5pまで
「ラッキーだな。同じ部屋だなんて」
何がラッキーなものか。お前はともかく俺は冤罪なんだぞ。身に覚えのないナントカ罪ってやつで牢獄に入れられているまっ最中なのだ。
今は、何故この男はそんなに嬉しそうな顔をしているのかを考えているのだが、いつになっても答えが出る気がしないから、俺はその男、ステラとか言ったか?とにかくそいつに聞いてみることにした。
「冤罪だからこそだろ?不幸中の幸いってやつだ。罪もないのに頭のおかしい・・・そっちの気がある奴と同じ牢獄にぶち込まれるなんて御免だ。少なくとも俺は絶対に。」
確かにな。俺だってそっちの気はないのだ・・・っつっても投獄されるようなことをした憶えもないのだし、俺がいってるのはそういうことで
「まぁまぁ、今は目の前の現状を飲み込まなきゃだ。ってことで、よろしく頼むぜ?相棒」
お前に相棒呼ばわりされる憶えもないぞ。
どうやら俺の周りには人の言葉を遮りたい奴が多いらしいようだ。そういや牢獄にぶち込まれる時もそうだったな。野郎ども憶えてやがれ。
「お前の言葉はあまりに遮りやすいんでな。」
表記は絶対にアルファベットであろう軽快な笑いをあげるその男は、アンドルフィン送りでなくて良かったなと冗談交じりにいったが、その顔が心から笑っているように俺には見えなかった。
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時は20分ほど前に遡る。
「不審人物か」
あのー、何もしていないん
「4時38分。貴様を脅迫・公務執行妨害の罪で逮捕する。これからお前は940番だ」
いや何も
「A-14に入れておけ」
え?ちょっと
「了解しました!ついてこい940番!」
強引すぎない?ちょっと――――――
俺の声はこの狭い通路で、きっとよく響いたことだろう。
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――そして現在
「しっこうゆうよ?」
この世界にはそんな優しい制度はないらしく、元いた国というのがどれだけ素晴らしいものだったのかを痛感しつつ、俺はステラという男にどんなあだ名をつけてやろうかを検討していた。
というのも、俺がやっていた野球部ではそれぞれをあだ名で呼び合うことが恒例化しており、それにのっとって、どうやらしばらく一つ屋根の下で過ごすらしいこの男にもそれをつけてやろうと考え
ていたのだ。
そういえばお前、苗字はなんていうんだ?と聞いてみる
「苗字?そんなこと聞いて何になるんだよ。妙な奴だな」
まぁいいやと呟いてからその男は自らの姓を教えてくれた。
ステラトリッシュというらしいそいつは、これから俺にあだ名をつけられるとは思ってもいない様子でこちらを不思議そうに眺めていた。
よし、お前にはわが国を代表する偉大なる男の名前を付けてやろう。光栄に思え
「そいつはどうも。ってえ?なんて?」
ニックネームだよ。お前は今日から俺に鳥山と呼ばれることになる。よろしく頼むぜ。鳥山
「トリヤマ?変な名前だなそいつは。」
自分の苗字に誇りも何もなさそうなそいつは、意外とすんなりとその名前を受け入れた。むしろ少し面白そうにしていたので、この世界はけっこうそういったことに寛容なのかもしれない。さすがの俺でも人は選ぶが。
「お前も変な名前してるしなぁ。母国はどこだ?」
ここでほんとのことを話しても、どうせ冗談だと思われるか引かれるかだろうことは容易に想像できるから、俺は適当に東洋の国ってぼかして伝えておいた。
「へぇー。東洋大陸つーとアヴァロンのどっかの国と冷戦状態だって話だぜ。旅っつってたが・・・亡命でもしたのか?」
ま、まあな
なにやら訳の分からない地名がでてくるし、これは本当に異世界というやつなのだろうか?俺、死んだことになってんのかな。ふと日本でのことが頭に浮かぶ。きっと親も心配して・・・あれ、親って誰だったか。記憶が曖昧だ。そういえば中学前のこともよく憶えていない。なにか重大なことを忘れてる気がする・・・
「ふーん。やっぱよく分らん奴だな。まぁいつ大戦争になってもおかしくないって話だしな。せっかく逃げてきたはいいが、ここも巻き込まれるかもわからんぞ」
何やら複雑なことになっているらしいが俺もそういう難しいことはさっぱりだ。大体急にしらない世界の知らない時代にきて、世界情勢について理解を深めることをまず目的になど、たかがいち高校生の俺が考えるわけもなく、その場の流れに身を任せるほかできることなどないのだ。
「それとお前、どこでここの言葉おぼえた?」
あー、俺のいた国で教えられたんだ。スパイとかなんとかで。
そう、前々から違和感はあったのだが、なぜかは知らんがこの国おれの日本語が通用しているのだ。ただやはり白人顔の奴らが当たり前のように日本語をすらすらとしゃべると、吹替映画のような違和感がある。
「なるほどな。東洋の国はまったくおそろしいな。」
お、おうまったくだなぁ
「そうそう、戦争といえばこの前新聞で機関銃とかいうのが作られてるって見たぞ。それが完成すれば、東洋に大きく戦力差をつけることができるんだと。なんでも今の段階でも一秒間に12発も弾丸を連射できるらしいぞ。」
戦争も変わったものだなとため息交じりに告げる鳥山は、まるで老年の兵士のようなしぐさでうなだれていた。
その後聞いたんだが、ステラによると、最近猟奇的な犯人による連続殺人事件がおきているらしく、犯人を一刻も早く捕まえようと躍起になっていて、身元のよくわからない人物や、怪しい人物を見かけたらとにかく逮捕することにしているのだということ。にしても少女さえもそれに引っかかるとはいかんせんやりすぎな気もするのだが。
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そろそろ5日ほどたった。今日も着替えもないのに汗をかいて朝から最悪の気分なのをどうにかしてほしい。どうやら9月だというにも関わらず、妙に暑いこの牢獄のなかでは、べっとりと体に絡みつく服のせいで朝早々最悪な気分に襲われる。なんで向こう側で寝ている男はあんなにぐっすりなんだ。殴って起してやりたい気分だったが、けんかと見られて懲罰房におくられる可能性もなくはないからどうにか拳をおさえていた。
「いてっ!」
鳥山が壁に頭を勢いよくぶつけて飛び上がったのを笑ってやりたいのはやまやまであったが、その原因となったであろう破裂音---並びに巨大な爆発音が耳に響く今現在、俺が気にするのはそっちのことだった。
「何の音だぁ!?」
寝起きの間抜け顔で間抜けが俺に聞いてくるが、その間抜けと同じ部屋に閉じ込められている俺にはそんなこと知る訳もなく、奴の期待しているような答えは用意することは不可能だから、「知るか間抜け。今お前がやるべき最も正しい行為は顔を洗うことだ」という風なことを言っておいた。
その時俺の脳裏に真っ先に浮かんだのは、この前歴史の授業で教師が話していたフランス革命の始まりともなったらしいバスティーユ襲撃であった。
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この日は確か西暦678年 9月15日
城下町サンドルヴァン タバーリン牢獄でのこと
読んでくれてありがとうございました!