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4 お嬢様、戦いの時間でございます


まったく、昨日は散々だった。

私は首元のペンダントを見つめながら息を吐いた。ちなみにこのペンダントは私が昨日床に叩きつけてバラバラに粉砕したペンダントとは別の物だ。


「こんなこともあろうかと予備を準備しておきました。これで魔法少女になり悪の組織と戦ってくださいませ、お嬢様」


あの後、ムカつく執事が新しいペンダントを手渡してきたのだけど。普通、キラキラ変身アイテムは1人1つじゃないのか。そういくつも準備できる物なのか。そんな雑な扱いでいいのか変身アイテム。というか、何で私が悪の組織と戦うのがすでに決定事項になっているんだ。

しかも執事のヤツは変身アイテムを渡し終わったら、さっさと踵を返し。


「魔法少女の変身シーンを全力で演じる元昭和P―年生まれのお嬢様。大変滑稽でございました」


と嫌味な言葉を吐き捨てて部屋を出て行ってしまった。

お陰で私はペンダントを突き返すタイミングを失ってしまったではないか。それにしてもレインは主人に対する態度が酷すぎないだろうか。………いや、今に始まったことでないのだけど。それでも、もっとこう主人を敬う心と態度を持って欲しい。


(絶対にいつか見返してやるんだから)


いつか満面の笑顔で「さすがでございます、お嬢様」とか言わせてやる。その時になって私の偉大さに気づいてももう遅い。ふんぞり返って鼻でせせら笑ってやるんだから。額を地に擦りつけながら、マヌケな吠え面でも晒すといいわ。


『お嬢様、私が間違ってました。お嬢様は気高く美しい完璧な淑女です。今までのご無礼をお許しください』

『ふふふ。まぁ、そこまで言うなら許してやってもいいけどー』

『ああ、ありがたき幸せ。このレイン、一生お嬢様についていく所存です』


ふふふ。ふっふっふ。ふーっふっふっふっふっふっふーっ。こんな感じ。こんな感じで私を崇め讃えるといいのよ。



「お嬢様、公爵令嬢ともあろう方がアホ丸出しなゲス顔で笑わないでください。誰かに見られたら末代までの恥です」



私が妄想に耽っていると、隣にいたレインが例によって無表情で言い放った。妄想のレインはしおらしいというのに、現実のレインはこれだ。もう少し私の頭の中のレインを見習って欲しい。あとほんのちょっとでも可愛げがあるなら私だって………。と、今は不毛なことを考えている場合ではない。


私たちは今、ゲーム舞台となるプリズム学園の裏庭端にある茂みに隠れている。

入学式は先程終わったばかりなのだけど。王太子アレクの新入生代表挨拶は控えめに言って最の高だった。王者の風格たる威厳があり、それでいて誰にでも親しみやすいユーモアまで取り入れ、さらには顔がいい。全女子生徒だけではなく、全男子生徒、果ては全教師までも魅了する完璧な演説だった。みんなウットリと恍惚とした表情でアレクを見つめていた。それはもちろん私も例外ではなく。


(あまりの尊さに危うく鼻血噴出するところだったわ)


私の鼻血が出る前に、表情筋は死んでるし毒舌だけど、それ以外は割と優秀な執事が鼻をハンカチで抑え止血(?)してくれたおかげで学園の講堂を鼻血塗れにせずにすんだ。当然ながらゲーム内に悪役令嬢が鼻血を出すシーンなんてない。悪の結社が襲ってくる前に私自身がドキプリの世界観をぶち壊すところだった。危ない危ない。


ちなみにこのプリズム学園は16歳~18歳の貴族が学業を学ぶために通う学園であり、レインは18歳で学園に通える年齢ではない。が、貴族令息・令嬢は付人を1人だけ学園に一緒に入学させることができるため(ただし年齢が近く学園で学ぶ意志があり、かつ学業についてこれる人材のみ)レインにも入学してもらった。おかげで今もこうして2人並んで裏庭の茂みに隠れることができているというわけだ。


