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コスモスの百合  作者: wxy
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女性軍人 ユーリ登場!

部屋にあるテーブルに向かい合って二人の男が話しをしていた。


「これは特注のお菓子でございます。」


お菓子の箱の下には金貨が隠されていた。


それを渡された男は金貨を確認すると、微笑みを浮かべ、告げた。


「よかろう、今回の入札の件、話しは通しておくとする」


「ありがとうございます」


一人は役人、もう一人は商人であった。


この二人は共謀し、次の商売において利権のうまい汁を吸いつく算段を企てていたのである。


二人は酒を酌み交わし、事が進んでいることに喜びを覚えていた。


しかし、突如ノックも無しに扉が勢いよく開かれる


「法により、賄賂などの受け渡しは死罪ということになっております。お覚悟を決めたほうがよろしいですな」


「何者だ。無礼だぞ!」


役人の怒声が響き渡るが部屋の中には数人の男たちが二人を取り囲むように侵入してきた。


そしてその後ろから一人、男が現れる


「私は監査役のホラフキー少佐だ。お二方を逮捕しに来た」


「なんの疑いがあってか?」


「おい、そこのお菓子の箱を調べろ!」


ホラフキーに命令された部下がお菓子の箱を調べ、隠されていた金貨を見つける


「動かぬ証拠ですな」


役人と商人の二人の顔がみるみる真っ青になっていく。


「たのむ、見逃してくれ!」


役人の男はホラフキーに金の入った箱を手渡す。


ジャラララララ


ホラフキーは金貨を床にばら撒く。


「足らんな」


「何?」


「見逃すのには金が足らんと言っているのだ。」


ホラフキーは役人と商人に告げる。


そして部下たちとニヤニヤと笑いながら部屋を出ていくのであった。


だが外からその様子を伺うものが闇夜に紛れて一人いたことに気づくものは一人もいなかった。


人類が宇宙に進出して途方もない月日が流れていた。


今や人類の世界は地球のみにあらず、たくさんの星々に移住を果たしていた。


そして銀河帝国という名のもとに統一されていた。


そして、この話は一つの星で起きた事件の物語である。


この星の街ではある話題で持ち切りだった。


新しく着任するとされている軍人の話しで持ち切りだったからだ。


そして一目見ようと軍港には噂好きの民衆とマスコミが押し寄せていた。


そして一隻の軍艦から一人の軍人が降りてきたとき、辺りの空気は一変した。


その美しい美貌に酔いしれる人々、男女問わず心をわしづかみにしていた。


マスコミのシャッターは一斉に軍人を捉えはじめた。


しかし、人々の興味の視線を意に介さず、軍人はお出迎えの車へと向かっていった。



車は軍の司令基地の入り口へと到着した。


一人の男が車の到着を待っており、扉を開けてエスコートした。


「お待ちしておりました。ユーリ様」


「ありがとうロイ」


噂の軍人の名前はユーリ、そして部下の男はロイという。


「移動でお疲れのところ申し訳ありませんが、司令官殿がおよびです」


「わかった。向かおう」


二人は司令基地へ入り、司令官室へと向うこととした。


その道中で二人は会話をすることになる。


「ロイ、例の件はどうだった?」


「調べたところ、証拠はありませんが限りなくクロです。用心していただきたい。」


「わかった。気をつけるとしよう」


不穏な会話をしながら歩いていくうちに二人は司令官室の前へ到着した。




「司令官のウソツキーだ、君たち二人の着任を歓迎する」


「「ハッ」」


二人は司令官に敬礼をとる。


司令官の横にはホラフキー少佐が立っていた。


その後の形式的な話は終わり、二人は退室しようとしたとき、司令官がユーリに声をかけた。


「ユーリ中尉、今晩君と話しがしたい、二人きりでね」


「それはどういう意味でおっしゃっているのでしょうか?」


「それはもちろん、君が美しい女性だからさ、軍服もとても似合っているがドレスを着ていたほうが似合うのではないかな?」


ユーリは女性であったのだ。この時代、女性の軍人は珍しいため、街でも話題となっていたのだ。


美しく長いシルクのような白い髪、透き通った海を敷き詰めたようなサファイアブルーの青い瞳、そして高身長でスタイル抜群とくればマスコミや世間が話題にするのもうなずけるだろう。(美人過ぎる軍人という名のファンクラブができているとの噂)


