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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第五十八話 やっと防具屋に来ました

 サンドイッチの具材は焼いた卵とベーコン、レタスの最高にごきげんな具材だった。また来るリストに加えて僕達は席を立った。


「そろそろ行くか」


 と、お釣りを革袋にしまいながらダニエラに言う。何だか物足りなさそうに腹に手をやってるが、今日は女子力高めの日なのを思い出したようで、頷いて僕に続いた。


 昼前ということもあって、そろそろ昼食にと出てきた町の人で大通りはごった返す。僕達は離れ離れにならないように……という名目で手を繋いで歩いた。


「なんか、こういうの照れる」

「私も経験がない。最後に手を繋いでもらったのは父さんと散歩した時だっけ……」


 なんてダニエラが言うもんだからちょっとセンチメンタルな気持ちになった。ダニエラの両親か。会いたかったな……。


「なぁ、ダニエラ」

「ん? なんだ?」

「その、故郷に両親のお墓はあるのか?」


 そう聞くとダニエラは天を仰ぎ見て、遠くを見ながら答える。


「あぁ、私の家だった場所に建てた。あれ以来戻っていないから今はどうなっているのか分からんがな……」

「そうか……じゃあ、落ち着いたら挨拶に行かなきゃな」

「ありがとう……アサギ」


 ギュッと手を握り返してダニエラが微笑んでくれた。僕も微笑み返しながら手をギュッと握る。賑やかな町の中で僕達二人は穏やかな時間を過ごした。




 大通りに面した服屋『肉球服飾店』の脇を通って裏道にある『肉球防具店』へ連れ立って入る。店内は鎧が並べてあるので手は離した。ぶつかって傷でも付いたら最悪だ。


「いらっしゃいませー! 肉球防具店へようこそ!」


 と、奥からあの時と同じ店員さんが出てくる。


「久し振り」

「あぁ、お客様でしたか。防具ならちゃんと取り置きしていますよ!」


 取り置きしてなかったら大問題だ。暴れるぞ僕は。


「代金を用意出来たので来ました」


 そう言ってハロルドさんから貰ったワイバーン素材を換金した金貨60枚を入れた革袋に、レックス達と山分けしたワイバーン討伐報奨金から取り出した金貨5枚を加えて店員さんに差し出した。本当にワイバーン様様だな! 南無。


「あれから数日ですよね……何やったんですか?」

「ちょっとワイバーン狩りました」

「うっそ、じゃあワイバーン2頭をソロで討伐した『銀翆』って……?」


 2頭もソロで討伐してねーよ! 尾鰭付きすぎだろ!


「いや、1頭でも相当ですよ」

「ボロボロのワイバーンに止め刺しただけですって」

「まーたまたぁ!」


 信じてねーな此奴……まぁ良い。不毛なやり取りをしている場合じゃない。愛しの防具ちゃんの所に案内せい!


「では案内しますね、銀翆様」

「それやめてもらえます?」



  □   □   □   □



 案内されて店内の奥へ進む。まぁ奥へ進むと服屋の方へ出るのでそれ程奥ではない。マネキンのような立て掛けられた木の塊らしき台に僕の防具(仮)が着せられていた。しかし以前と様子が違う。腰布が付いている。刺繍も入って本格的だ。


「このマントのような物は?」

「あぁ、これはですね。取り置きの為に全て装備させた状態で置いていたら嫁が……あぁ、服屋の方の店主なのですが、『なんだかバランスが悪い』と余っていたウィンドドラゴンの布を使って一晩で仕上げたんですよ。あぁ、料金はサービスしておきます。うちが勝手に付け加えたものですし。それにあの銀翆の装備になるのですから!」


 はぁ、確かにポンチョで肩からストンと布が落ちているので鎧が見えるウエストの下からまた布が来るとシルエットとしては良いのかもしれない。昔、友達だった安田が『キャラデザはシルエットで決まる』と言っていたのを思い出した。しかし機能性としてはどうなのだろう?


「動きやすさは特に問題ないかと。それに腰マントが追加されたことで風魔法の効果は更に高まりますし、AGIにも影響されるでしょう。流石に時間はなかったので、AGI微上昇の付与はありません。付与料金を払って頂ければ付与依頼出しますよ」

「依頼? 誰かに頼むんですか?」

「はい。うちが言う付与料金とは厳密には仲介手数料なのですが、付与魔術師に依頼するんですよ。個人での依頼は受けていないのでこういう形でしか付与して貰えないんですよ」


 なるほどな。付与なんて誰もが頼みたくなる魔法だから、間口を狭くすることで希少価値を出すんだろう。上手いもんだ。

 しかしちょっと時間掛かるのか。悩みどころだが、ワイバーン先生のお陰で軍資金はある。初期投資はサボると後で痛い目を見るが僕の座右の銘でもあるのでここは依頼しておくべきだろう。


