表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

85/403

第八十五話 付与魔術とは

「ハンフェルさん靴くださいお願いします」

「心が篭っておらんな!」

「ハンフェルさん……靴ください……お願いします……」

「ふん、しょうがないのう。まぁ入れ」


 このガキ、何でこんなに偉そうなんだ……いきなり僕をハンマーで殴った上にこの態度だ。ここが無法地帯ならその憎たらしい顔は体とはオサラバしているところだ。


 店内は所狭しと靴が並んでいた。これを全部このガキが作ったというならまぁ、凄いんじゃないか?

 靴には1つずつ札がぶら下がっている。何々……。


「『STR微上昇』。付与済みなのか」

「まぁな。ワシが付与した」


 へぇ……それ凄い。付与術士はそれだけで食っていけると言うからな。靴も作れるなら立派な職人だ。性格はクソだけど。


「AGIが上がる靴が欲しいんだが……」

「あん?」

「欲しいんですが……」

「それならそっちの棚じゃ。適当に探して持ってくるがよい」


 ハンフェルの態度に溜息をつきながら指さされた棚に向かう。ローカットやハイカットの靴、ブーツまである。今履いているのはローカットの安いやつだ。んー、今度はハイカットのにしよっかなぁ。


「これなんて良いんじゃないか?」


 隣にいたダニエラがローカットブーツを持ち上げて言う。付与は『AGI微上昇』だが……。


「ほら、今履いてるのがローカットだろ? 次はハイカットのが欲しいなって」

「なるほど……んー……」


 唸りながら一緒に吟味する。色々なデザインがあるから迷ってしまう。詳しいことは分からないが、ちょっとずつ違って色々目移りしてしまうし、色もそれぞれ違う。赤いのもあれば黒いのもある。色か……色も大事だよな。銀翆なのでそれに合った色が良いな。しかしオーソドックスな茶系も良いな。髪色に合わせて黒も良いかもしれない。


「これなんかどうだ?」

「あ、それ良いな」


 黒いハイカットブーツ。付与魔法は『AGI上昇』。『微上昇』じゃない。値段は3倍くらいするが、僕には買えない値段じゃない。例のスタンピードを防いだ際に貰った諸々の報酬が残っている。


「なぁク……ハンフェルさん。付与魔法のAGI上昇って難しいのか?」

「今クソガキって言おうとしたか? まぁいい。それは姉上が付与したやつじゃな。ワシは微上昇までしか出来ん」

「ふぅん」


 偉そうな割にはショボいな。まぁ付与出来るだけ凄い方か……。じゃあこのブーツで決まりかなぁ。と、ブーツをダニエラから受け取り、ハンフェルの下に持っていく。


「これにした」

「ふぅん……お主に買えるのか?」


 ふっ、僕はお金持ちだぜ? 虚ろの鞄から靴の代金を取り出してカウンターに置いてやる。


「へぇ、それなりには持っとるんじゃな」


 すかさずドヤ顔のアサギ選手。


「その鬱陶しい顔をやめぃ!」

「ぐぬぬ……」


 アサギ選手、惜しくも敗退です!


「ふん、ではその靴はお主の物じゃ。その靴の素材は速いことで有名なアクセルパンサーの革で出来ておる。丈夫ではあるが、大事に履けよ」

「へいへいありがとうございました」


 最後まで憎たらしいガキだったぜ。しかし靴の履き心地は良い。悔しいが、腕は確かなのだろう。しかし歩く度に奴の顔を思い出してしまうのは、ある意味では呪いより厄介だった。




 昼になったので一旦木漏れ日亭に戻る。森料理を堪能したら次は武器屋だ。いやー、靴屋からすぐに武器屋に行っても良かったんだが、あの料理を食べると他は例のイケメンシェフの店以外行けないは。まぁ行ってないから分からんのだけど。と言うより店の場所が分かりづらいんだよ、この町は。今向かってる武器屋なんかも町の端っこだ。靴屋とは正反対の場所で、行くには木漏れ日亭を通り過ぎるので、結局昼食は木漏れ日亭だったりする。


 新しい靴を履くと靴擦れとか起こるけれど、この靴に関しては問題無いな。あのガキの靴だが、靴に恨みはないしな。しかしAGI上昇か……。


「なぁダニエラ」

「なんだアサギ」

「スピリスの防具屋にあったあの『AGI2倍』シャツ、覚えてるか?」

「あぁ、あの宣伝広告シャツか」


 覚え方が何とも言えない。しかし間違いでもないからやはり何とも言えなかった。


「そう、それ。あの服ってさ、本当にAGI2倍なのかな?」

「……というと?」


 ずっと気になっていたことだ。


「あの頃からステータス上がって、今は多分当時の2倍あるんだ」

「確かにそうだな」


 そうなのだ。あの頃は確か300後半だ。今は600後半。確認したのがスピリスを出る前だったから多少は上がっているとは思うが、2倍近いはずだ。

 あのデモンストレーションの時は消える速さで駆け抜けた。服に少々の魔力を流してだ。今はまぁ、《森狼の脚》を全力で使えば消えるが。服1枚で消えるとは思えない。AGI上昇系は身体能力の上昇だ。つまり、スキルは含まれない。


「本当に2倍なのかな。そもそもAGIが上がる付与だったのかな」

「巧妙に偽装された別の付与魔法、ということか?」

「あぁ、今思えばだけどな。あの速さは《森狼の脚》を使った時の速さと似てる」


 さっきも言ったが《森狼の脚》を使った全力は経験済みだ。一度、平原で本気で走ってみたことがある。あの時は平原の草が風で千切れて大変なことになった。

 それでも本気を出して消えた。魔力もそれなりに使った。決してシャツに流した魔力量では足りない。


「《森狼の脚》。結局何なんだろうな。ユニークスキル、で良いのか?」

「魔物に、ベオウルフに付与された魔法ということは付与魔術なのではないのか?」

「じゃあこれは状態異常ということなのかな」

「分からん。前例がないのだからさっぱりだ」

「そうだよな。前例がないんだ。だから、魔物が服に付与魔術を使うこともあったりするんじゃないか?」


 僕が考えていたのはこうだ。ベオウルフのような異常進化個体がその辺の服に固有スキルを付与して市場に流した。AGI上昇の重ね掛けとは言っていたが、それも本当か分からないしな。肉球防具店のニックは付与魔術師がいると言っていたが、その付与魔術師……本当に人間かね?


「謎は深まるばかり、だな」

「使い慣れてきたとはいえ、ベオウルフに付与されたスキルを全力でやってあの速さだ。ちょこっとの魔力であの速さは流石におかしい。きっとあのニックが言っていた付与魔術師、とんでもない奴だ」

「ベオウルフ以上の力を持つ人間、はたまた魔物か。下手に藪は突かん方が良いな」


 ダニエラと同じ考えだ。この問題はいつかスピリスに戻った時か、何処かでその付与魔術師の噂を聞いた時に確認してみよう。


 さて、目的地に到着した。『カシル武具店』。ここがこの町の武器屋だ。今回の店主は憎たらしいクソガキではないことを祈りつつ、僕は扉を開いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