ちなみにロイは黒髪に黒い瞳をした男性である。(身長はユーリより少し高い)


「なるほど、私を女性とみなしてくださるのはありがたい。ですが私は軍服を通したときから女であることを捨てております。ゆえに申し訳ありませんが、本日着任したことで仕事もありますゆえお断りさせていただきます。いくぞ、ロイ」


そう告げるとユーリは颯爽と部屋を出ていこうとする。


「貴様、司令官の誘いを無下にするつもりか!」


ホラフキー少佐がユーリに怒鳴りつける


一触即発の空気が流れたが、司令官はホラフキー少佐をなだめた。


「中尉の気持ちを考えずに軽率に誘った私が悪かった。非礼を詫びよう。少佐もよろしいか?」


ホラフキー少佐はまだ何か言いたそうだったが司令官に言われたとあって黙ることにしたらしい。


「では、失礼します。」


ユーリとロイは司令官に一礼をして部屋を退出した。


少佐は二人が出て行ったあとに軽く舌打ちをするのであった
























二人が着任してからしばらくの月日が過ぎたとある日のことである。


仕事にも慣れてきたため(ホラフキー少佐が嫌がらせ目的で大量に持ってくる)ぼんやりと外をみながら取り掛かっていたところ…


「お願いです。話しを聞いてください」


「こら、勝手に入ってはいかん!」


司令基地の入り口の前で若い女性と衛兵が揉めていたのである。


少し外へ出るといい、部屋をでて、ユーリは二人に近づいた。


話しを聞くところによると、女性は夫の無実を願いたく嘆願書を司令官に届けたいとのことであった。


「なるほど、あなたの気持ちは理解しました。私はユーリと申します。階級は中尉。司令官に取りあうと約束します。ですから今日の所はお引き取り願いないでしょうか?」


若い女性は最初、納得いかない顔をしていたが、ユーリの真っすぐな瞳を見て何かを感じ、託すことにした。


「わかりました。私はベルと申します。どうかよろしくお願いいたします。」


こうしてベルはユーリに託して基地を去っていったのであった。


「中尉殿、その件はあまり気にしないほうがいいですぜ」


衛兵がユーリに話かけてくる


「どういう意味だ?」


「人を悪く言うのは気が引けるが、ベルの旦那さんが軍を辞めた理由は横領って話でして。そんでもってその金を別の女に使い込んでいたって話でさ。こうやって直談判にくるのも何回目か数えるのもやめてしまいましたよ」


「………」


(横領の罪で辞めさせられた軍人、もし仮に無実だとすれば“あの件”ともつながる)


思いを巡らせていたユーリはふと視線を感じた気がしてそちらを見上げた。


窓からはホラフキー少佐がのぞいていたが、ユーリと視線があうとカーテンを閉めてしまった。


ユーリは何かあるのではないかと思った。


「………という話しがあってだな」


ここはユーリの宿舎の部屋


ユーリは昼間に起きた出来事をロイに話していた。


「仮にもしベルさんの旦那が無実なら、何か裏があると思われます」


「………」


ユーリは目を細めてじっとロイの顔を見つめている。


「いかがなさいましたか、ユーリ様?」


「敬語」


「はい?」


「二人きりの時は敬語をやめろと言っている」


「そういうわけにはいきません、ここはあなた様の部屋とはいえ、軍の施設なのですから」


「………」


じーっとそれでもユーリは見つめてくる


「はぁ、わかったよ」


ロイが折れた形になる


「ありがとう、私はお前とは上下関係ではなくて、対等でありたいのだ」


ニコっとユーリが微笑みかける。ロイは少し恥ずかしそうに横を向いた。


そして照れ隠しをするかのように話しをもどした。


「ホラフキー少佐って知っているか?」


「ああ、私を何度も食事に誘ってきたからな、まあ全部断ってやったが………」


「知っているなら話しが早い、奴は役人と商人達が賄賂の受け渡しをしている現場を取り押さえ、法の下に裁かれたくなければ金を出せと脅しを聞かせていいようにこき使っている。現場をこの目で見てきた。だけど今の状況では証拠がない。訴えたところで悪徳役人どもをトカゲの尻尾切りすればことは終わってしまうって状況さ」