「じゃあ依頼しましょう。依頼費はここで払います。ちなみにどれくらい掛かります?」

「えー、魔術師の予定で変わってくるのですが、大体1週間前後と見て大丈夫でしょう」


 それくらいなら安いもんだ。目の前でお預けされた感はあるが、ここはグッと堪えて我慢の時だ。


「では装備代、金貨65枚に追加付与料金、金貨10枚の、合わせて金貨75枚になりますね」

「はいはい、追加で10枚、と」


 レックス上納金から金貨10枚を取り出して店員さんに渡す。さて、これで全て完了だ。借金のない綺麗な体になった気分だ。


「ありがとうございました。では1週間後にまた来店してもらえれば装備は全て出来上がっていますので」

「こちらこそありがとうございました。おまけまでしてもらって。ここに来て良かったです」


 ガッチリ握手する。握力勝負は発生しなかった。


「ところでそちらのお客様……」

「ん? 私か?」


 重鎧をボーッと眺めていたダニエラに声が掛かる。何か、服屋に来たけど何の興味もない彼氏みたいだな……。


「その服……」

「あぁ、良いだろう。アサギに買ってもらったんだ」


 ふふん、と自慢げに笑ってその場でひらりと回ってみせる。可愛すぎか。


「非常にお似合いです! もしかしてなんですが、『ゴブリン'sブティック』の……?」

「あぁ。ここに来る前に寄った店ですね」


 僕が答える。あの店名はもうしばらく忘れられないだろう。


「やっぱり! あの、もう少し見せてもらってもいいですか?」

「あぁ、別に構わないが……」


 訝しむように店員さんを見ながらダニエラが寄ってくる。店員さんは腕を組み、ジッと全体図を見ながらダニエラの周りを歩く。その姿は正に職人だ。


 そして徐ろにスカートに手を伸ばした。僕は全速力で店員さんの頭を平手で叩いた。


「馬鹿野郎かお前は!」

「すみません……つい夢中になって……」


 叩かれた頭を押さえながらペコペコと頭を下げる店員さん。ダニエラは突然のことに固まっているのか、動かない。


「アサギ……私の為に……」


 デレ期真っ只中なダニエラさんは感激して固まっているようです。僕は苦笑しながらもこめかみをピクピクさせるという器用なことをしながら店員さんを引き剥がす。


「大体あんた、防具専門じゃないのか?」

「服飾にも興味はありますよ? こういったデザインの服が好きなんですよ」


 じゃああのパンクねーちゃんの店に行けばいいじゃないの……。


「いやぁ、あそこ、何だか怖くって……」


 そう言われると僕は何も返せなかった。




 それからしばらく談笑してから店を後にした。店員さんは『今度、勇気出して行ってみます!』と張り切っていた。別に取って食われるわけでもないのだからそんに緊張しなくてもいいのに。


 ダニエラと大通りに出ると傾いた日が平原都市を守る防壁の陰を落としていた。ダラダラと喋っていたらもうこんな時間か。なんだか時間が過ぎるのが早い気がする。


「もう日があんなに……時間が過ぎるのが早いな」

「あ、それ僕も思ってた」

「ふふ、やはり好きな人と一緒にいるとそう感じるのかもな?」

「ば、馬鹿……っ」


 不意打ちはやめなさい! 真っ赤に顔が染まるのが自分でも分かるのがまた恥ずかしい。


「うん? どうしたアサギ。顔が赤いぞ?」


 ダニエラが覗き込むように僕を見つめてくる。可愛すぎか。ますます照れ臭さが加速していく。


「これはあれだ、陽の光の所為でそう見えるんだ」

「ほう?」


 ニヤニヤと笑いながら僕を弄るダニエラ。これが惚気というやつなら僕は夜勤辞めて冒険者に転職して良かったと心の底から思える。しかし弄られっぱなしというのも面白くない。ので、ここは一発おみまいしてやるしかない。


「アサギアサギ、私の顔は赤くないがこれは陽の光の所為なのか?」


 などと言いながら意地悪な笑みを浮かべた顔を僕に寄せてくるダニエラの顎に手を添えて僕から顔を寄せて黙らせてやった。見開かれた目が僕を見る。そして陽の光の所為か、ダニエラの顔も真っ赤に染まった。口を離した僕は仕返しが成功したことに満足げな笑みを浮かべる。

 さて、仕返しの仕返しが怖いので僕は逃げるとしよう。宿に向かって僕は走り出す。後ろは振り返らない。振り返る必要はない。ダニエラが追いかけて来ないはずは微塵も無かった。

初期投資をサボった紙風船は3日目にスマホ割りました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 1度告白しあったら今まで一切意識してなかったのが嘘みたいにイチャイチャしだすじゃんw
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