残された宝石箱 (箱物語18)
ある遠い町。
その町はずれに一軒のりっぱな屋敷が建ちました。
主人は商売でもうけた大金持ちでした。
月が雲にかくれた夜のこと。
主人は仕事のつごうで朝まで屋敷を空けることになりました。ただこんな夜は泥棒にねらわれやすいとしたものです。
主人は厳重に戸じまりをして出かけました。
主人が出ていくと――。
男が一人、こっそり屋敷に忍びこみました。
この男は泥棒で、さっそく玄関のカギをはずしました。
そのとき。
背後から灯りが照らされました。
泥棒はびっくり、大あわてで逃げ出しました。
泥棒が逃げると――。
灯りを持った男がどうどう玄関から入りました。
この男も泥棒で、さっそく宝石箱を探し出しました。
そのとき。
背後から小石が飛んできました。
泥棒はびっくり、大あわてで逃げ出しました。
泥棒が逃げると――。
小石を投げた男はらくらく宝石箱を手に入れました。
この男も泥棒で、さっそく宝石箱を手に屋敷を出ました。
そのとき。
背後から警察官に呼び止められました。
泥棒はびっくり、大あわてで逃げ出しました。
その場に宝石箱をほうり出し……。
宝石箱はぶじでした。
ところがそれは、主人にとってまことに運の悪いことでした。残された宝石箱が証拠となり、警察に逮捕されたのです。
宝石箱は盗まれたもの。
屋敷の主人も泥棒でした。
久方ぶりに仕事に出た夜のことでした。