「ふむ、やはり証拠が必要だな。ならば明日にでもベルさんの旦那に話しを聞きにいくとしよう」


「仕事はどうする?それにお前が直接行くとなると目立つだろ?」


「策ならあるじゃないか」


ロイの疑問に対してユーリは不気味な笑みを浮かべつつ答える


「まさかお前………いやだ、絶対に失敗する」


「大丈夫だ、問題ない」


(絶対に失敗する!)


ロイは心の中でそう思った。


しかし、ユーリはやると言ったら聞かないタイプだ。覚悟を決めるしかないと割り切った


ユーリとロイが二人で話している夜の同時刻


ベルは家で家事をしていた。


その時


「帰ったぞ………」


酒によっぱらった男が家に入ってきた。


そして玄関で寝ころび始めたのである


この男はデュモン、元軍人でベルの旦那である。


「おかえりなさい、あなた」


「酒」


「え?」


「酒を出せって言っている、聞こえないのか!」


「あなた、もうおやめになって…」


「うるさい」


バシッ


デュモンはベルにビンタを繰り出した。


「お前のせいで気分が台無しだ。もう一度飲みに行ってくる」


デュモンは家から出て行った


ベルは涙を流して悲しんだ


(あんな人じゃなかったのに、真面目に働く人だったのに。無実の罪で軍を辞めさせられた時からおかしくなってしまったのだわ………)


しばらくの間、玄関に座り込んで泣いているベル、その時家の扉が再び空いた


(あの人が帰ってきたのかしら?)


そこには老人が立っていた


「ここの主人はデュモンと言う男で間違いないか?」


「はい、間違いありません。あなたはどちら様ですか?」


「私の名前はシャンソン、デュモンの父にあたる。」


「まあ、お父様、お初にお目にかかります。ベルと申します」


「お前と口を利く気はない。お前は平民の分際で我がシャトー家の嫡子たる息子をたぶらかし、家をないがしろにした。」


「そ、それは………」


「息子を出せ」


「い、今は外出しておりまして…」


「ふん、酒の匂いがする。噂は本当だったようだな、軍の金を横領し、酒におぼれているというのは………、まあよい、ここで待たせてもらう」


「でしたら家におあがりください。玄関にずっといるのは………」


「ここでいいと言っているだろう、黙っていろ!」


シャンソン老人は玄関で待つと言って聞かなかった。


ベルは諦めて台所に戻るのであった。

飲んだくれのデュモンは夜道を歩いていた。


酒はもう覚めて、思考はベルをぶってしまったこと後悔していた。


(おれはなんてことを………軍を辞めさせられ、家を飛び出して帰るところもないどうしようもない俺を支えてくれているいい女であるというのに、俺は、俺は………)


