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挿話: それは鮮烈な

アース視点。短いです


 俺が彼女と出会ってからひと月もの時間が経った。つい先日は、懸命に人間界の作法を学んだ彼女の初めての夜会だった。

 準備に使える日数が少なかったにも関わらず、彼女の立ち居振る舞いは完璧だった。そのことに感心しつつもこの夜会は何事もなく終わりそうだと思っていたが、そんな都合の良い事があるはずもなかった。


 会場に出る時間を少しでも先延ばしにしたい甥の言い訳として呼び出された俺が、甥を脅迫──もとい説得して会場に帰ってみると、彼女は何があったのか、一人の女を前に怒りを露わにしていた。


 感情が乱れているせいか、彼女の本来の魂が持つ威圧感が隠せていない。

 それと知る者が見ればすぐにわかる。漏れ出した神気が辺りに沈殿し、裁きを受けるべき者に重くのしかかっているのだ。


「これは──」


 会場内の全員が、気押されたように彼女を見つめている。その鮮烈な威容に俺が感じたのは、歓喜。そして愉悦。


 この至高の存在は、俺の婚約者なのだ、と。


 今この世界でたった一人、俺だけが真に彼女の内側に入る事を許されている。

 素直で優しく努力家で、でもどこか抜けているところもあって、たまにスポ根で不器用で──しかし本質はどこまでも美しく高潔な女神。


 彼女の手を取り、触れ、親しく会話し、家族として接することを、ただ自分だけが許されている。その事実の、何と甘美なことか。


 この瞬間、ずっと小さく燻っていた新しい感情が湧き上がってくるのを感じた。


 彼女を守らねばならぬという使命感からは一線を画す、子どもじみた独占欲。優越感。高揚。


 相手の女は腰を抜かして震え上がっているが、哀れとは思わない。慈愛深い性質の彼女を、一体どうやってここまで怒らせたのか。

 女を会場の外につまみ出させると俺は、ドクドクといまだ脈打つ心臓をそのままに、彼女の肩を抱き寄せ、そして熱に浮かされたように囁いた。


「君はやはり──最高だ」


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