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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第七十九話 森の宿場町

 アサギ選手の開幕ミスにより、フォレストゴブリン選手は我がチームの存在に気付き、吠えながら此方に向かって発達した爪を振り上げた。よく見るとその腕も今まで見てきたゴブリンのそれよりも長い。あの重そうな爪と長い腕による遠心力増し増しの一撃は馬鹿に出来ないだろう。並のゴブリンなら一撃で沈みそうだ。


「私が爪を弾く!」


 前を走るダニエラがそれだけ言って更に速度を上げる。その隙に攻撃しろということだろう。僕とダニエラのコンビネーションなら余裕だ。


「任せろ!」


 僕も短く返事を返す。爪牙剣を後ろに引き、木々に引っかからないように構えながらフォレストゴブリン目指して走る。


 フォレストゴブリンは吠えて威嚇を続けるが、その目はしっかりと攻撃のタイミングを計っているのが分かる。なかなか知恵者だ。そんじょそこらのゴブリンよりも知能レベルは上のようだ。


「フッ……!」


 ダニエラとフォレストゴブリンの攻撃圏内が重なった。振り下ろされた右爪を見事にダニエラが上へと弾き上げる。その瞬間を見計らい、一気に速度を上げ、ダニエラを巻き込まない位置を斬る為に体を捻りながら引いた剣を振り下ろす。剣閃は左肩を上から下へと駆け抜け、肩から先を切り落とした。


「ハグァ……ッ!」


 痛みに呻くフォレストゴブリン。強襲狗鬼の爪牙剣は綺麗に関節と関節を切り離した。骨に当たった感触は無く、欠けることも無い。剣技に関しては目標としていたレベルに到達した感覚がある。爪牙剣を作ってもらった手前で申し訳ないがそろそろ武器を変えて戦ってみようかな。


「アァァァア!!」


 残った右腕を横薙ぎに振り、最期の抵抗が僕を襲う。それを爪牙剣の腹で打ち上げる。そして出来た隙をダニエラの細剣が止めを刺す。


「ハッ!」


 気合いの声と共に放たれた刺突がフォレストゴブリンの喉を貫いた。


「ゴ、ボ…ァ…」


 血が詰まり、喉から空気が漏れたフォレストゴブリンは溺れたように喘ぎながら地に沈む。そして動かなくなった。僕達の勝利。初戦突破だ。


「ふぅ……。お疲れ、ダニエラ」

「あぁ、お疲れ。アサギ」


 いつもの様に握った拳と拳を打ち合い、お互いに労う。今回も無事に戦闘終了だ。数々の戦闘を二人で乗り越えてきたが、段々とお互いの練度が上がってきているのが肌で感じられる。行く行くはアイコンタクトだけでやり取り出来れば無駄な時間もないし、何だか通じ合っている感あるし素敵だ。


 さて、此奴、どうしよう。


「討伐証明か。初魔物だから分からんな」

「見た感じ爪っぽいけど、逆に牙ってのもありそうだな」

「んー……とりあえず両方持っていこうか」


 まぁそうなるよな。ということで牙と爪、全部切り取った。空きの革袋にじゃらじゃらと詰め込む。爪が大きいから嵩張って1体でいっぱいいっぱいだ。ダニエラと話してとりあえずは此奴だけ討伐しておいて、他は見逃すことにした。


「さて、じゃあ帝国を目指そうか。……ん、いや、帝国にはもう来ているのか」

「そうだな。私達が目指すのはフリュゲルニアの帝都『ヴェルフロスト』だな」

「ヴェルフロストか……格好良い名前だな」

「初代皇帝の名前だな」


 ふぅん……やっぱ首都ともなると自分の名前を付けるんだな。アサギシティとかそういう感じか? 恥ずかしくて死ねる。


「まぁヴェルフロストまでは結構ある。それまではいくつかの村や町を経由して行こうか」

「りょーかい。途中、冒険者ギルドがあったら寄ろう。帝国の魔物の討伐証明調べたいし」

「勿論だ」


 行き先は帝都ヴェルフロスト。さぁ、気合入れて行こう!