「よし、決めた、俺は酒を止める。そして仕事を探してベルを支える」


そう決意し家に帰ろうとしていた時だった


謎の3人組にデュモンは囲まれてしまった。


「何物だ、貴様らは?」


そう問いただすデュモン。


しかし次の瞬間


ズバッ


「ガハッ」


突如、その一人に剣で切りかかられて深手を負ってしまう。そして道の脇に倒れこんだ。


そして顔を抑えつけられ、口から何かを注がれ始めた。


それは酒であった。


そして月明りと共に自分に酒を注ぐ人物の顔を見ることになった。


ホラフキー少佐であった。


「しょ、少佐………なぜこのようなことを」


「私の横領がばれては困るからな、貴様に罪をまたかぶってもらうことにしたのさ」

「“また”?今“また”といったのか?」


「おっと口を滑らせてしまったな」


そう言ってホラフキー少佐は再びデュモンに無理やり酒を飲ませる。


「酒を飲んで暴れて刃傷沙汰になったことにすればいいのだ」


「き、貴様………」


デュモンは抵抗しようとした。しかし、切りつけられ重体かつ酒を飲まされたことによって意識が朦朧してしまったため、そのまま眠るようにこと切れた………


「さて貴様ら、死体を運べ」


ホラフキー少佐は残りの二人にそう命令した。


「じょ、冗談じゃない。少し脅すだけで、殺しの手伝いをしろとまでは言われていないぞ」


この二人は以前ホラフキー少佐が賄賂の現場を押さえたときにゆすりにかけた役人と商人だった。


「ふん、いいのか貴様ら。賄賂のことをばらせば貴様らは法に従って死罪だ」


「もう付き合っておれん。こっちは二人、お前は一人、それにお前を殺せば賄賂の現場の証拠をしるものはいなくなる」


そう言って二人は懐からレーザーブラスターを出した。そしてホラフキー少佐に向かって発射した


しかし、レーザーブラスターが少佐を打ち抜くことはなかった。


「昔はレーザーブラスターが猛威を振るった時もあった。しかし今の時代はレーザーブラスターを無効化する技術があるのだ、ゆえに剣による白兵戦が闘いの主流なのだ」


バッ

ホラフキー少佐が右手を上にあげ、合図のような仕草をすると、どこからか兵士が現れて二人を取り囲んだ。


「なぜこんなに兵士を動員することができるのだ。ま、まさか貴様の背後には………」


「貴様らからはもっと金をゆすろうと思っていたが、用済みだ。そうだな、筋書きとしては、酒におぼれた元軍人と役員と商人が、言い争いになって共倒れになったとしておこう。」


少佐が手を振り下ろすと、兵士たちは役人と商人に一斉に切りかかった。


闇夜の中に三つの遺体が静かに転がされるのであった。



次の日


「ユーリ中尉、おはようございます。あれ?どうかされましたか?風邪ですか?」


挨拶と敬礼をする部下の兵士に疑問を抱かれるユーリ。


ユーリはマスクをしていたのだ


「そ、そうなのだ、少し体調が悪くて。気にしないでくれ」


ディスプレイに文字を打ち込んで部下に見せる


「わかりました。お大事に」


そういって部下の兵士は去っていった。


(あ、あぶなかったー)


実はこのユーリは変装しているロイなのである。


ロイは変装の達人であり、何度もその技術を生かしてユーリを助けてきた。

しかし、異性の変装するのはとても困難あるためやってこなかった。


今回はユーリの希望とあって変装を実装したのであった。


(はやく帰ってこいアホー)


その時である。


「ユーリ中尉」


ウソツキー司令官に話しかけられてしまったのである。


無視するわけにも行かずユーリは司令官へ敬礼を行う


「おや?風邪かね?」

無言でうなずくユーリ(ロイ)


すると司令官がユーリ(ロイ)の顔をまじまじと見るために近づいてきた。


(まずい、これ以上はさすがに化粧でもごまかしきれん………)


「………」


(ばれたか?)


「美しい」


「!?」


「ユーリ中尉。君はまるで人形のような顔つきをしているね。この前は断られてしまったがいつか食事へお誘いしたい、もちろん君がよければだが。ハハハ」


そう言って司令官は去っていった


(おっさんに誘われてもうれしくない!オロロロロ)


変装がばれなくて一安心したロイだったが気持ち悪さを感じてしまった。



そんなロイの苦難も知らないままユーリはベルの家を訪れようとしていた。


(指令基地のセンサーは外からの侵入者には反応するけど、中から外に出るときは反応しないのよね)


実はユーリは着任してしばらくしたときにそれを確かめるためにわざと入り口じゃない場所から侵入を試みて、警報装置を作動させたことがある。


防犯カメラの死角をついて侵入、その後瞬時に身を隠すことでばれずにすんだ。しかし、外部からの謎の侵入者が入ってきたことが問題となって基地の防衛の見直しやマスコミの避難を浴びるなど大変な騒ぎになった。


ロイにそのことを伝えると死ぬほど怒られたのは二人だけの秘密である。

(ちなみに問題対処に一番忙殺されたのがロイの部署だったのもより怒られた理由の一つである)


