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第三話 要因となったものの言い分

 

 ウォルク地方の母なる河――大河から分岐した支流の一つで大河と勝ると劣らない規模を誇るアマハラクサ川。海から見てこの川の三分の一の位置に都市ミッドイーナが存在していた。扶桑と同じくこの都市も“過去を持たない街”であった。

 植物以外は何もない無数の沼地が存在する湿地帯をたったの一〇年で約八万人が住む地に作り替えて、街の周りには白に塗装された城壁がそびえ立ち、中心には皇都ウェルナの皇帝がおわすところエンジュリオン城にまるでコンパクトしたかのような白に塗装された立派な城が建てられていた。この城はミッドイーナ城と呼ばれている。ただ、民衆はこの城を別の名で呼ぶ……。


「あともう少しでこの城は完成ということになるのだな?」

「その通りです。オリオン様」


 ミッドイーナ辺境伯現当主であるオリオン・ミッドイーナ辺境伯の問いに、政務を任されている重臣は恭しく答える。


「もう少し早くしろ」

「そうするとさらなる費用と労力がかかりますが?」

「構わん。労務者が働かないのなら罰則を厳しくてさらに働かせろ。労務者が足りないのなら女子供も働かせろ。建てるための金が足りないのなら百姓なら米粒一つまで搾り取れ、取るためなら女子供を手形として水牢に放り込むなど手段を選ぶな。ああ……それは異教徒だけだ、同じ神を信仰しているものにはそれなりには配慮しろ」

「かしこまりました」


 かつて存在していたウォルク帝國が定めた身分制度によって、君主や国司や官僚などの国の中枢を独占するようになっていた貴族階級に属する一族の生まれであるこのコーカエルフの男は、統治のイロハも知らないとんでもない暴君で――――。


「しかし、ここまで派手に行動していると二ホンに感づかれる恐れが」

「問題はない。叛意の企てに対し奴らは今まで何ら行動を示さないのだ。中央部と南部の掌握で手一杯で西部に手に回らないのだろう。父の代からそうだった。所詮はよそ者、統治が上手く行っていないのだ」


領内のことしか知らない暗君でもあった。


「確かにそうですな。オリオン様が代を継いでから一〇年掛けて戦力を強化したにも関わらず何も妨害をしなかったですから……」


 取り巻きの家臣たちも日本を含め領外のことを全く知らない井の中の蛙共であった。また当主にとって耳障りのいいことしか言わない廷臣でもあった。耳の痛いこと言う奴らは中央部に追放されるなど既に排除されていたのだ。領内は彼の意のままに動いていた。

 でなければ、日本によって争いが沈静化したこのご時世に悪政は行われる筈がない。城を含めミッドイーナのことを民衆が『人喰い街』や『人喰い城』と呼ばれる位に。この街と城を作るのに一〇〇人以上の労務者が犠牲となり今でも領民は建てる負担に苦しめられている。

 

「あともう少しです。城と軍備が整えられます」

「そちの言う通りだ。整えれば中央部に攻め込み、二ホンをこの地から叩き出す。そうなれば、北の連中の支援を受けるために頭を下げてきた苦労が報われる」


 そんな物騒な台詞を吐くオリオンはふと、なぜ父は二ホンを恐れていたのか? 全く分からないと思う。彼の父である前当主は優秀な人物で時流を上手く読み今現在の勢力まで拡大した。しかし、後継の育成には大失敗したようだ。一〇〇年先までの長い目で国を富ませ兵を強くさせろという遺言を無視して短期間で富国強兵を行ったことでこのザマなのだから。

 オリオンは楽しみであった。神の使いの生まれ変わりとして、異世界から訪れた侵略者である二ホンを追い払い。異教徒を完全に排除しイッシーナの教えの基にこの地を統一する夢を果たすときが来るのが待ち遠しくて仕方なかった。


「大変です!!」

「どうした。当主の御前だぞ!!」

「一揆です。各地にある代官所が襲撃されています!!」

「何ィ。政治や戦略が分からぬ賎民どもがとんでもないことを」


 喜びに水を差す報告が届いた。しかも次々と届けられる。


「一揆勢がここに迫ってきていますと報告が!!」

「早く叩き潰せ。二ホンに知られたら面倒なことになる」


 オリオンの癇癪が爆発し尖った耳が激しく上下に動いた。



「税率を下げろ。出産・死亡税を廃止しろ!!」


 鎌、鍬、先端に包丁など刃物を括りつけた棒、刀など多種多様な武器を装備していた一揆勢に属する大勢の百姓たちが、ミッドイーナ内部に唯一入れる大門前に詰めかけて騒いでいた。

 一〇月〇一日ミッドイーナ辺境伯領各地で起きた一揆は瞬く間に燃え広がった。

 各村で蜂起した一揆勢は代官所を襲撃し今まで積もり積もった恨みを晴らすかのように破壊を行い、そこにいた代官と役人を殺害するか捕らえた。

 それだけに収まらず、ミッドイーナ周辺に居住していた全てイッシーナ教信者でまた“元々ミッドイーナ辺境伯家に支配されていた”百姓でもある一揆勢が最初にミッドイーナに攻め込んだのだ。

 門は固く閉ざされ、一揆勢を無理にこじ開けようとせず、一日半もにらみ合いが続けられた。

 状況が変化したのは、他の一揆勢がイッシーナ教を信仰している地域に侵入したことが伝わったときだ。


「何だと。コグトとイッシが村を襲っているだと」

「豚貴族を倒せ。イッシーナの糞をぶっ殺せ!!」


 イッシーナにとって異教徒で領主の視点からして“新たな支配されるもの”であったコグト教とイッシ教の一揆勢がイッシーナ教を信仰する村々を焼き打ちにして住んでいる人を容赦なく殺すなど暴虐の限りを尽くした。

 各勢力の一揆勢にはある違いが存在した。比較的優遇されていた支配する者のイッシーナ教一揆勢の目的が武力で訴えるという一揆のなかで比較的温厚なものであったのに対し、代官所の襲撃以後は自衛を固めた領内の高原地帯にある村々で信仰されているイビナ教一揆勢を除いたコグト教一揆勢とイッシ教一揆勢は、領主打倒と常日頃の恨みを晴らすためにイッシーナ教を信仰する村々や教会を襲うなど領主が熱狂的に信仰し優遇してきたイッシーナ教を根絶やしにする意思を示した。

 また、動揺している彼らに、態勢を立て直した領主勢も同じ宗教を信仰している同胞としての配慮が一切ない反撃を加えてきた。

 それによって、イッシーナ一揆勢はただちに脱落することになる。元々装備していた武器と練度、士気が違い過ぎたのだ。住んでいた場所を別の一揆勢に焼かれ、弓を引いたことで領主勢が苛烈な弾圧の意思を示したことで領内に居場所を無くしてしまったからだ。ただの流民となってしまった彼らはアマハラクサ川で徒歩や船などの移動手段で隣領のキリツド伯爵領、中央部、南部に逃げ込むことになる。

 攻め込んだ一揆勢もミッドイーナ城を落とすことはできず。境に配備されていた領主勢がここに向かってきていることを知り一〇月〇四日撤退することになる。

 領主勢の即時敗北は避けられたものの、イッシーナ一揆勢を除いた他の一揆勢は勢力を維持しており戦況はなお予断を許さなかった。

 そんななかで、日本は一〇月〇四日現在、ミッドイーナ辺境伯領の戦乱には介入はしていなかった。


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