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2 妖精の定義とは

「魔法少女になってこの世界を救って欲しいのです」



(はいいいぃぃぃぃぃ!?)


ウチの執事が真顔でとんでもないことを言い出したのだけど。

この世界はドキプリという乙女ゲームの世界。ドキプリに魔法少女なんて要素はなかったはずだ。それとも前世の私が妄想死した後に『ドキプリ2』や『ファンディスク』でも出て、そちらでは魔法少女の要素を無理やり注入してしまったのだろうか。


もしそうだとしたら、なんてことをしてくれたんだプロデューサー。乙女ゲームに魔法少女を取り入れるなんてカオス以外の何物でも無い。乙女の夢が詰まった世界を滅茶苦茶にする暴挙だ。全乙女総意でギルティ。万死に値する。


(いえ、落ち着きましょう私。普通に考えて乙女ゲームに魔法少女要素を取り入れるなんてあり得ないわ。きっとプロデューサーは白よ。となると………)


私は目の前の執事の顔をマジマジと見つめる。顔だけを見ると最推しの姿だ。切長の目も、筋の通った鼻も、薄い唇も、どれも完璧。優秀な絵師のお陰でとてもカッコいい。好き。うっかりすると鼻血が出そうだ。

だが、いくらとんでもなく素晴らしい外見だったとしても。この男の中身は、非常に遺憾ながら、トリックアートのように酷く捻くれまくり、大変残念に育ってしまっている。

ゴクリと喉を鳴らし、こちらも真顔で返す。



「ついに頭がおかしくなったの、レイン?」



すぐさま私の美しい額にツッコミのデコピンが入った。


「痛ぁあああい!公爵令嬢になんてことするのよ!お父様にだって殴られたことないのにぃ!」

「自分のオツムの軽さを棚に上げて失礼な発言をするからです、お嬢様」


主人であるはずの私が大袈裟に痛がっているというのに、レインは素知らぬ顔で懐から一枚の小さな紙を取り出し差し出した。小さな長方形のそれは前世で何度か見たことがある。仕事で初めて会った者同士が交換するあの薄い紙だ。


(これは………名刺!?)


お手本のような姿勢(無駄に姿勢が良くて逆に腹立つ)で手渡された名刺には次のように書かれていた。



『世界均衡神式会社 乙女ゲーム部署

 魔法少女担当妖精 レイン     』



レイン曰く。


・自分は神に使える妖精の1人で乙女ゲームの世界の均衡を保つのが仕事である。

・ドキプリの世界に悪の組織『バグリゾーン』の気配を感じ取り、10年前にたまたま同じ名前だったレインに受肉した。

・ここ最近、『バグリゾーン』の動きが活性化しており、もうすぐ暴れ出しそうだ。

・だからカミーラに魔法少女になって悪の組織と戦い、ドキプリの世界を守って欲しい。


とのことだった。


(いやいやいやいや、ツッコミどころが多すぎるっ!!!)


なんだ世界均衡神式会社って。神様か?神様なのか?世界の均衡を保ちたいならお前らが戦えよ。なんでこちらの世界の人間に戦う役を押し付けるんだ。よりにもよって、か弱い美少女(もちろん私のこと)を戦い役に選ぶんだ。ゴリゴリマッチョのオッサン騎士を選べよ。ズブの素人を戦わせるよりそっちの方がスムーズだろう。しかも戦う時に魔法少女になる必要ないだろ。最新式の兵器でも詰まった戦闘服着させろよ。バクリゾーンの前にお前らの頭の方がバグってるぞ。


頭の中でツッコミまくる私だけど、よく考えたら自分も転生者である。こちらの世界の住人に自分が転生者であることを話しても頭がおかしい人扱いされるだけで信じてもらえないだろう。が、レインは私が転生者という事実をすんなりと受け入れた。それは彼が自分と同じ異分子だったからではないだろうか。


(ということは、もしかしてレインの言葉は本当なの?)


だが、しかし。もしレインの言葉が本当だったとしても、私にだって譲れない物がある。


「レインって妖精だったの?」

「その通りです」

「そんなのあり得ないわ!」

「お嬢様、この世にあり得ないことなどあり得ません」

「いいえ、賭けてもいい。絶対にアナタは妖精では無いわ。だって、だって………」


ここでレインの主張を鵜呑みにしてはいけない。なぜなら、妖精の定義に当てはまっていないからだ。妖精とは。そう、妖精という生き物は………。

私はグッと拳を握り、声高々に主張した。



「魔法少女の妖精役は、語尾に可愛らしい言葉をつけるって相場が決まってるのよっ!」



そう、昨今の日本における魔法少女代表といえば日曜朝の8:30から放映されているプリップリでキュアッキュアな某魔法少女だろう。そして某魔法少女につきものの妖精はぬいぐるみのような可愛らしいフォルムで語尾に愛くるしい言葉をつける生き物。決して表情筋が死んだ毒舌男などではない。


私の言葉に静かに一度目を閉じるレイン。何かを思案するように数度頷き、ゆっくり目を開けると………、





「お望みならそう対応するミョン」





表情筋が死んだ顔で、恥ずかしげもなく恐ろしいセリフを言い切りやがった。

だから私はギリリと奥歯を噛み締め、思いっきり叫んでやったのだ。




「最押しの顔でキモい喋り方するな、バカ執事ーーーー!!」





レインはスキル『愛らしい語尾』を手に入れた!

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