話しは戻り、ベルの家へ向かうその道中でのことである。


野次馬が集まっているのが気になり状況を調べてみた。


周りの人によると3人の男たちが揉めて死んだとのことで物騒だなと思った。


先を急ごうと考えていた矢先、見知った人物を見つけたので声をかけた。


それはベルだった。


ベルは夫であるデュモンの身柄確認のために現場に呼ばれていたのである。


その後ユーリはショックを受けているベルを家まで送り届けると同時に、話しを聞かせてもらうことにした。


「あの人は横領をやるようなそんな人じゃありません。」


涙ながらにベルはユーリに訴えかけていた。


「やはりバカ息子だったか」

そこにシャンソン老人が現れ、二人にそうつぶやいた。


「取り消してください。あの人はそんな………」


「黙れ!本当ならわしが昨日切り捨てるつもりだった。昨日帰ってこないと思ったら、酒に酔いつぶれて喧嘩の果てに殺人沙汰まで起こすとは、どれほど我がシャトー家に迷惑をかければ気がすむ!ベルと言ったな?あんたも金輪際シャトー家を名乗るようなことはやめておくれよな」


そういってシャンソン老人は家を出て行った。


ベルは追いかけようとしたが、しかし立ち止まり、洗面台へと駆け寄ると急に嘔吐してしまった。


あまりに急な出来事にユーリはびっくりした。しかし冷静さを取り戻り、体調を心配していた。


「ベルさん、まさかあなた妊娠されているのでは?」


「確信はありませんでした。でも今はっきりしましたわ。あの人の子供を身ごもっている。私、なんと言われようともこの子を産みたい。けどお養父様には反対されてしまうでしょう」


「安心してください。私がなんとかして見せましょう。私はあなたの嘆願書を受け取ったときから、この事件を解決してみせると誓ったのですから」


ユーリはベルにそう告げ、ベルを休める場所に運んでからシャンソン老人の後をおった。


「わしに何か用か?軍人さん」


ユーリはシャンソン老人を追いかけ声をかけていた


「私と一つ賭けをしていただきたい」


「賭けだと?」


シャンソン老人は興味がないといった素振りを見せたが、ユーリの真っすぐな瞳にとりあえず話しだけでも聞いてみるか思い、言ってみろとユーリに言った。


「息子さんの無実を証明できたら私の願いを聞いてもらう、それでよろしいか?」


「ハハハ、お前さん気が狂っとるのか?どうやって証明するというのだ。まあいい、んで?おまえさんが負けたときはどうする」


「この身を好きにするがよい。シャトー家の当主は人材を見る目をあると聞いた。私の使いどころはわかるだろ?」


シャンソン老人はユーリをまじまじと見つめた


「よかろう、お前さんはとびっきりの美人だ。軍服なんかよりドレスを着させて娼婦としてこき使ってやるわい。二言はないな!覚悟をするがいい小娘」


そういってシャンソン老人は去っていった。


無実の罪を晴らすことができるのか?


しかし、ユーリには勝算がすでにあった。


「なんでそんなバカなことを!」


ロイの怒号が部屋中に響き渡る


「あの老人を手に入れるためには仕方がなかったのさ、ことのついでさ」


ハァとため息をつくロイ。しかし気持ちを切り替えてユーリに尋ねる


「勝算はあるんだな?」


「もちろん、私は勝てるときにしか勝負はしない」


「ならよし」


そうして二人は作戦を練り始めるのであった。


しばらくしてから基地の中である噂が流れ始めた


ホラフキー少佐の金使いが荒くなっているという噂だった。


高級車を乗り回している。女遊びが激しい。などなど根の葉もない噂が飛び交うようになっていた。


それに対してホラフキー少佐は激怒、事実無根として基地内の兵士一同に噂を流さないよう命令をだした。


そしてまたしばらくすると、そのような噂は静まりかえって聞かないようになっていった。




とある日


ベルの家に訪問者が現れた。


ホラフキー少佐である。


「デュモン元兵長の横領の疑惑について進展があった、詳しいことは直接司令官がお話ししたいとのことで、申し訳ないがご同行願いたい」


ベルはうれしかった。


私の嘆願書が届いて夫の無実の罪をようやく晴らせる。


そう思っていた。


しかし


ベルは司令官室の中に案内されると数十人の兵士に取り囲まれていた。


そして椅子に座るウソツキー司令官。


「この女性がデュモン兵長の妻か?」


「はっ。間違いありません」


少佐が司令官へ敬礼をする


「それと例の物は」


「それはこちらに」


ホラフキー少佐がアタッシュケースを司令官の前に持ってきた。


中を開けると金貨が大量に入っていた。


「これはどういうことなのですか?説明してください」

ベルが叫んだ。


「まだわからんかね?デュモン兵長の横領は全部私たちがでっちあげたことなのだよ、愉快だったよ。私が犯人だとも知らずに嘆願書をあきらめずに何度も何度も持ってくるさまは間抜けでな。ハハハハ」