  □   □   □   □



 気合を入れて森を歩く。踏み固められた道には相も変わらず影が差している。この中途半端な薄暗さでは夜目のスキルも上手く発動しない。日が落ちれば見えるようになるかもしれないが、同時に魔物も活発になるので、見えるようになるまでには森を抜けたい。魔物祭には参加したくないからな。と言う訳で僕達は気合を入れて歩いていた。


 気配感知を広げいているとちょいちょいフォレストゴブリンの反応が引っ掛かる。そーっと覗いてみるとドイツもコイツもみーんなベルル木に引っ付いて蜜を舐めている。ちょっと怖い。


「これ依存性の強い中毒とかあるんじゃねぇの……」

「流石にこうも漏れなく木にしがみついているのを見るとな……」


 何だか背中が冷えてくる。魔物も中毒になるベルル蜜。お子さんには用法用量を守って正しく与えてください、ってか?

 でもお陰様でへましない限り此方には気付かない。踏み固められた道にも折れた枝が落ちていたりするが、足元を見ながら歩けば何の問題もないね!




 薄暗さが漸く晴れた。歩くこと2時間。やっとのことで森を抜けた。


「はぁ、日差しが心地良いな!」

「あれだけの森が続いているなら宿場町でもあればいいのにな」


 あぁ、全くだ。朝早くにアレッサを出たからまだ良いものの、これが昼過ぎとかだったら森の中を抜けるまでに夜になってしまう。逆もまた然りだ。谷間の道は影になりやすいからすぐに真っ暗になってしまう。


「まぁでも、森の側には町はあるから時間さえ気を付ければどうにかなるか」


 と、ダニエラが言うように僕達の前方には町があった。森を抜けた先、そこにあったのは防壁に囲まれた町だ。まったく、森の中を切り開いてくれればもっとすぐに休めたのにな。


 まぁ愚痴っていても仕方ない。とっとと休みたいので町へ急ごう。さ、もうひと踏ん張りだ。


「ほら、行こうぜ。ダニエラ」

「うわっ、尻を叩くな尻をっ」



  □   □   □   □



 町の側は短く刈られた草が繁っている。芝生って感じだ。ところどころ町人が寝転がっていて気持ち良さそうに過ごしている。良い町なのだろう。治安の良さが窺える。


 ぐるりと町を囲う防壁に設置された出入り口となる門にはどの町でもそうだったが衛兵が門の左右に立って門番をしている。緑に染色された軽鎧を装備した衛兵は暇なのか、ボーッと二人して空を見上げている。治安も良ければ衛兵も暇。実に平和な光景だ。しかし僕達の足音に反応したのか顔を下ろし、流れるような動きで腰の剣に手を掛ける様は熟練の兵であることがはっきりと分かった。腕があるからこその手抜きということだろう。


「そこの二人、止まりなさい」


 勿論、僕達のことだ。言われた通りに立ち止まると、僕達の攻撃圏外まで歩み寄って油断なく見つめる。迂闊に圏内に入ってこない辺り、やっぱり腕が立つのだろう。


「旅人か? アレッサを抜けてきたように見えるが」

「はい。各地を旅している冒険者です」

「ふむ……フリュゲルニア帝国では町への立ち入りの際には身分を証明出来るものを提示してもらっている。冒険者であれば、ステータスカードだ」


 規律などしっかりしているのはやはり帝国と言ったところか。別にやましい事もないので二人してステータスカードを衛兵に渡した。


「少々待たれよ」


 片方がステータスカードを持って門の中に消える。ギルドのようなステータス表示機があるのだろう。


 しばらく先程の二人のようにボーッと空を眺めていると、相方門番が帰ってきた。残っていた門番に渡す時に「異常ありませんでした」と言っているのが聞こえた。


「お待たせした。町への立ち入りを許可しよう。ようこそ、森の宿場町『ヴァドルフ』へ!」


 門番二人が左右に別れ、バッとお互いの腕を町の方へ翳す。なんだか演劇臭いが、パレードの国ならではなのだろうか……ちょっとダニエラと引きながらも、フリュゲルニア最初の町、ヴァドルフへと到着したのだった。

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