さて、随分脱線しまくったが、ここら辺で本題に戻そう。なぜ私たち2人が裏庭の茂みに隠れているのかというと………、



「あれ?あんなところに子猫が。もしかして降りれなくなったの?」



ここで今から『ドキプリ主人公フィリアと我らが皇太子殿下アレクのファーストコンタクトイベント』が始まるからだ。

この出会いイベントは木から降りれなくなった子猫をフィリア自らが木に登り助けるシーンなのだけど。貴族令嬢らしからぬ、ある意味上品な淑女とは程遠いフィリアの行動に、打算と上辺ばかりの貴族令嬢に囲まれて育ったアレクが興味を持つのだ。

フィリアは木の上で子猫を捕まえた後に足を滑らせ木から落ちてしまう。子猫をシッカリと抱きしめ庇うように落ちたフィリアをアレクが優雅にキャッチし、決して他の生徒には見せない自然な優しい笑顔で言うのだ。


『君は………随分と変わった令嬢だね』(キラキラスチル&イケボ)


あぁ、今からその場面を直接生で見られるのかと思うとワクワクドキドキが止まらない。

それに今見えている主人公のフィリアも最高だ。ピンクゴールドのふんわりとした髪に、透き通る宝石のようなピンクの瞳。スラリと伸びた健康的な手足。鈴の音のような愛らしくも美しい声。とびっきりの美女というわけではないのだけど、不思議と人を惹きつける魅力がある。彼女の朗らかな笑顔を見ているとこちらも前向きな気持ちにさせられる。なるほど、物語のヒロインはかくあるものなのかもしれない。



「待っていて、いま助けるからね」



フィリアが履いていた靴を脱ぎ捨て裸足になり、木によじ登り始めた。フィリアは田舎の男爵出で野山を駆け巡って育っている。木登りくらい容易いのだろう。身軽な猫のように危なげなく木を登っていく。私がその様子を「ヒロインの生足ご馳走様です」とエロオヤジよろしくデレデレと眺めていた時だ。



ピコン ピコン ピコン ピコン ピコン 



変な音が鳴り出した。

どこから鳴っているかって?自称妖精を名乗ってる変態執事から貰ったあのペンダントからだ。


「・・・・・・・・・」


嫌な予感をヒシヒシと感じつつ首元のペンダントに目をやると、ロケットチャーム部分が音に合わせて白く発光している。


これはやっぱりアレだろうか。魔法少女系アニメで時々見るシーン。敵の気配を察知した時に魔法アイテムが反応するパターンだろうか。だとしたら私は今から魔法少女になって悪の組織と戦わないといけないのだろうか?

え?今ここで?下手したら他の生徒に見られてしまうかもしれないこの学園で?魔法少女に変身しないとなの?


「・・・・・・・・・」


(これ、気づかなかったことにしていいかな?)


ひとまずペンダントを首から取り外し、ロケットチャーム部分を両手で挟んでみた。予想通り、白い発光とピコンピコンという音が小さくなった。ということは………ハンカチを取り出しペンダントを厳重にぐるぐる包み、制服のポケットの中に入れてみる。音と光はほとんど目立たなくなった。


(ふー、これでなんとか誤魔化せそうね)


きっと私が戦わなくても世界均衡神式会社とかいう怪しい会社を立ち上げているどっかの暇な神様がどうにかしてくれるだろう。大丈夫、大丈夫。後は誰にも気づかれないようにこの場を立ち去れば………。



「お嬢様」



私がそっと立ち上がり、この場を逃げようと後ろを向いたタイミングで隣から低い低い声がかかった。


「ひぃっ!」


しまった。フィリアの生足に見惚れていてスッカリ忘れていたけど、この場にはもう1人、私以外の人物がいた。しかも、今見つかるとほぼ100%でヤバいことになる人物だ。

おそるおそる声がした方を見上げると、いつもは表情筋が死滅しまくっている男が、この時ばかりは大変圧が強いブラックな表情でニッコリと微笑んでいた。



「お嬢様、戦いの時間でございます」




凄みがすぎる!!





カ ミ ー ラ は に げ だ し た 。

し か し 、 ま わ り こ ま れ て し ま っ た !

に げ ら れ な い ! !

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