司令官が笑い声をあげると部屋にいた兵士全員が笑い始めた。


ベルはその場に泣き崩れた。


くやしくて仕方がなかったと同時に夫の無念を晴らすことができないと知って絶望した。


しかしそのときである。


「司令官殿、失礼します」


一人の兵士がアタッシュケースを突如強奪したのである。


「な、何をしている貴様!それを返さんか!」


騒然となる部屋


そんな中アタッシュケースを強奪した兵士がベルに近づき手を取って立たせる。


そして、華麗な振る舞いをして正体を現した。


その正体は変装をしたロイだった。


「貴様はユーリ中尉の腰巾着!」


ホラフキー少佐が叫ぶ


「やっとボロを出してくれましたね、ウソツキー司令官」


「なんのことかね?」


「先ほどベルさんへ言った言葉をそのままお返ししましょう。私たちはずっとあなたが軍の金を横領しているという疑惑を持っていました。しかし狡猾なあなたはどうやってもボロをださない。そこで、ある作戦にでたのです」


その場にいる全員が息をのんで話しを聞いていた。


「私たちが司令官を逮捕するためには証拠が必要でした。ですので“噂”を流しました。そう、少佐の金使いが荒くなっているとね」


「き、貴様だったのか!」


ホラフキー少佐が怒声を上げるがお構いなしにロイは話しをつづける


「“噂”が流れることで司令官、あなたはある疑問を抱きました。それは本来自分の懐に入るはずだった横領した金を少佐が使い込んでいるのではないかと………」


「ま、まさか………私に金が減ってないか確かめさせるために今日ここにホラフキー少佐に直接持ってこさせたということか!」


「大正解です」


ウソツキー司令官は自分が嵌められたことに憤りを感じた。


そしてこのままでは自らが危ういことも察した。


どうすると考えているときにあるアイディアが浮かび、不安を打ち消した。


「確かに証拠を押さえられた私は絶体絶命かもしれん。だが、そもそもこの状況を告発する人がいなければ意味がない!悪いが君たち二人には事故で死んだということにしておこう。やれ、お前たち!」


