妖王ヴァランギース
「叛乱軍、来襲!」
レフガンディーの砦にシュターゼン侯爵を討ったレオンハルト軍の進軍中である報がもたらされた。
相対するやいなや魔法騎士団から鹵獲した長距離用攻城兵器を並べて、レフガンディーに火の塊を降らす。
レフガンディーを守るのは勇者ガルフリード、勇者ヴァランギース、参謀長ヴァ―レンファイトである。
「甥の敵だ……あの孺子にワシが本当の戦い方を教えてやる!」
ガルフリードはヴァ―レンファイトの静止を聞かずに、門を開けて出撃してしまう。
炎エルフィン族は気が短く、挑発を我慢することができない性格なのだ。
危険を承知でヴァランギースも半数の精霊騎士団を率いて砦から出陣した。
「ヤツらの突撃に合わせて左右に避けろ。ガルフリードは避けたのではなく、自分たちで割ったと考える」
レオンハルトは負けて見せながら、攻城兵器も破壊させ、深追いさせたところを挟撃する作戦を立てた。
両軍は激突。
攻城兵器を盾にしながら、弓兵隊が炎エルフィン族の戦士隊の前線にダメージを与えるが、しだいに後退しはじめ、好機とする戦士隊はさらに攻勢に転じた。
「魔族どもッ!! 逃げるな!」
戦士団は歓声をあげ、我先にと猪突。
だが、レオンハルトの強さを知るヴァランギースは不審をいだく。
「深追いするな! 罠かもしれん。我らは弓と魔法で中距離戦に移行する!」
ヴァランギースは血気にはやるエルフィン隊にも注意を呼び掛けた。
しかし、レオンハルト軍も敵が態勢を整えようとすると弓と魔法で反撃に転じてくる。
「流石だな、ヴァランギース……。俺の縦深陣を見破ったか? だが、遅い!」
王国軍の陣形は縦に細くなっていた。
勇敢かつ猛戦し、前進する戦士団に反乱軍は後退し、左右に斬り裂かれていく。
誰が見ても王国軍の勝利。
__________________
レフガンディーの外壁上で、ヴァ―レンファイトは「前に出過ぎだ!」と叫ぶとすぐに自身の指揮する混成騎士団に救援を指示。
今ここに勇者と呼ばれる者が3名戦っている。彼は感じていた。
「ヴァーレンファイト伯、我軍は優勢です」
混成騎士団副官が出撃しようとする指揮官に問う。
「見てわからないか? レオンハルトを人は勇者と称え、魔王と蔑むが、あの魔族どもはレオンハルトを英雄だと思っている!この戦意の高さこそ脅威なのだ」
__________________
左右に突破されたと擬態していた反乱軍は戦士隊を挟撃する。
ヴァランギースは大鹿に蹴りを入れ全力で戦士隊に加勢しようとするが、直進力では彼らの大猪には追い付けることはできなかった。
「してやられた! レオンハルトは両手に分かれ、我軍の後方にもまわれる余裕がある。中央突破は罠だ……ガルフリード!」
ヴァランギースはここで退却すれば、損害は防げるが、目の前の仲間を見殺しにできもしない。
やれば、勝てる。だが、王道ではない。ここにレオンハルトの邪道たる戦術があった。
戦士団は秒単位で味方を討ち取られていった。
その隊列はしだいに細くなり、仲間の身体を盾にしなければならないほど、密度は薄くなる。
「後退しろ! 撤退だ! 味方に構わずに逃げるんだ!! レオンハルトめぇぇぇッ!!」
ガルフリードは流石の劣勢に撤退を余儀なくされたが、反転すれば半数以上が死ぬ。
それでも全滅よりはと、撤退を始めたが戦士隊の退路には伏兵がいたのだ。
草原には伏兵を忍ばせておいた。
エルフィン族は風の属性上、弓が得意である。反乱軍には多くのダークエルフィンがいるのだ。炎エルフィン族に接近戦をせずに駆逐することができる。
