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ディスクロージャー

どうしても書きたい、伝えたいと思うことがあり、小説を書こうと思いました。初めてなので拙いところがたくさんあると思いますがどうかよろしくお願いします。


感想、ダメ出しや、アドバイスなどあればぜひよろしくお願いします。



1章 


1.





…いたい。



闇夜の中、少女は激痛に目覚めた。


どこか、日も落ちた野ざらしに放り出されている。


なんで自分はこんなところにいる?それに体中が酷く痛む。


状況が理解ができなかった。自分はさっきまでどこにいた?何をしていた?誰といた?


わからない。


とにかく、体を起こそうとしたが思うようにいかない。力が入らないし、激痛が走る。


すえるような血の匂いがした。すぐ横に人間が、その向こうには人間だったモノの成れの果てが、至るところに、無造作に転がっている。


日常とあまりにかけ離れた眼前の状況に少女は気が遠くなる。尋常ではなかった。ボヤけた頭でもただごとではない、それだけは見間違えようもなかった。


前後の記憶が思い出せない。どうしてこうなったか、数刻前のことが思い出せず、ただただ困惑した。


なんとか指は動く。時間の経過とともに意識がハッキリしてきた。


腕、痛むが動く。脚は…ダメだ。右脚は力を入れると凄まじい激痛が走った。立ち上がって歩くのは無理だと判断した。いくらかの出血もあるが、幸いにも緊急を要する深刻な事態ではない。


痛みを堪え、なんとか上体を起こし周囲を見渡す。ひどい頭痛だ。


日が落ちてきて、辺りはかなり暗くなってはいるがところどころに揺らめくオレンジ色の炎がわずかに周囲を照らしていた。


どうして?なんで?


自分はなんでこんなところにいる?


なんでみんなこうなってしまった?


あまりにも受け入れがたい、突然すぎる地獄のような光景に放り出された少女は咄嗟に家族の存在をさがした。



パパとママはどこ…?お兄ちゃんは?


襲いくる不安と恐怖に少女は堪え切れず泣き出した。ただただ理不尽さに涙した。


どれだけ泣いたか、やがて少女は泣く気力も失せ、体の痛みに耐えながら自分はもうダメかもしれない、と思った。


せめて家族に、両親と兄、祖父母に会いたいとおもった。


ふと、どこかで呻くような声が聞こえたような気がした。


生きている人が、他にもいる…?


わずかに希望の炎が灯った…ところで少女の意識は闇に途切れた。








2.








(もとむ)はそこで目覚めた。


決まってみる、いつもの夢。


痛み、黒い煙、嗚咽、焼ける音、揺らめくオレンジの光、血の匂い、横たわる死骸。


あそこにあるものは絶望だ。


幼い頃、両親と妹を事故で失ったトラウマだろうか、追体験のような、生々しい夢を時折見ることがあった。



汗を拭い、ふと時計に目をやる。6:02。



夏休みということもあって起きてしまうには早すぎた感が否めない、そんな時間帯だ。



二度寝できそうにもなく、すっかり頭が冴えてしまった。軽く深呼吸をし、上体を起こす。夢を見たときはいつもこうだ。



とりあえず顔を洗うか。扇風機の電源を切り、布団をたたむ。


部屋をでると、この時間にはいつも起きている祖父の(つとむ)と鉢合わせた。


「おはよう。今日はえらい早いな。」


究はいつもと変わらない調子で声をかけてきた。


「おはよ。ちょっと走ってくる」


「婆ちゃんに頼んだらご飯すぐ用意してくれるぞ」


「なんか体動かしたいなあって。いつもどおりでいいから」


「ほうか」


求は軽く顔を洗うと動きやすい服に着替えて外に出た。


いつもなら鳥の囀りが聞こえそうなものだが、8月初旬ということもあってか、すでにセミの泣き声がやたらにあたり一面こだましていた。夜の間に潜んでいた夏の暑さも徐々に姿を見せつつある。