部屋中の兵士たちが剣を抜き、ロイとベルの二人にじわじわと近づいてくる。


絶対絶命かと思われた。


その時部屋のドアが開いて、一人の兵士が入ってくる

美しく長いシルクのような白い髪、透き通った海を敷き詰めたようなサファイアブルーの青い瞳、しかしその瞳には怒りが燃え上がっていた。


そして堂々とした立振る舞いで兵士たちに向き合う


「私利私欲のために金を盗み、あまつさえ他人に罪をなすりつけ、逃げようとする卑怯者どもめ!この私、ユーリ・フィクタ中尉が成敗してくれる」


腰からかつて刀と呼ばれた武器を抜き、部屋中に響き渡る声でユーリが叫んだ。


「敵は一人だ。やってしまえ」


「「「うおおおおお」」」


部屋にいた数十人もの兵士がユーリに向かって斬りかかってきた。


「さて私たちは逃げますよ」


ロイはベルの手をつないで部屋からでようとする。


「で、でもユーリさんを一人部屋に残していくなんて」


「大丈夫です。あいつは強いからあんな奴らには負けません、むしろ………」


「「「うわああああ」」」


部屋に悲鳴が響き渡るとユーリ一人に次々と兵士が倒されていた


「安心しなさい。峰打ちといって斬ってはいないから」


「ね?」


ベルは苦笑いを浮かべた。


そして残るはホラフキー少佐とウソツキー司令官だけが残った。


「くそ、ウソツキー司令官、どうすればいいんですか?何とかしてくださいよ」


ホラフキー少佐はウソツキー司令官に助けを求める。

「ユーリ中尉、ご苦労であった」


「は?」


「ホラフキー少佐の横領事件を調べ上げ、見事、逮捕に至る証拠を用意した。上には多大な貢献をしたと報告しておこう」


「ア、アンタまさか俺を売り飛ばすつもりか!ふざけるな、今までどれだけアンタのために尽くしてきたと思っている!」


「なんのことだかさっぱりわからんな、さあユーリ中尉、ホラフキー少佐を連行したまえ」


ウソツキー司令官の狙いはこうである。


確かに横領した金の現物はここにある。そしてホラフキー少佐が渡そうとしていたことも事実である。


しかし、まだ私は金を受け取ってはいない。


私はこんな金のことなど知らん。すべてはホラフキー少佐がやったことだと。


そう言い逃れしてしまえば私だけは助かると。


まさしくクズである。


しかし、筋は通ってしまっている


(しまった。このままではホラフキーは捕まえてもウソツキーには逃げられる)


ロイが何か方法はないかと考えているとき、ユーリは落ち着いて話し始めた。


「ウソツキー司令官、最後の警告です。自らに罪はないと?」


「なんのことだかさっぱりわからんな?」


「反省する気はないと?」


「くどいぞ」


「自分に罪はないと?」


「いい加減にしろ!私に一体なんの罪があるというのだ!言ってみろ!」


「そうですか、では一つ最後にお伝えします。この状況は全部ネットで生中継されています」


「は?」


ユーリはテレビのスイッチを入れる


そこには緊急速報として今この部屋の状況がメディアに晒されているところだった。


「ば、ばかな、隠しカメラだと、そんなものいつ?」


「先日、基地に外部から謎の侵入者が入った事件がありましたよね?」


ウソツキー司令官すべてを悟った。


そうだ、あの事件の時、指令室を無人にした。


その時にこの小娘がカメラを仕掛けたのだと。


ウソツキー司令官はユーリに目を向けると、悪い笑顔を見せつけられた。


「貴様!殺してやる!」


ウソツキー司令官がものすごい剣幕でユーリに接近してくる。


しかし


ユーリは一瞬でウソツキー司令官をその場に倒すのであった。



基地での騒動が終わり、しばらくしてから、ユーリ、ロイ、ベル、シャンソン老人の4人が顔を合わせていた


「本当にありがとうございました」


ベルとシャンソン老人はそろってお礼を言う。


「ベルさん、体の調子は大丈夫ですか」


ユーリが少し視線を下げて、ベルのお腹あたりを見つめながら質問した。


「はい、おなかの子も至って健康だとお医者様に言われています。」


「わしにとって初孫じゃ、シャトー家が責任をもって、この息子の忘れ形見を育てていくとするわい。それが、息子への謝罪でもあるからの………」


飾られている息子の写真を見て、シャンソン老人は呟いた。


「さて、老人。賭けを忘れてはいないだろうね」


「わかっておる。何でも言うがいい」


「あなたと二人きりでお話しがしたい。ロイ、ベルさんを連れてしばらく席を外してもらえないか?それとベルさん、不安にならなくていい、金を要求するとかそういった話しではない。しかし人に聞かれるとすこし困ることなのでね………」


ベルは少し不安な表情を浮かべながら、ロイに連れられて退出していった。


「で?二人きりで話したいことはなんじゃ?軍人さん、」


「さすがに10年以上も前に数回あった程度では私のことを覚えていなくても仕方はないか。」


「なんじゃと?老いぼれていようともわしは商人、大事な客の顔を忘れることなどありゃしない。お前さんなんぞ知らんぞ」


「では、これならどうだろうか?」


トランプをユーリはポケットから取り出しポーカーをしようと持ち掛けた。


「私に一回でも勝つことができれば何でも言うことを聞くという話しはなかったことにしよう」


シャンソン老人はポーカーには腕があると息巻いて快く勝負を受けた。


しかし、何度も勝負をしてもシャンソン老人は勝つことができない


そしてイカサマをしているのではないかと疑いをかけ始めた。


するとユーリはこう答えた。


「あなたには嘘をつくときとあるクセがある。それをある人に教えてもらったことがあるのでな………」


「クセじゃと!」


そう言われたシャンソン老人に古い記憶が蘇る。


自分とある男性がワインを飲みながらポーカーをしていたこと。


そのポーカーで自分が勝つことができなかったこと。


そしてその様子を見ていたひとりの少女がいたこと。


そしてその少女に男性が耳元でささやくように勝利の秘訣を伝えていたこと


「わしのクセを知るものなんぞたった一人しか思い浮かばん。だがその人はもう亡くなっておられる………まさか、お主の正体は?いやそんなバカな話しはありえない。10年前一族全員公開処刑されたはずじゃ!」


