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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第七十二話 トラブルメーカー、トラブルを回避

「それで、今度行く帝国ってのはどういう場所なんだ?


 南門から抜け、切り拓かれ整備された道を進みながら隣を歩くダニエラに問う。


「帝国……『フリュゲルニア帝国』は南を広く支配する国家だ。ちなみにフィラルドやスピリスは『ランブルセン共和国』にある。アサギは初耳か?」

「初耳だな。地理もわかんねぇ。北に森があって南に山があるくらいだな」

「北の森は『ソーヤーの大森林』と言う。南の山は『アレッサ山』。これはアサギもよく知ってる名前だな」


 僕を黒兎呼ばわりしたクソ冒険者共が鉱山奴隷として働かされている場所だ。実に馴染みのある名前だな。


「このアレッサ山一帯を『アレクシア山脈』という。東西に伸びる山脈がランブルセンとフリュゲルニアを分断している。アレッサ山にだけ、山門を置いて国の行き来が出来るようになっている。この山門の町、『アレッサ』を通って帝国に行くんだ」


 知らない単語が一気に出てきて頭の中の地図がてんやわんやだ。えーっと……。


 僕が飛ばされた国がランブルセン共和国。その霧ヶ丘で目を覚まして東にあるフィラルドへと歩いた。そこから更に東に行くとスピリスがある。そして、霧ヶ丘、フィラルド、スピリスの北にはソーヤーの大森林が広がり、南には東西に伸びるアレクシア山脈が聳え立っている。その山脈の向こうにはフリュゲルニア帝国が広がっている……。


 ふむ、何となく理解出来た。僕達が歩いたのは山と森の間だったわけか。森か山に飛ばされてたら死んでたな。町に辿り着ける自信がない。


「なんとなく分かったよ」

「そうか。じゃあこの先に見えるあの山の間を通って行くぞ」


 脳内地図がはっきりし、目的地の情景が浮かぶ。俄然、やる気が出るというものだ。しかし、一つ気になることがある。


「なぁダニエラ」

「なんだアサギ」

「帝国ってさ、軍事国家とかなのか?」


 帝国といえば血の気の多い印象だ。行ったら徴兵されました、じゃ話にならない。


「まぁ、そんな感じだな。軍は花形だと言われている」

「てことは戦争とか仕掛けちゃう系国家なの?」

「いや、そんなことはないぞ。寧ろ戦争嫌いだと公言している」


 えぇ……それはそれで帝国のイメージが崩れるんだが……。


「600年くらい前の皇帝は世界征服とか頑張っていて、実際成し遂げたんだが」

「マジかよ」

「マジだ。だが世界の統治など規模が大きすぎて当時の皇帝は過労で死んだ。次期皇帝だった息子は『俺は過労で死にたくない』と全力で土地を切り分けて今の各国が出来上がったんだ」

「それはそれで優秀だな……」

「色々揉めたらしい。だが今の形に落ち着いているということはそれなりの腕があったんじゃないか?」


 異世界の歴史というものだな。過労で忙殺された親を見て『俺は死にたくない』か。そういうのも歴史書みたいなのに書いてあるんだろうか? ちょっと興味がある。


「それ以来、帝国が他の国に喧嘩を売ったことは一度もない。軍といってもパレードが主な仕事だからな。華やかな仕事としてフリュゲルニアでは一番人気の職業だ」

「戦闘とかはしないのか?」

「魔物相手が基本だな。数で攻めてスタンピードの鎮圧等に貢献しているらしい。パレードだけが仕事ではないということだな」


 それからも色々とフリュゲルニアのことを聞きながら僕達はアレッサの町を目指した。途中、何度か休憩を挟み、先へと進む。朝一に出てきたが、それでもアレッサは遠かった。山が何となく近くなったかな程度しか進めないまま、日が傾いてきた。ポツポツと木が生えた草原と林の間のような場所で今夜は野宿だ。


「アサギ、テントはこんな感じでいいか?」

「流石ダニエラ先輩。バッチリッス!」


 サムズアップしながら鍋の中のスープを掻き回す。新鮮な野菜と角切り肉を入れ、塩と香辛料で味付けしたキャンピングスープ。それが出来上がったら鍋をどかせてフライパンを火にかける。熱したフライパンにダニエラの好きな肉を置いてジュウジュウと焼く。香辛料の香りがふわっと広がる。しかし気配感知にて周辺捜索は完了している。魔物一匹いやしないので問題無い。匂いが風に流れて遠路遥々やってきてくれるのなら喜んで対応しよう。ウェルカム経験値、だ。


 さて、肉も良い感じに焼けた。前にダニエラの腹に消えた串焼きに使ったエストックに刺して炙っていたパンと取り、皿に乗せ、ローテーブルに乗せる。スープと肉も乗せたらフリュゲルニアへの旅第一夜の夕食が完成だ。ちなみにこのローテーブルは僕が作った。道具と《器用貧乏》先生があれば脳内に図面と手順が浮かび上がる。木工も出来ちゃうとかひょっとして此奴はチートなんじゃないかと疑ったが、主人公補正は松本君に働いているのでもれなくチートスキルも松本君が授かっているはずだ。よって此奴はチートではないということになる。安心したぜ。