10分ほど入念に体をほぐし、求はいつものランニングコースへと軽やかに駆け出す。ほぐれた体を、血液が酸素を運んで全身を駆け巡る感覚を味わいながら、求は畑を抜けて、坂を降り、河川敷まできた。



川のせせらぎに溶け込むかのように、森の木々に混ざるかのように、無駄な力もなく軽やかに走りながら求の意識は徐々に内側へと向かっていく。あの夢を見た時は決まっていつもこうやって川沿いを走ってきたのだ。



空気、景色、虫や鳥、草木、大地が奏でる心地よい音がいつでも求を癒してくれた。人間とは自然の一部であると、自然に学んできた。



30分ほどのランニングから帰宅すると祖母の(たまえ)が朝食の支度をしてくれていた。



「今日何?」




「今日はアサリ(のすまし汁)とアジだよ。足りないなら昨日のカレーも残ってるけど」



「よっしゃ」



求は嬉しそうに、汗を流すために浴室に向かった。












ご機嫌の朝食を済ませ、求は祖父母の畑仕事を手伝うため準備をした。



ほどなくすると家の外からクラクションが鳴る。究の軽トラだ。求は急ぎ足で車に向かった。



「おまたせ」



求は助走をつけて鮮やかに、見事に荷台に飛び乗った。



腕白な孫に頬を緩めながら究は軽トラを畑へと走らせた。


作業はお昼休憩を挟み、夕方まで続いた。


時折、携帯電話を操作しながらではあるが求は比較的真面目に畑仕事に精を出した。事故で両親と妹を失った求を、祖父母は優しく、暖かく育ててくれた。そんな祖父母が愛する畑の仕事を求も共に大切に取り組んできた。



求は祖父母が収穫した野菜や果物しか食べれないという奇妙な体質があった。市販の食品を食べるとどうにも気分が悪くなるのだ。


阪本家は昔ながらの化学肥料や農薬を一切使わない有機農法を貫いている。祖父母はおそらく、求が極度に化学薬品や添加物に対するアレルギーがあるのだろうと思い、求にはなるべく自然由来のものを食事として与えてきた。


求もそれを知ってからは畑や作物に対して愛情を持ち、祖父母の農作業を嫌な顔せず黙々と手伝いながら生きてきた。


自分が食す物は自分で大切に育てて収穫する。農作業とは求にとって、そういうものであった。


土に触れ、そこに生きる様々な生命、生態系の息吹を肌で感じ、求は成長してきたのだった。






3.






