王軍の撃破だぞ!」
国王と言われれば、やや表情が曇るシュターゼンだったが「しかし……」と続ける。
「勇者殿の考えは敵が想定の動きをしたときであり、兵法の常識からしても承服しかねます」
無能で弱虫だ、と勇者は断定した。こんな男が賢者の学院の教壇に立っていたとは、と。
だが、後にこの考えは大きく誤る。
「卿の承服など要していない。忘れたか? 俺は貴公たちより上位にあり、俺の命令は国王陛下の命令と心得よ」
そして自軍のコマを残る魔王軍本体たるコマの上にバンと置いたのだ。