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「もうちょっと寝たかったぞ」
鳥山が洗面台で顔を洗いながら誰にだか眠たそうに愚痴を言っているのが妙に聞こえるのだが、こいつ俺に話しかけてんのかね。
こいつそういえばよく寝る野郎だ。それにはどうにも理由があるらしくて、聞いた話によるとこいつの見張り番は午後からで、勤務時間が遅いということもあり、今まで午前中だらだらと過ごしていたからというものなのだそう。
とは聞いたが、俺の身長は、外国人と並んでもそんなに違和感はないほどだったはずなのだ。しかしこいつは俺よりもずっと背が高いのでそのことも聞いてみたところ、190cm近くあると知ったその日には、朝起きれないその理由はこいつがきっと仕事など関係なく昔からよく寝る子だったからなのだろうと悟った。てか絶対そうだろ?お前昔から寝坊助さんなんだろ?鳥山寝坊助なんだろ?
とか考えていると、こんどはそとから何やら騒がしい声が聞こえる。要約すると身分制度とか、王政に対する不満についてとかだった。言ってることはなんとなく分かったんだが、ここが王国であることすら今知った俺は何のことだかさっぱりわからないのは言うまでもなく、そこでちょっと乗っかり気味の間抜けな男の頭を軽くひっぱたいてから、よしよしすまなかったと謝ってやった。
ただ、密室に閉じ込められている俺たちには外での晴れやかな騒動など全く関係ないので、ある意味安心して過ごすことが出来る・・・はずなのだが。外を走りまわってる大量の囚人服を着た人々はいったい何なんだ?
まさかとは思うがあれは囚人じゃないよ
「おい。」
走っている奴らの中から一人の男が俺たちに声をかけ、束になったカギをこちらに投げいれると、
「あばよ!逃げたいんなら勝手にしな」
などと、聞いたような捨て台詞を吐いて去っていった。
「しめたぜ。俺らも逃げるぞ!」
マジかよ。
まぁこの世界では刑務所に記録されている俺の本名はきっと個人情報でもなんでもないし、これだけの囚人が逃げてしまえばもう探しようもないだろう。なにより冤罪なのだ!逃げて何の罪になろうということで、俺もさっさと逃げるとしよう。
「そうと決まれば・・・あり?」
なにもたついてんだ。早くしろよ。
「いやあのさ。この房ってAの14番だったよな?」
ああ確かそうだった気がする。
「・・・ない」
どうした?
「こんなかにAの14番ないんだけど」
・・・・あの囚人ただじゃおかねぇ
「俺たちだけおとなしく残ってるなんてまぬけだぜ?」
どっちにしろお前は間抜けだが、そのことはおれの心のうちに秘めておいてやることにして、そろそろ走る囚人の数もまばらとなってきていることに少々焦り始める。
「おいどうすんだよ」
俺に聞かれてもわからん。
かくして、俺たちだけがこの牢獄にのこっているという変な状況に、もどってきた看守は驚くこととなったのだ。
「うそだろ?」
まるでギャグみたいな現状に、俺も同じ言葉を使いたい気分であった。
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事が起きたのは、がらんどうとなった食堂で味の薄いクリームシチューを飲み干して房に戻ってきた俺たちは、先ほどからくすくす笑ってる看守(笑)に聞こえてんだよこの野郎と水を飲み干した木製の水筒を投げつけている最中だった。
俺たちの房は、出入り口からむかって左側にずらりと並んだ14っつ目にあるにある部屋なのだが、ぎりぎり鉄格子から覗こうとしても見えないその出入り口を看守(笑)がふと不思議そうに眺めたのであった。
どうしたんです?
「いやぁ。なんかでかいもんが落ちてきたみたいでな。暗くてよく見えんのだが、なんだあれ?」
「人じゃあないよな。」
鳥山が冗談ぽく言ったのだが、看守(笑)はどうやらビビったようで、
「おいおい気味悪いこと言わないでくれよ。」
と頼りなさそうに顔をしかめた。
その後看守(笑)が件のものを見に行くため歩き出してから、短い叫びが聞こえるまでの時間はそうかからなかった。
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