日も傾き出したころに祖母の給と求は帰宅した。給は夕食の買い出しと仕込み、求は道場に向かう準備のためだ。


求は幼少から祖父の旧来の知己であり、古流柔術の師範である戸田辰巳に師事を仰いでいる。戸田辰巳は求にとって第二の祖父ともいうべき、厳格で偉大な存在であった。


戸田の道場は求の家から歩いて30分ほどの距離だ。買い出しついでに給に送ってもらい、求は道場の門をくぐる。すでに道場からは威勢の良い掛け声が聞こえてきた。



門下生に挨拶を交わしながら、戸田に顔を見せに行く。


「先生、今日もよろしくお願いします。」


「おう。」


戸田は短く、しかし力強く返した。


求はしっかりと柔軟、アップを済ませると門下生達のなかに飛び込む。


普段から途中参加の多い求だったが、実家の農作業を手伝っていることは周知のことだった。


「うい。」


幼なじみで同じ学校に通う、門下生の環陽介が話しかけてきた。


「おせ〜ぞ遅刻常習犯。」



「許してくださいよ〜せんぱーい」



陽介からのイジリも慣れた感じで返す。


道場に通い始めたのはほとんど同時期だが5日ほど陽介が早かったので道場では俺が先輩な、というのが陽介の主張だった。



普段なら相手にもしない戯言であったが下手に出るときは後輩ヅラで神妙な面持ちで取り入るのが求の常套手段だった。


「だらしない後輩には可愛がりしないと」


ニタリと笑う陽介に対して戯けてみせる求。そんなこんなで主に陽介と組みながら、修練は日が沈む夜20時まで続いた。





「ありがとうございました!!!」


修練を終えて道場を去っていく門下生達、陽介と求は着替えながらたわいもない雑談をしていると戸田が話しかけてきた。


「求、秋の大会出てみないか?」


求は少し驚いた。戸田には競技会などの試合には出ない、という意思を承諾してもらったうえで道場に通っていたからだ。


「……」


「出りゃいいじゃん」


陽介はあっけらかんと言う。


ほんの少し考えた後、求は答えた。


「先生、申し訳ございません。やっぱり自分は学業と家の手伝いでいっぱいいっぱいなんで…。」


求は気まずそうに頭を下げた。


「…そうか。いや、すまん。そういう約束だったのにな。」


「いえ、御意向に沿えずすみません」


「お前が大会に出るとこ見たいって言う俺のわがままだよ。これ、もってけ」


そう言うと戸田は自分の畑でとれたものであろう、袋に入ったスイカを渡してきた。


「いつもありがとうございます。」


「究に近々遊びに行くと言っといてくれ。給ちゃんにもよろしく」


そう言って会話を終えた戸田は別の門下生に話しかけに向かう。


「ま、しょーがねーか…てかさ、哲矢がさぁ、こないだ浅川に告ったじゃん?アレ結局な…」



申し訳無さそうな求を励ますかのように明るく別の話題に切り替える陽介。


「考えさせてほしいとか言っといて浅川のやつ、もうすでに彼氏いたんだと!しかも2人!あいつやり手だわ〜相当の」


「は!?嘘だろ…全然そんな気配無さそうなのに」


「女はわからん、てやつよ」


陽介の明るさに助けられて求はいつもの調子で着替えを終えて道場を後にした。


帰る方向が同じなので、途中まで陽介と駄弁りながら、足元の石を蹴飛ばしたり、哲矢の恋話に盛り上がっていると、自分達の前方、50mほどのところで車が一台。暗くてハッキリとはしないが、4人の人影。


そのうちの2人、求と同じくらいの背丈の人物とやや背の高い人物が近づいてきた。この辺の人じゃないな、と求は思った。


「知り合い?」と尋ねる陽介。


「いや…」



片方の人物はキャップをやや深めにかぶってラフな格好の女性。



もう1人は年配の男性…60前後だろうか。七三分けの頭髪にネクタイの落ち着いた佇まいだが、目にはギラとした眼光が宿っている。


「阪本求君ですよね」


ハキハキした口調で年配の男性が話しかけてきた。


「あ、はい」


誰だろう、記憶を辿るが思い出せない…祖父母の知り合いだr


刹那、隣の女性が虚をついたかのように求の顔面目掛けて恐ろしい速さで殴りつけてきた!



