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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第五十四話 仲間

 ボルドーとの対話を終えて部屋から出ると、そこにフィオナがいた。どこかそわそわした様子は普段の元気な雰囲気からは想像出来ない。不安そうに椅子に座っていたが、僕とダニエラが出てきたことに気付くと駆け寄ってきた。


「アサギくん、ダニエラさん!」

「よっ、久し振り」

「本当にね! お互いに忙しくなっちゃうし、会えないままだったし……って、そうじゃないよ! ワイバーン倒したってほんと? 怪我はない?」


 僕の体をあちこち触って傷がないか確認している。右太腿を指差すとペチペチと叩いてきた。痛みはないので大丈夫、と頷くと安心して離れてくれた。


「まぁここには折れた剣が刺さっちゃっただけなんだけどな。ワイバーンにはあんまり攻撃されてないよ」

「凄いね……無傷みたいなもんじゃん」

「それは言い過ぎだな」


 まるで僕が超人みたいじゃないか。ダニエラとフィオナと歩きながら経緯を話す。合宿してたらワイバーンに出会った、ってだけだからそれほど長くなることもなく、エントランスに着く頃には話は終わった。


 エントランス……カウンター前にはレックスを含めた多数の冒険者が集まっていた。彼らは見覚えがある。レックスのパーティーメンバーだ。改めて見ると結構レベルが高そうな、強そうなパーティーだ。そんな奴らでも盾持ちのダニーが崩れればどうなるか分からないんだな……と、世の戦闘事情を思う。やっぱヒーラーは入れるべきだな、うん。


「アサギ!」


 そんな思いに耽っていたらレックスに呼ばれた。片手を挙げて応答する。するとレックス以外のメンバーも手を振ってくる。


「よぉ、礼が言いたかったんだ。あの時はありがとうな」


 最初にそう言ってきたのはダニーを抱えて逃げていた大剣持ちだ。僕は差し出された手を握って対応する。


「元気そうで良かった。盾持ちの彼は大丈夫なのか?」

「ダニーなら心配ない。俺達で出し合った金で良い治療院に入れたからな。今は安静にしてるがすぐに出てこられるさ」

「そいつは良かった。面会は出来るのか? 御見舞に行きたい」

「あぁ、行ってやってくれ。お礼が言いたいって言ってたからな。きっと喜ぶはずだ」


 元気そうで良かった。後で伺わせてもらおう。

 それからは弓持ちやレックス以外の剣持ちと少し話した。皆一様にお礼を言ってくるのが少しばかり恥ずかしかった。そんなこと、あまり言われないからな……だが、悪くはなかった。


 しばらく話しているとワイバーンの換金の話になった。


「換金額は合計で金貨140枚と銀貨が少しになった。これを俺達とお前で分ける。異論は無しだ」


 と、レックスが言う。僕はそれで構わないと頷く。


「で、これがアサギの取り分だ。確認してくれ」


 言われて差し出された革袋を受け取る。何だか分けた割には重いんだが……中を開いて驚いた。どう見ても分けました、って量じゃない。半分は入ってる。


「おいこれは……」

「分けたんだ。異論は、無しだ」


 そう言ってレックス達が笑う。全員把握済みか。此奴等、感謝の気持ちは言葉だけじゃ足りないらしい。僕は大人しく従い、革袋を鞄の中に入れた。


「わかったよ、分けたんだよな。貰っておくよ」

「あぁ、それでいいんだ!」


 レックスが肩を組んできて楽しそうに笑う。あぁ、いいなぁ。こういうの。冒険者って感じだ。この世界に来て憧れていたんだ。黒兎なんて笑ってくる冒険者もいたが、ガルドやネスのような気風の良い冒険者が僕は好きだった。正に自由を体現した冒険者。僕も彼らのようになれるだろうか。


「さて、俺達はこれから酒場だが、アサギ達はどうする?」

「んー、僕はダニーの見舞いに行ってから防具屋に行こうと思ってたんだが、ダニエラ、どうする?」


 ダニエラに話を振ってみる。


「私は酒場がいいな。ただし、ダニーの見舞いが先だ」


 元々、防具屋は明日行く話だったしな。それと最近分かった事だが、ダニエラが妙にそわそわしている時は腹が減っている時だ。ちょっと落ち着き無くキョロキョロしている時なんて正にそれだ。此奴、腹減ってるだけだな。残念美人め。

 ということで一旦レックスと別れて、僕達はダニーが入院している治療院へと向かった。




 ダニーは最初、緊急ということで衛兵隊中央詰所の医務室に運ばれたらしい。そこで応急処置を受けたあとはスピリスで一番大きな治療院に入院したそうだ。重鎧を穿ったあの高圧縮ブレスは中々に酷い傷を残してくれたらしい。優秀な治癒師達に囲まれて集中治療をされたダニーは服を捲って傷を見せてくれた。腹部を中心に焼けたような傷が広がっている。よくこの傷で無事だったな……。


「無事だったのはあんたと、皆のお陰だ。そのお陰で俺は今、ここにいるんだ。本当にありがとう」

「もうお礼は何度も聞いたよ。ほら、腹を冷やすと風邪引くぞ」


 それからもお礼を何度も聞かされたが、ダニーの人柄というのが分かって良かった。助けた相手が嫌な奴だったら悲しいしな。そろそろお暇するよとダニーに言ってから病室を出た。ダニエラと二人でレックス達がいる酒場へ向かっていると、ダニエラがぽつりと言った。


「アサギ、あまり無茶はしないでくれよ」

「今回の事は悪かったと思ってるよ……今後は気を付ける」

「アサギは私のパーティーメンバーなんだ。君が居なくなったら私はまたひとりだ。今日、ボルドーの話を聞いたり、ダニーの傷の深さを見て思った。君がいなくなったらどうしようと」


 ダニエラは地面を見つめながら言う。確かに、一歩間違えば僕は死んでいた。あの危険の中に飛び込むことを躊躇していた僕も確かにいたはずだ。だけど、あのレックスの声を聞いた瞬間、僕は飛び出していた。命には代えられないと。しかし天秤に掛けていたのはスキルのことだ。そこに自分の命は無かった。何処かに『僕なら倒せる』なんて傲慢な気持ちがあったのかもしれない。ダニエラはその事を言ってるんだと思った。何よりもボルドーにスキルのことを隠したのが証拠だ。


「君が自身の命を投げ出して人を救うというなら私は君の手足を折ってでも止めるぞ。分かってくれ。君が大事なんだ」

「ダニエラ……」


 何だか告白されてるような気分だがダニエラは至極真面目な顔だ。少し耳が赤いのはきっと良くないことを想像してしまったからだろう。


「分かった。これからはもっと考えて行動するよ。僕一人の体じゃないみたいだしな?」

「そ、そういう意味で言ったんじゃないからな!」


 慌てたダニエラがいつもの面を懐から取り出して付ける。しかし悲しいかな、耳の先は真っ赤だった。

 僕達は並んで歩く。最初はお互いに一人で歩いてた道だ。だが今は並んで歩いている。隣にいる仲間がいるというのはあの一人の夜とは比べ物にならないくらい、頼もしい。支えてくれる頼もしくも愛しい仲間の為に出来ることを探しながら、僕は酒場へと歩いた。

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