シャンソン老人は疑念を振り払うように告げる


すると、ユーリは立ち上がり、手を自らの目にかざす。


「あなたは嘘をつく時右目を細めるクセがある」


ユーリが老人にクセの特徴を教えたとき、シャンソン老人は衝撃が走った。


その仕草を知っている人物の名はカエサル・フォン・グロリア


10年前一族全員を公開処刑され、王位を簒奪された以前の宇宙の支配者の一族


そして、カエサルには長女がいたことを思い出した。


「そしてこれが、さらに私の正体を証明してくれる特徴………」


すると、ユーリのサファイアブルーのような青い瞳の色がルビーのように真っ赤な瞳に変貌していった。


その赤い瞳を見て、シャンソン老人は驚きを隠せなかった


「美しく長いシルクのような白い髪、ルビーのような赤い瞳、間違いない、グロリア王家の特徴!ああ、なんということだ、あなた様は、あなた様は、ユーリ・フォン・グロリア様!よくぞ、よくぞご無事で、そしてお許しください。陛下のご寵愛を受けながらも、10年前、卑しい簒奪者、トリスタンから一族を助けることができなかったことを………」


そんなシャンソン老人に近づきユーリはこう告げた


「私が危険を冒して正体を打ち明けた理由はわかるな?」


「もちろんでございます。しかし、10年前ならともかく、現在の我がシャトー家はトリスタンのせいで以前のような力はございませぬ。どこまでお力になれるか………」


「心配ない、私の願いは簡単なものだ。今まで通り商売を続けていて欲しい。」


「しかし、トリスタンに勝つためには武力が必要なのでは?」


「私に考えがあるのだ。困った時は先ほど私の隣にいたロイという男を使うといい」


「かしこまりました」


「話しは終わりだ、二人を呼び戻してくる。くれぐれもこのことは内密に頼むぞ」


「ハハッ!」


こうしてユーリはシャトー家という一つの味方を手にすることになったのであった。


それからしばらくして、ユーリとロイには別の惑星への異動の辞令が発令された。


小型宇宙船に乗り込み、ロイが運転席、ユーリが助手席に座り、出発した。


「あの爺さんとそんな繋がりがあったとはね」


ロイがユーリに話しかける


「王族の専用サロンでのことだったからな。いかにお前がカンナの一族だとしても調べるのは困難さ」


「諜報活動がうちの一族の自慢なのに」


カンナ・ロイエンフィールド


ロイの本当の名前である。


カンナの一族は自らをも偽る


そう呼ばれるほど変装の達人の一族であり、諜報活動もお手の物なのである


なので、カンナの名は伏せて、軍ではメンダシウム・ロイエンフィールドと名乗っている

(長いのでロイと短縮されることが多いそうだ)


この二人は今、あらゆる嘘を固めて生きている状況なのだ。


「そうだ、ウソツキー司令官とホラフキー少佐、二人とも軍法会議で裁かれることになったそうだぜ、まあ当然といえば当然だが」


「そうか、まああとは任せて、我々は新しい任地で仕事に励むだけだ」


「少しはのんびり過ごしたいけどなあ」


「そういうと思って、有給休暇が申請できないか調べておいたぞ」


「やったー、ユーリ様最高!」

「ちゃかすな、全く」


ユーリは笑いながらロイを少し諫める。


そして決意を新たに新天地へ赴くのだった


(今はまだその時ではないが、必ず簒奪者トリスタンからすべてを取り戻す)


こうして、後に歴史に刻まれるユーリ・フォン・グロリアとカンナ・ロイエンフィールドの壮大な物語は始まったのである。




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