寸前、それを間一髪でそれを避ける求。



「…っぶねぇ。ちょ、何すんだよ」


後ろに飛び退いて身構える求。



あっけに取られる3人。この3人は求以外の3人、殴りつけた女性自身も含む3人だ。


「マジカ…」


ボソッと呟く女性。あまりにも驚いて固まっているようだ。


男性は呆れたように「やるなって言ったのに…」と頭をもたげた。


あまりの突拍子もない事に、その様子に陽介もただただ圧倒され、固まっていた。


目の前で信じられないものを見てしまった、3人はそんな様子で唖然としている。


男性が次の言葉を発するまで4人はしばしの静寂と硬直を必要とした。


「ごめんよ、阪本君。深く、深く謝罪する。彼女には余計なちょっかいは出すな、と事前にしっかり釘を刺したんだが…」


必死に頭を複数回、下げながら、男性は女性を恨めしそうにジトリと睨みつける。


「…いいじゃん。これでハッキリしたし話が早いでしょ」


全く悪びれる様子も無さそうな女性。はぁ、と深いため息をつく男性。


「そういうことにしときましょう…あなたに自制を期待した私の責任です。」


女性は何食わぬ顔でガム風船を膨らましている。


「許してもらえるだろうか」


求の表情を覗きこむ男性に対して、怒るというよりは呆気にとられてしまった求。


「俺に何か用なんですか?」


「君は…先ほどの彼女の攻撃をどうして避けたのかな?」


男性は面持ちを直して、真剣な表情で尋ねる。


「どうして…って理由とかありますか?攻撃されたら誰だって避けるんじゃないですか…普通は」


男性はそう聞くと、今度は依然硬直したままの陽介に対して質問した。


「君はどう思いましたか?アレを避けたことを」


「え、俺?」と戸惑う陽介。



「…ビックリした…って言うか、その人が殴ってきたこともそうだけど…その、よく避けれたなぁ…って」


先ほどの攻撃はかなりの速さだった。油断している常人ならば防御すらままならず顔面を打ち抜かれたはずである。だから陽介が驚いたのはどちらかと言えば求のほうだったのかもしれない。


バツが悪そうな求に対して、男性は落ち着いた様子だった。


「自己紹介がまだでした。私の名前はイシカワと言います。石川、真一郎。」


「石川さん、ですか」


「ごめんね、本当、急に。何か飲む?」


石川は自販機に近づいて小銭を取り出す。


「遠慮しないで、ね?」


求と陽介は目を合わせて戸惑ったが、


「あ、じゃあ、パカリで」と陽介が切り出した。


求も続けて「俺は…お茶で」と要望を出した。


もたもたと石川が自販機に小銭を投入する間、求はチラッと背後の女性を振り返る。女性は求をジーっと見つめている。


「はい、どうぞ」


笑顔の石川から2人は飲料水のペットボトルを受け取る。


「こう言うと阪本君は大変不快に思うだろうけどね…実は君のことを事前に少し調べさせていただきました。おそらく君には普通の人には無い、不思議なチカラがある。」


陽介は求の顔を見た。求は目線だけ、僅かに下にやる。


「私のことを頭がおかしい人に思うかもしれない。だけど話は最後まで聞いてほしい。お願いします。」


丁寧に話す石川は悪い人には見えず、2人は黙って了承した。


「彼女には乱暴なことはするな、と何度も言い聞かせたつもりだったんですが…。とにかく結果的にはハッキリしました。彼女の行為を正当化するわけではありませんが」とギラリと女性を睨むが、女性はまるで意に介さない様子だった。