レオンハルトは陣営で会心の笑みを浮かべていた。
逃走ルートと進撃ルートは同じラインであると想定していからだ。
「生死は問わん。ガルフリードとヴァランギースを俺の前に引きずってこい。1人でも討ち取った者は例えオルグでも、将軍に昇進させてやる」
戦意は欲望によって頂点を極めた。
オルグやコボルトでも目の前にいる勇者を討ち取れるチャンスがある。
それが2人もいるのだ。
レオンハルトは全軍に突撃命令を下し、自身も出撃した。
この乱戦の中ではエルフィンも土精霊を召喚することはできない。
猪や鹿の蹄は泥濘に強いため、ここで騎士であるレオンハルトを弱体化する機会を逃してしまった。
「ヴァランギース!」
「レオンハルトッ!!」
数か月前まで並んで戦っていた同志。
今では敵として向かい合う。勇者vs勇者。
「ヴァランギース! 俺とともに太平の世を築かないか?」
「バカな……闇に堕ちたお前と組むものか!」
「残念だが、この俺にラグナロクがある限り、卿の力など通用しない。大陸の半分だ、アスガルドの半分、卿らエルフィンの自治権として認める!」
「くどいぞ! エルフィンは同志を裏切らん!」
ヴァランギースはS級風撃魔法を詠唱した。
その魔法はS級風撃魔法。
その嵐と真空刃に巻き込まれないよう二人に戦いに魅了される兵たちも退散していく。
「この力は神が授けた!」
レオンハルトはイージスの盾を駆使して、真空刃を躱し馬上のまま跳んだ。
ラグナロクはエルフィンの王をとらえた。
ヴァランギースは崩れ落ちる。
ヴァランギースの戦死により、完全に精霊騎士団は戦意喪失となった。
倒れたヴァランギースにダークエルフィンの魔戦兵が群がり、その首、腕を斬り刻む。
イースレイ元族長の敵。
もちろん、王国軍に討ち取られたイースレイだが、ダークエルフィンの怒りはヴァランギースに向けられていた。
そのとき、前方に横列の騎士隊と天馬騎士隊が突撃してくる。
この猛烈かつ整然とした突撃によって、反乱軍の伏兵が敗走し始めた。
「この戦法……ヴァ―レンファイトかっ!?」
レオンハルトは困惑な表情で「引け」と指示を出したが、多くの魔戦兵は賞金首を目の前にやや冷静を欠き、損害をこうむった。
敵が戦士隊や精霊騎士隊に集中し、混乱しているのを察知したヴァ―レンファイトは重装騎士隊こそいないが、軽快な運動能力を持つ天馬騎士隊によって敵を翻弄し、槍騎士隊が反乱軍に襲い掛かり、密集しつつある魔族の戦闘集団が追撃から防衛戦に移行した。
レオンハルトは、ここまで追いつめながら勇者ガルフリードを逃した悔しさと味方の醜態に怒りをあらわにしたが、戦場で感情に身を任せるのは負けを意味する。
逆にヴァ―レンファイトはここに魔法騎士団か聖騎士団のどちらかがいれば、レオンハルトを完敗させることができたと悔やんだが、ガルフリードを守りつつ、撤退した。
レオンハルトは若くして下級貴族から伯爵へ、准将に昇りつめた敵将を称えた。
ヴァランギースを討ち、敵をレフガンディーに押し込んだ。
成果としては十分だが、これで完全にエルフィン族、炎エルフィン族と和解はできないだろう。
ヴァランギースは情けのある男だった。
それを知るレオンハルトは陣営で泣き崩れていた。
命を賭して仲間の退路に立ち塞がる英雄の最後が、肉塊になるほど斬り刻まれ、その肉塊を奪い合うために魔戦兵の同士討ちにまで発展したのだ。
自分だったら、殿を務められるだろうか?
ここまでの劣勢を理解していながら、仲間を助けるべく、罠を承知で救援する勇者にレオンハルトは哀悼の意を示し、その夜は喪章を付け、次の作戦を練る。




