‘‘女は溢した,,
世にいうドヤ顔をする女に向かっては驚く顔しか届けることが出来なかった。勘はよく当たるものでなにかしらこちらに迷惑なものだと思っていたがこれ以上とは思わなかった。まさか拾えなんて命令されるのはもっての外。
「こ、断る!なんでお前を拾わないといけないんだ!!」
「理由?理由は山ほどあるが…。まぁ一番の理由は…」
女はどこかうっとりとした目で榊を見つめた。「お主が我を救ってくれたからじゃ…」
覚えがない、こんな女を救ったこともないし会ったこともない。今まで生きてきたなかで見たことのない女だった。
「す、救った?俺は救ってないぞ!!」
「それはお主が覚えていないだけだ。お主と会ったのは前世であった神代のみだったぞ、普通なら覚えているはずではないのか?お主は我等と違い、一回だけなのだ。憶えておるはずじゃ」
「お、憶えてないしお前も知らん!!」
「…我だけがお前憶えていると?」
女が妖艶に微笑んだ、思わず身震いがした。常人ではない何かがこちらを襲ってくるような身の危険を感じた。先ほどの異形なもの、恐怖、『戒』より恐ろしいものを身で感じた。またもや勘が働いた、女から顔を逸らし自宅に駆けて行った。あいつはやばい、『戒』とかいうやつよりやばい。榊は後ろを振り返ることなく自宅へと一心に駆けて行った。
「はぁ…」
残された女は榊に向かい溜息を吐いた。切ぞろえられていないであろう黒髪を弄りながら、ぶつぶつと愚痴を溢した。
「すっかりビビッてしまっている、あの時の勇気はどこにいったのじゃ。しっかし、拾わんとは嫌な奴じゃな。こんな儚い可愛らしい女を捨てるなどあらん奴じゃないか。しかも憶えていないとはお主は一回しか死んでいないではないか、憶えておるじゃろうが!全く、神はとてもひどいやつじゃなぁ…」
女は星の少ない夜空を見上げ、自嘲するように乾いた笑い声を発した。
「いや、神は…我であったな」
待っていろ榊、必ずお前の元へと、かえる。