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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第五十二話 ギルド出頭命令

「ふがっ……ぁあ……朝か……」


 体が重い。節々が痛い。寝て起きた今も正に満身創痍真っ只中で、ベッドから起きるのも一苦労だ。


 ここは西門衛兵隊詰所の医務室。昨日の昼過ぎにワイバーンと戦う冒険者がやばそうだったので加勢して逃して、全力で戦って倒したのが夕方頃。それから休む間もなく歩いてスピリスに戻ったのが夜。そしてハロルドさんの厚意で医務室で治療してもらい、ワイバーン戦時に負傷した右太腿の傷を塞いでもらった。そこで僕は力尽き、ベッドで寝かせてもらったのだ。


 そして目が覚めて朝。おはようございます。今何時だ?


「おぉ、アサギ殿。目が覚めましたか」

「ハロルドさん。おはようございいます」

「おはよう! ですがもう昼時ですぞ?」


 な、なんだって……随分と寝過ごしたみたいだ。


「まぁ、あれだけの傷でしたから、仕方ないでしょう」

「勿体無い気もしますけどね……」


 貴重な午前をふいにしてしまったことに嘆息しながらベッドから出て立ち上がる。いたたた……まるで全身筋肉痛だ。まさかとは思うが《森狼の脚》を使い過ぎた反動じゃあないだろうな……。


「あ! 忘れていました!」

「どうしました?」

「アサギ殿が意識を取り戻し次第、ギルドへ出頭するようにと言われています!」

「ギルド、ですか」


 あー、なんか、凄く、面倒臭い予感しかしない。絶対これギルドマスター出て来る案件だ。


「じゃあ行きますか……あいたたた……」

「あまり無理されては……」

「いえ、面倒な事は早く終わらせる性分なんです」


 嫌いなことは一番先にやるタイプなのだ。夜勤の時も調理器具とか一番最初に洗ってたしね。

 完全に血塗れだった衣服はそのままだったので、処分してもらった。虚ろの鞄から新しい服を出して着替える。風呂に入りたいところだが、傷が開く可能性があると言われたので濡らした布で体を拭いて髪を洗うだけにしておいた。最低限の身支度が出来たので装備を整えて詰所を出た。


「ではアサギ殿、ご武運を」

「あはは、戦いに行くみたいですね」

「剣だけが戦いに非ず、ですぞ!」


 フンス、と鼻息荒くハロルドさんが言いながら手を差し出す。お、やるか?


「ですね。自分の納得のいく勝利を掴んできますよ」


 僕も手を伸ばし、ガッチリと握手する。ギリギリとお互いの手を握りしめ合う。満身創痍気味ではあるがこれも戦い。手は抜けない。数十秒間の2回戦目は接戦だったが、ハロルドさんの勝利に終わった。めっちゃ手が痛い。


「では、また」

「お気を付けて!」


 ジンジンと心地よい痛みが残る手を振って僕は詰所を後にした。向かうはギルド。嫌な予感しかしない孤立無援の戦場へ僕は足を向けた。



  □   □   □   □



 屋台街を抜けようとした僕は人混みに紛れたダニエラを見つけた。両手には串焼きが握られていた。僕、確かハロルドさんにダニエラに伝言頼んだよな。起きてから何か忘れてるなぁと思ってたけど、そうだよ。ダニエラが居なかった。


「ダニエラ!」

「む、その声はアサギか?」


 振り向いたダニエラが僕の姿を確認して人混みを掻き分けて近付いてくる。


「アサギも昼食か?」

「はぁ? 飯食ってる場合じゃないだろ。何で来てくれなかったんだよ」

「うん? 待ち合わせは明日じゃないか。アサギこそ合宿はどうしたんだ?」


 んん? 話が噛み合わない。


「衛兵から伝言、聞いてないのか?」

「衛兵? 何かやらかしたのか?」


 あ、これ何も聞いてない。何でだ? 行き違いになったのか?


