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怠惰な何でも屋の少年は美少女町長にロックオンされたようです〜食べるためにあくせく働くくらいなら、お腹をすかせたままでいいから寝ていたい〜  作者: exa(疋田あたる)
何でも屋と東国の使者

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4.「友だち……?」

 墓守の家のそばに蒸気三輪車(トライク)を停めると、すぐに家から大柄な人影が姿を現した。

 上背があり、体も厚みのあるその人影は遠目にもわかる。ウォルフだ。

 鼻のあたりまで伸びた前髪と伸ばしっぱなしの髭で相変わらず表情のうかがえないウォルフは、運転席から降りたランタナの前に立って小綺麗な衣服に身を包んだ彼を見下ろした。


「……何をしに来た」


 低い声でぶっきらぼうに吐き捨てる。

 ウォルフの見た目でやれば、それだけで立派な脅しだ。

 実際、墓守の家に物取りに入った者やアネモネに不埒な真似をしようと忍び込んだ者は、ウォルフのひと声で逃げて行った。イクサもそれが正しいと思う。


 けれど、ランタナは逃げない。

 それどころか、にこりと余所行きの笑顔を浮かべてウォルフをまっすぐに見上げた。


「はじめまして。私、チロック町長を務めるエリスアレス・サンフラウアさまの従者をしております、ランタナ・セバスティアンと申します。このたびはアネモネさんにご助力いただきまして、大変助かりました」


 笑顔で言い切ったランタナは身長こそ平均以上だが、体は細身だ。まあ、イクサに比べれば健康的な細さだが。

 それなのに、大男と言って差し支えないウォルフを相手にぴしりと背筋を伸ばした姿は引けを取らないのは、どういうことなのか。


 ウォルフと笑顔のランタナが無言でにらみ合うのを助手席に座ったままぼんやり眺めていたイクサは、こつん、と車体を叩く音ではっと我に返った。

 目を向ければ、おっとり微笑むアネモネが立っている。自力で荷台から降りたらしい彼女は、ぱちんと手を鳴らしてその場にいる皆の視線を集めてからくちを開いた。


「ただいま戻りました。ウォルフ、久しぶりなのだから家のなかでお話しましょう。お客さまもいるし、イクサも帰ってきたのだから。ね?」

「……長居はするな」


 アネモネのことばに短く返したウォルフはちらりとイクサに視線を向けると、すぐに背を向けて歩いて行ってしまう。

 その姿が家に消えた途端、待っていましたとばかりに草むらから飛び出したのは、二人の子どもだ。


「うわっすげぇ! 車だ! 動くの? これ、動くのか?」

「はわー……きれいなお兄さん、王子さま?」


 目を輝かせたタイムが蒸気三輪車のまわりをぐるぐるまわり、デイジーがランタナの前に立ってぼうっと彼を見上げている。

 町に行くことのない彼らには、絵でしか見たことのない車も絵本の登場人物のように身綺麗にした男も珍しいのだろう。


 放っておけば車の下に頭を突っ込みかねないタイムと、ランタナによじ登りそうなデイジーにイクサはよっこらせと車を降りる。すかさず駆け寄ってきたランタナが問答無用で手を貸してくるので、有難く借りておく。


「タイム、デイジー。アネモネがいなくて困ったことはなかったか?」

「んー、ウォルフの飯は顎が疲れる!」

「お部屋がなんとなく……汚い?」


 ぱっと顔をあげた子どもたちがくちぐちに言うと、アネモネが「あらあら」と苦笑する。

 

「ウォルフは一通りのことはできるけれど、器用じゃないから」

「そーそー。どかーん、とかばきーんとか派手にやるのは得意だけど、ちまちま野菜切ったりペンキの塗り替えしたりはイクサのほうがうまいよな」

「お掃除はアネモネ。料理もアネモネ。縫物も絵本を読むのもアネモネ……ウォルフは、熊なの?」


 タイムとデイジーのことばにくすくす笑うアネモネに、ランタナがすっと近づいた。


「お話中に失礼いたします。お荷物は、お揃いでしょうか」


 言って、両手に持った古い鞄をアネモネに示す。いつの間にやら蒸気三輪車の荷台から下ろしていたらしい。


「ああ、ありがとうございます。それですべてです。間違いないです」

「では、お運びします」

「そうですか? じゃあ、お願いします」


 アネモネとランタナが短いやり取りをして、なめらかに歩き出す。ふたりともなんだか妙にさまになっている気がするのはなぜだろう。

 ちょろちょろしていた子どもたちも後ろを追って行くのを見て、イクサも着いて行こうと一歩を踏み出した、その途端。


「お前はそこで座っていろ。すぐ戻ってくる」


 首だけで振り向いたランタナが余所行きの笑顔を消して言い放つ。

 この対応の違いはなんなのか。首をかしげたい気持ちになりながらイクサは首を横に振った。


「いや、すぐそこだし。いまはそんなに痛くないし」

「お前の意見は聞かないと、何度言わせる。いいか、動くな。座って待っていろ」

「……へーい」


 こういうときのランタナに何を言っても無駄だとわかってきたイクサは、おとなしく蒸気三輪車の助手席に座り直した。

  

 イクサとランタナのやり取りを見ていた子どもたちは目をまるくしてつぶやく。


「すげえ……なんか、ウォルフとはちがう強そうなひとだ……!」

「王子さまじゃない。王さま? お兄さん、王さま?」


 なぜか目を輝かせたタイムとデイジーに見上げられていたランタナは、子どもたちに視線をやると眉間のしわを消してにこりと微笑んだ。


「どうぞ、ランタナと呼んでください。私はしがない従者ですから」

「はー……従者! なんか、強そう!」

「従者……えらいひと?」

「いいえ、偉いひとにお仕えさせていただくのが私の仕事です」


 子どもたち相手にも、ランタナは丁寧な姿勢を崩さない。というか、むしろ日頃より何割か増しで穏やかなくらいだ。


「……俺の扱いがぞんざいなのか、なんなのかわからなくなってきた」


 イクサがついつぶやくと、耳に届いたらしいアネモネがくすくすと笑う。


「あなたにも良い友だちができたみたいで、良かった」

「友だち……?」


 アネモネの発言にイクサはきょとりとして、その意味を考えようとした。

 ちょうどそのとき、ランタナの声が飛んできてイクサの思考を途切れさせる。


「どうぞ、積もるお話は屋内で。行きましょう」


 促されるまま、アネモネと子どもたちはランタナを引きつれて歩き出した。

 ひとり残されたイクサは「友だちって……どういうものなんだ?」とぼんやり首をかしげているのだった。

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