「君の友人も先ほど言ったように、あの攻撃は普通の人には避けれないものだった。だから我々はビックリした…いきなり訳もわからず攻撃されたはずの君より、もね」


求は顔を伏せたまま、静かに聞いた。


「彼女は君の反応が見たかったんでしょう。急に殴られた君がどんな対応をとるか…」


陽介は求とは対照的に石川の話を興味深く聞いている。


「だけどまさかアレを避ける、とは彼女は想像しなかった」


間をおきながら石川は話を続ける。


「安直ではあるが、今わたしはひとつの仮説をたてた。近からずも遠からず…だと思いたい。」


ごくりと唾を飲み、石川は


「君はもしかしたら危険を察知できる、ようなチカラがある…のではないかと」


そこでようやく求は石川の顔を見た。


「……」


口を開いて求は何か、話そうとして、しかし口を噤む。そして絞り出すような声で反論した。


「…この辺で見かけない人だったからちょっと警戒しただけですよ。だから咄嗟に反応できたんだと思います」


「ふむ…なるほど」


石川はニコリと笑った。


「陽介君、彼の普段の行動に何か気になったことはなかったかね?」


話を振られて陽介は少し思い出しながら、


「ん〜…コイツ修練の時は普通ですけどねー。ただ…だいぶ昔、道場に通い始めた頃は…先生達かなり期待したみたいで…」


陽介はチラッと求を横目にみて、


「まぁでもいろいろあって…道場には来なくなったんです。実家の仕事の手伝いがあるからって」


「なるほど…しかし今も修練を続けているようだけど」


「求んとこの爺ちゃんが続けろ、って言ったみたいで。…だよな?」


だんまりと語り部を陽介に任せていた求は


「ああ…爺ちゃんと先生が続けろ…って。俺はそん時は嫌だったんだけど…試合に出ずに学校や爺ちゃんの手伝いを優先するって条件で…」


「ふむ、なるほど」


そう言うと石川は一瞬目を閉じて、意を決したように


「道場に行かなくなったのは、あの墜落事故と関係が…?」と尋ねた。


「やっぱ、知ってますよね…それ」


求は顔を曇らせながら答えた。


「すみません、事前に調べられることは」


求は軽く深呼吸した。


「すごいなぁ…なんか漫画とか映画みたいな。俺、拉致とかされないですよね?」


「いやいやいや!そんなことは!」


石川は慌てて否定する。


「拉致るつもりならわざわざ声かけたりしないよ〜」


女性が石川をフォローする。


「そうそう!」


「ま、そうですね。そんなことするような人らには見えないし」


個人情報を調べられた腹いせ、と言わんばかりに求は少しいじわるそうに返した。


狼狽る石川を遮って、女性が話しかける。


「それでアンタはそのチカラのことを隠して、まわりにバレないように慎ましく生きてきたワケだ。」


求は何も答えなかった。


「…聞きたいんですけど、なんで俺なんですか?どうやって、俺のこと知ったんですか」


「うむ、そう…だね。たしかにそれを話さないと。実はね、君とは違うが、彼女も不思議なチカラがあるんですよ。」


求は女性を見た。


「あっちの2人もね」女性は親指を後方にクイッと指しながら答えた。


求はさらに車のほうにたたずむ人影を見遣る。こちらからは遠くてどんな人物かはハッキリと見えないがそのうちの1人が求に向けて手を振った…ように見えた。


「今、手を振ったほう、あたしの妹なんだけどさ。あの子がアンタを見つけたの。あの子はそういうチカラがある…具体的なことは話せないけど」




「…それで結局、俺に何が言いたいんですか?」


女性は石川を見る。


「君がもし我々が考えるチカラの持ち主であるなら、ぜひ協力してもらいたいとお願いしにきたんですよ」


「協力…?」


我々はある目的のために組織として動く…準備をしているところです。今はまだ、ね」


スクウと陽介は互いに見合って目をパチクリさせる。


「あの…何するのかわからないのに協力して欲しいって言われても」


「今、それを君に言ったところで多分信じられないと思います。ですからまず…順番を追って、まずあの事故のことを君に話しておきたい。そして我々もいくつか君に確認したいこともある。…君にとってはツライことを聞くことになるかもしれないが…構わないだろうか?」