「ダニエラー。ご飯出来たぞー」

「わかったー」


 テントの裏で体を拭いていたダニエラが姿を見せずに返事だけする。僕の前で拭いてくれても構わないんだけどなげっへっへ。

 すっかり綺麗になったダニエラと向かい合って食事を始める。まずはスープだ。具沢山のキャンピングスープ(命名僕)は濃い肉の旨味と野菜のすっきりとした甘味が見事に混じり合っていて奥深い味を出してくれていた。これには僕も大満足。野菜は蕩け、肉は良い感じに崩れる。短時間の煮込みでも、やっぱり下処理して虚ろの鞄に放り込んでおくのは大正解だな。昼の休憩の時に仕込んでおいて良かった。

 続いて肉だ。大正義お肉様はピリッとした香辛料がマッチしている。ジュワッと溢れる肉汁が口の中で大洪水だ。それをスープで洗い、そして肉を囓る。落ち着く暇がなくて食べる手が止まらない。焼いたパンをスープに浸したり、肉を挟んで食えば世はこともなし、だ。あっという間に食事は終わってしまった。


「はぁ、満腹だ」


 そう言って満足そうにゴロリと寝転がるダニエラを見てふと思い出した。


「ダニエラ。僕の国には食べてすぐ横になると牛になるという言い伝えがあるんだ」

「ふむ……それは胸が大きくなるということか?」

「違う、そうじゃない」


 寝転がりながら胸を揉むダニエラから顔を逸らして慌てて否定する。最近のダニエラは何だか刺激的だ。この間も宿で一日中……いや、この話はやめよう。プライバシーに関わる。


「太るってことだよ」

「アサギ、そういうのは早く言え!」


 バッと起き上がるダニエラ。それを見てクスクスと笑っていると頬を膨らませて拗ねてしまう。僕はそんなダニエラの隣に腰を下ろしてぷくぅと膨れた頬を指で突いて遊ぶ。腕を組んでそっぽを向き、益々拗ねてしまったダニエラの機嫌を良くするには一晩掛かってしまった。



  □   □   □   □



 そんな感じで楽しく旅は進む。草原を抜け、木が疎らに生えた丘陵地帯を歩いていると草に隠れた穴から兎型の魔物、グラスラビットが時々襲ってくる。薄い緑色の兎の頭には小さな角が生えている。まぁ角が生えようが僕達の敵ではない。難なく倒し、角を貰って先を行く。

 丘陵地帯を抜けると、色んな大きさの岩がゴロゴロと転がった場所に出る。岩陰から蜥蜴型の魔物、ストーンリザードが土魔法で攻撃してきたり、石で作った武器を振り回すゴブリン一行にも出会ったりした。

 そんな異世界感溢れる田舎を3日掛けて抜けると、いよいよ目の前にアレッサ山が迫ってきた。山頂には薄くだが雪が残っている。山間からは数本の煙が伸び、そこに鉱山の町アレッサがあることが分かる。この分なら今日中に着くだろう。


 しかし、僕はこの瞬間を一番恐れていた。


 何故ならば、いつも町に辿り着くその瞬間に、とんでもないトラブルに巻き込まれるからだ。フォレストウルフに追い掛けられたり、ワイバーンに追い掛けられたり、だ。絶対にここでも何かあるに決まっている。ダニエラは何でもないように歩いているが、僕は辺りをキョロキョロしながら挙動不審に町を目指す。気配感知を広げて入念にチェックし、勿論、上を確認することも忘れない。太陽の中に小さな影が無いことを確認して、地面もしっかりチェックする。いきなり下から……なんてこともあるかもしれないしな。


「なんだ、アサギ、落ち着きのない奴だな」

「油断するな、ダニエラ。こういう勝ちを確認した瞬間にとんでもないどんでん返しがあるんだ」

「誰と戦ってるんだお前は」


 呆れ顔でダニエラが僕を見るが、僕はそれどころじゃない。安全確認に忙しいのだ。目的地に着くまでが旅なのだ。


 と、気配感知が後方から迫る何かをキャッチした。そら見たことか! 僕の予想は当たるんだ!


「ダニエラ! 後方から敵接近!」

「はぁ?」


 僕は素早く爪牙剣を抜き、正眼に構える。濛々と土煙を上げて何かが凄い速さで接近してくる。


「なぁアサギ」

「早く構えろダニエラ! 敵が来るぞ!」


 土煙の中に馬車が見えた。旗を掲げた馬車だ。魔物ではない。ということは……


「まさか、盗賊!?」

「こんな町の近くで盗賊が出るわけ無いだろう。それにあの旗は……」


 どんどん近付いてくる馬車。二頭の馬が荒々しく大地を踏み締めて接近する。段々はっきり見えてきた馬車を操る御者。……あれ、どこかで見たことがあるような、ないような。


「あぁ! やっぱりその装備はアサギ様! 遠くからでもそのウィンドドラゴンの装備は良く見えましたよ! あれ、何で剣なんか構えてるんです?」


 僕は何も言わず、そっと剣を下ろした。御者の男は『肉球防具店』の男店員さんだった。このやり場のない気持ちはどうしたらいいんですかね?

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