戦士ガルフリード
「なぜ、もっと早くに救援に来なかった? ヴァ―レンファイト!」
ヴァ―レンファイトと再会したガルフリードは勢いよく彼に掴みかかり、投げ飛ばす。
参謀長は顔色を変えずに、天井を見上げたままだった。
レフガンディーの目の前に反乱軍がいる。
シュターゼン、ヴァランギース、そして甥のマイダスメッサ―までレオンハルトに討ち取られ、ガルフリードの怒りは収まりきるものではなく、金の戦斧を手に取り、再び出撃の準備をはじめた。
この無謀とも言うべき、出撃に賛同するのは炎エルフィン族とエルフィン族をはじめとする同族の敵を討つべく青年騎士たちだった。
レフガンディーに、レオンハルトからの決戦状が送られてくる。
もちろん手紙ではなく、互いに友軍同志だったときに使用していた共通の水晶球を通したモニターである。
『臆病な光の将兵たちよ。要塞を出て堂々と決戦せよ。その勇気がないなら降伏するがよい。聖魔の盟約により、命を奪うことはせん。勇敢にもシュターゼン侯はたった一人でロンダルギアに死を覚悟で乗り込んできた。ヴァランギース王はエルフィン族の族長であるのに殿の果てに血族を逃がすために壁となった。正に勇者たる所業。そこにいるガルフリードは炎エルフィン族の王で上級大将のたる勇者だが、甥のマイダスメッサ―は死を覚悟でロンダルギアの城門を開門し、魔法騎士団を突入させた。貴様と妻の名を叫んで数十の弓矢が刺さりながら任務を完遂し戦死したのだ……俺は勇者を見た。残念なことに黄金の戦斧を継承する叔父のガルフリードはマイダスメッサ―に遥かに劣る___バキィィィンッ!!
「おのれ……レオンハルト!」
ガルフリードは水晶球を破壊し、そぐにでも打って出る形相だった。
だが、これをヴァ―レンファイトは命として防がなければならない。
次にガルフリードを掴みかかったのはヴァ―レンファイトであった。
「敵の攻城兵器は破壊した。要塞の利を生かし、長期戦にもちこんで敵の補給を断つべきであるのに、今出撃して何の意味がある! ローザリアから聖騎士団と国王直轄騎士団が援軍に来れば、この戦は籠城戦にて勝つことができるのです!」
「何を言うか! そもそも貴様ら光人間と亜人族は種族の上下があっても主従ではない! 同じ至高神レイアを崇める光の同志であり、魔族どもの専横からアスガルドの平和を守る目的で結ばれた仲のはずだ。目の前で大勢の血族が死に絶えたというのに命令がましく、自分の意見をおしつけるとは、やはり裏切る気があるのだろう!恥を知れ!」
「笑止!小官は参謀長として最悪の結果をもたらすことのないように忠告している!」
「臆病者はここで隠れているがいいッ!!」
レフガンディー内は2派に別れてしまう。
ガルフリードはエルフィン隊も引き連れ、砦を出撃してしまったのである。
ヴァ―レンファイトはここでローザリアに引けば勝機はあると考えた。
しかし、無謀に出撃した同志たちを見捨てることができようか。
出撃すれば、レフガンディーと物資を奪われてしまう。
ガルフリードが出撃を望むならそうさせればいい。自分は籠城戦あるいはローザリアに撤退すればいい。
勝てるとわかっている……でも、できない。
「混成騎士団はレフガンディーを死守する! 援軍が来るまで持ちこたえるのだ」
ここが落としどころだった。
ガルフリードが撤退し、帰る場所がなくなるのは忍びない。
城門を開ければ、突入され、完全に格闘戦となる。逆に炎エルフィン族戦士の力の見せどころではないか?
ヴァ―レンファイトは大陸最強の戦鬼兵ゴルダークの最後を知っていた。
彼は怪力無双の戦士だった。もう少し、上手に立ち回り、自身の感情を抑えられれば、魔王になっていてもおかしくない戦闘力を持っていた。
無残にも矢と魔法で完全に弱らされ、投擲された槍で致命傷を負い、彼の得意な格闘戦で簡単に散った。一対一で戦う勇気があるならと、ゴルダークはフェアリーに伝言した。
レオンハルトは行かなかったのは何故か。
「――――兵に褒賞を与え、士気を高めるためだったんだ!」
ヴァ―レンファイトはひとりごちて、レフガンディーの城壁に弓兵と魔導師を集めた。
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ガルフリードの指揮する戦士団は、圧倒的な勢いで反乱軍に突入していく。
叛乱軍は弓と魔法の関節攻撃で十分にダメージを与えてから迎え撃つ。
やがて、王国軍が敗走するとレフガンディーの扉が開いた。
追撃する反乱軍も追って、要塞内に突入する。
レオンハルトはヴァ―レンファイトに一計があるのではと考えたが、レフガンディーをおとさなければ補給はなくなる。
「全力をあげてレフガンディーをおとす!」
レオンハルトは決断し、自らも出撃する。
そして、魔戦士たちに命じた。
「ガルフリードは勇者だ! ただし、魔法のなかった旧石器時代のな……ヤツのゴールデンアックスは全てを一刀両断する神聖武器。ヤツに格闘戦は挑むなよ。俺が獲る」
温存しておいた獅子鷹騎士と竜騎士部隊を投入し、全軍突撃を命じた。
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要塞内の格闘戦は熾烈を極めた。
原始的な戦いが続く中、一部の力自慢の大鬼たちが鉄の棍棒を片手にガルフリードに挑む。
だが、その着込む甲冑ごと血まみれの肉塊に変えられた。
そして魔戦兵の中から、聖剣を持つ戦士が目の前に現れる。
「来たな……魔王レオンハルトよ!」
「ガルフリード……貴公、俺に勝てると思っているのか?」
相まみえる勇者と勇者。
通路に横たわる死者すら、その目を開いて二人の戦いを見ようとするほど、二人の周囲は一旦、休戦するかのように戦いを中断した。
ガルフリードのゴールデンアックスとレオンハルトのラグナロクが火花を散らす。
レオンハルトが距離を取ると、ガルフリードはゴールデンアックスを投げつける。イージスの盾により、その両刃の戦斧は弾かれたが、トマホークにもなる黄金の戦斧は、必ず主人の元に戻ってくる。
「神に感謝せねばなるまい! お前のような男がいることを!」
ガルフリードは叫び大振りで戦斧を叩き込み、レオンハルトは横一線に聖剣を振った。
お互いに踏み込んだことで金属音とともに距離が空いた。
数舜の沈黙が流れ、血しぶきをあげて崩れ落ちたのはガルフリードだった。
指揮官を失ったガルフリードの部下たちは、勢いづいた反乱軍の突進にひるみ、砦から血路を開き敗走した。
レフガンディーは制圧された。
その砦は数十年経っても赤い血の塗装が落ちることはなかったと歴史書に記されている。