「あー、多分連絡が遅れてるわ。ギルドに呼び出されてるから行きながら話すよ。串焼き、1本くれよ」

「しょうがないな……1本だけだぞ」

「ありが……おい、食いかけ寄越すなよ」

「もぐもぐ……」


 食い物に関しては損すること嫌いだよな……。はぁ、と溜息をついて串焼きを頬張る。流石、屋台博士が選んだ串焼きは美味かった。




「……まったく、君という奴は無茶をする。それでその有様か」

「まぁな……いやマジで死ぬかと思った」

「普通は死ぬ」


 ギルドへの道を歩きながら合宿からの経緯を話した。ダニエラのジト目が僕に突き刺さりっぱなしでそろそろ致命傷なのだが許してくれそうになかった。


「それで、這々の体で西門まで戻ってきてハロルドさんに事情を説明して、意識飛びそうだったからダニエラに来てもらえるように伝言頼んだんだよ」

「なるほどな。私は朝から出掛けていて、宿には居なかった。宿にも戻っていない。だから連絡が届かなかったんだろう」


 ヨシュアさんで伝言が止まっているんだろう。帰ったら話をしておかないとな。と、話しながら歩いていると時間はあっという間に過ぎて僕達はギルドへと到着した。僕の新たな戦場。ギィ、と扉を開いて中へ入ると、まるで面制圧されたかのような数々の視線に射抜かれた。胡乱げな目。興奮に満ちた目。訝しむような目。怒りに染まった目。そして一番熱い視線を送っていた人物が僕に近付いてきた。


「アサギ! この野郎、生きてやがったか!」

「レックスか。この通り、ボロッボロだけどな」

「普通は死ぬっつーの! あぁ、でも良かった!」


 レックスが僕の肩をバシバシ叩いて生存を喜んでくれる。普通に痛いのでレックスの肩を叩いてやめさせる。落ち着いた所でダニエラにレックスを紹介した。


「ダニエラだ。うちのアサギが世話になった」

「レックスだ! いや、世話になったのは俺達よ。ダニーも無事だ。ちと高かったがな!」


 そう言って親指と人差指で”◯”を作る。あの傷を治療したんだ。高額なのは致し方ないだろう。でも助かって本当に良かった。


「ダニーの医療費で赤字にはなったが、生きてこその冒険者稼業だからな。これからは研鑽して連携を高めていかないとな」

「赤字……」


 その単語を聞いて僕はずっと考えていたことをレックスに話した。


「ワイバーンの討伐報酬な、レックス達で分けてくれないか?」

「はぁ!? 奴を倒したのはアサギだろう! 俺達は尻尾巻いて逃げたんだ。貰っていいものじゃない!」


 レックスは憤慨だ、と腕を組んでそっぽを向く。


「いや、ワイバーンを倒したのは僕達全員だ。僕は最後の詰めを担当しただけだ」

「お前、そんなのが通るわけ……」

「奴の翼を潰し、消耗させたのはレックス達。そのボロボロの奴にとどめを刺したのは僕。違うか?」

「違わねーけど、よ……アサギ、お前、それでいいのか?」


 真剣な目で僕を見つめてくる。僕も真面目な顔で見つめ返しながら頷く。それが一番良いと思っていたからな。あそこまで削っておいて報酬は僕が全部掻っ攫うなんて真似、出来るはずがなかった。レックスは僕が折れないと理解してくれたみたいで、盛大な溜息をついた。


「俺達が奴の実力を見誤った所為でああなったってのに、お前って奴は……」


 なんだよ……とジト目で睨むが、横からダニエラが僕の肩に腕を回してきた。


「アサギはな、こういう奴なんだ。お人好しで、頑固で。だが、良い奴だ」

「く、ははは! あぁ、まったくその通りだ! あぁ、ありがとうな、アサギ!」


 な、なんだよ二人して……。ちょっと顔が熱い。適当に返事を返しておいた。

 その後も雑談をしているとギルド員が此方に歩いてきた。あ、用事があったの忘れてた……。


「ご歓談中に申し訳ございません。アサギ様、ギルドマスターがお呼びですので、よろしいでしょうか」


 ついに来たか……。僕は頷き、レックスと別れてダニエラとギルドの奥へと向かった。通路を通り、事務室のような場所を抜けた先には大きな両開きの扉があった。ギルド員がコンコン、とノックする。


「アサギ様とそのパーティーメンバーのダニエラ様をお連れしました」

「入れ」


 短い応答があり、ギルド員が扉を開く。促され、中に入ると目の前の机の向こうに派手な赤髪の大柄な人が座っていた。この人がギルドマスターか。


「ようこそ、冒険者ギルドスピリス支部へ。私がギルドマスター、ボルドーだ。よろしく」

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[気になる点] 血まみれの服は処分したってことはもうコンビニの制服はないのか?
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