「何か知ってるんですか…?」求は食い付く。


「ふむ、聞きたいようであれば話をしても構わない、ということかな?」


求は頷いた。


「今日はもうこんな時間だし、2人とも帰りが遅いとご家族が心配するでしょう。続きは明日以降にしましょう。いいかな?」


「えー!今からがいいところなのに!」


女性が不服そうに割って入る。


「さ、さすがに長話になるからね?阪本君は話を聞いてくれるみたいだし…今日はここまでにしておきましょう」


「ぶー」


「それでは2人とも家まで送りますよ。時間をとらせてしまったからね…あっ、拉致なんてしませんから、ね?」


またまた狼狽る石川。


「ほんじゃあ、ま、乗せてもらえよ求。俺近いし歩きで帰るわ」


「お、おう…」


石川は求を車まで案内する。


やがて待機していた2人の姿形、特徴がハッキリしてくる。


さっきこちらに手を振ったほうの少女が声をかけてきた。


「こんばんはーサカモトさん!あたしツナグです。よろしくお願いします!」


なるほど、確かに女性によく似た感じの少女が、姉とは対照的に愛想よく話しかけてきた。


「あ、はい、サカモトです…」


「そんでぇ、こっちはオクヨミだよ。」


「オクヨミだ。よろしくな。」


待機していたもう1人の少年は感じの良さそうな、スクウより少し年上のように見えた。


「あ、どうも」


2人は握手を交わす。そのとき不思議な感覚がした。


一瞬のような、数秒のような、にこっとオクヨミは笑うと握手を解いた。


「それじゃあ阪本君は助手席に乗ってくれるかな。明日以降の予定について話したいからね。陽介くんは本当にいいのかい?」


「あ、俺んちほんとすぐそこなんで。だいじょぶっす」


助手席に乗り込んだ求に陽介が窓越しに声をかける。


「おちついたら連絡しろよ」


「おう」


「明日の修練どうする?」


「…わからん。無理そうなら先生に連絡するよ」


「おけ。ほんじゃ、また」


「お」



2人のやりとりが終わったことを確認して、石川は車を発進させた。


「あ、家の場所はわかるからね。大丈夫」


ですよねー、と求は独言た。


絆がクスクスと笑っている。


姉の女性はさっきからほとんど無表情のままだ。


「阪本君、今日は驚かせて本当に申し訳ない。いきなりこんな…我々のような見知らぬ人間に突拍子もない話題…不審に思っても無理はない。…私にはないが、後ろの3人の若人は、皆、君と同じで不思議なチカラを持っている…それだけじゃない。君と同じような身の上、境遇なんだ。」



「えっ…」


求は思わず後部座席を振り返る。


女性は窓の外を見ていて表情は伺えないが、絆と憶詠は求をみて悲しそうに笑った。


2人からは同じ苦しみと悲しみを背負う者同士の、奇妙な、形容し難い空気があった。


そう、だったのか…。求は前を向いて俯く。


「それで明日の予定はどうかな?」


「あっ、はい。明日は…多分、午前中から畑仕事だと思います。爺ちゃんに確認しないとハッキリしないけど。多分」


「そうか…何時ごろ終わりそうかな?」


「いつもはだいたい16時くらいです。昼休憩とかはしますけど」


「もしかしてその後は修練?」


「一応そうですけど…明日は休んでも…」


「いや、申し訳ないね…」


そこで絆がいきなり割り込むように、


「それじゃあさ!あたし達もね、はたけしごと手伝おうよ!そしたら時間できるでしょ?ね?」と身を乗り出して提案してきた。




「「え」」


絶句する求と石川。車内が静まりかえる。


「おー!確かにそれはいいな、おバカな絆にしてはナイス提案だな」と憶詠が続く。


「でしょー?あたし、『はたけしごと』ってやってみたい!」


「あたしはしたくない」


「何事も経験あるのみ、だな。うん。貴重な体験になるぞこれは」


「あたしはパース」


全く乗り気でない女性を他所に、憶詠と絆はすっかり意気投合し盛り上がってしまっている。


はぁ〜、と頭を抱える女性。


「えっ…と」


どうしたらいいのかわからず言葉に詰まってしまう求は石川の反応を伺う。


「え〜っと…阪本君のご家族に相談させてもらっても大丈夫…かな?」


「そ、そうですね…多分…びっくりすると思いますけど」


その後、求の自宅に到着するまでの車内は憶詠と絆の、未知のはたけしごとへの話題が非常に盛り上がったのだった。




4.




求を家まで送り届けた石川達は連絡先を渡して去っていった。どこかに宿をとっているのだろう。



求は晩ご飯を食べながら、祖父母にどう説明したら良いものか思案していた。





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