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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第四十八話 君子危うきに近寄る

「んが……ぁあ、朝か……」


 朝日が森を照らしているのを見ながら段々意識が覚醒していくのを待つ。はぁ、相変わらず自然の風景は美しい。ここには日本のような人工物の溢れた世界じゃない。だからこういった自然風景は好きだ。国立公園みたいな場所には行ったこともないしな……。よし、大体目も覚めてきた。僕は自身を縛っていたロープを解いて木と枝に絡まるように結ぶ。それを頼りに地上へ降りた。今夜もここで野営だから、このままで良い。ただし道具類は虚ろの鞄に詰めて樹上だ。居ない間に漁られたらたまったもんじゃない。持って行かれたりしたら最悪だ。ラッセルさんから貰った大事なヴィンテージ品だ。


 必要な道具だけ別の鞄に詰めて背負う。飯は干し肉を歩きながら囓る。あんまり腹いっぱい食うと動き難い。良く噛めば満腹感は得られるってダイエット番組で言ってたからこれで良いはず!

 よし、武器持った。荷物持った。大事なものは木の上。火もちゃんと消えてる。いいね! 出発だ!



  □   □   □   □



 と、始まった第二回森林合宿。現在合宿2日目。昨日はゴブリンを狩っていた。集めた武器は50を越えた。マジでこの森、うじゃうじゃいやがる。全部が全部、武器を持っていた訳じゃないから倒したゴブリンは確実に50を越えているはずだ。雑魚魔物を倒してもレベルは上がらないが、塵も積もれば精神だ。多分1つくらい上がってるんじゃないかな。

 とりあえず武器が溢れかえりそうなので本日は草原に来てみた。一昨日の夕方はワイバーンの影響でグラスウルフが逃げ出していたが、今日はどうだろう。と、気配感知を広げてみる。ちなみに昨日、ずっと気配感知を発しながら探索していたので、ちょっとコツを掴めた。距離感が掴めてきたんだ。数は相変わらず朧気だが、いきなり出くわすことが減ったのは僥倖だ。お陰様で順調に退治出来ている。


 そして草原、現在。グラスウルフは戻ってきているようで安心した。少し離れたところにいるみたいだ。何匹かは分からないが……まずは手始めに、だ。その茂みの向こうの大岩の陰にいる。

 そっとアラギラ大将渾身の鋼鉄の剣を抜き、足音を消し、そっと近寄る。相手は魔物だが犬だ。匂いには気を付けている。僕もこう見えて冒険者稼業は長いしな、基本だ。さて、ゆっくりと、しかし素早く岩の側へ寄る。そっと音を立てずに岩の上に登り、そこから顔を覗かせると、ビンゴだ。グラスウルフが何匹か寝そべっている。見た感じ食後か? 兎っぽい骨が散らばっている。なら油断しまくり大敵しまくりだ。狩るしか無い。


 ベルトに差した短剣をゆっくり抜く。まだ慣れていないので《器用貧乏》を使いながら狙いを定めて、群れのうちの1匹に投擲する。流石《器用貧乏》と言ったところか、吸い込まれるように短剣はグラスウルフの脳天に突き立った。ガッツポーズを取りたいところだがそんな暇はない。慌てる群れに岩の上から滑り降りた僕は鉄剣を突き刺す。返り血を気にすること無くそのまま振り抜き、死んだグラスウルフを起き上がった1匹にぶち当てる。たまらず転がったら後は首を落とすだけだ。スパン、と関節と関節の隙間を通して胴体と離れ離れにしたら此方に向かって飛び掛かってきたグラスウルフを転がって避ける。勿論、すれ違いざまに刃を立てる事は忘れない。鮮血を流しながら着地したグラスウルフはそのままゴロンと地面におねんねだ。そして立っているのは僕だけになった。


「ふぅ……」


 息を吐いて呼吸を整える。天を仰げば太陽はまだまだ地面寄りの高さだ。昼までにあと20は狩っておきたい。さて、次は爪を抜く作業だ。死んだグラスウルフの前足を持ち上げ、短剣を爪の根元に差し込む。そのままどうにか根元から抜けば作業終了。後は適当にまとめて置けば自然回帰するらしいから端に寄せておこう。


 これでこの群れはおしまい。鞄から取り出した水筒から水を飲む。爽やかな冷たさが喉を潤してくれる。ちなみにこの水は魔法で出した。水筒には保存の魔法がかかっているので劣化しない。それなりの値段はしたが、今回の合宿費用の内なので問題無い。

 休憩が終わったら次の群れだ。気配感知を広げると、少し遠いが森と草原の境に何かを発見した。森が近いからゴブリンかグラスウルフか分からない。遠くて数も分からないがモヤモヤと大きめの気配がするから少し数は多そうだ。気を引き締めて行こう。




 途中、どこからか走ってきたグラスウルフの襲撃があったが、特に被害を受けること無く討伐した。素早く爪を折り、鞄から取り出した袋へ入れて歩き出す。死体の始末は魔物に任せた。そろそろ気配のあった場所だ。相変わらず数は分からない。気配が大きいというか、広いというか……くそ、まだ完全に物にしていないから分からん。それに何だ、この威圧感というか、そういう気配だけはビンビン伝わってくる。もしかしてグラスウルフか、ゴブリンの親玉でもいるのか?


 その木々の向こうだ。そこへ擦り寄り、そっと覗く。ヤバい奴なら逃げるしか無い。脳内に《森狼の脚》を用意しながら顔を覗かせる。そしてその正体を見た。


 あぁ、マジか。なるほど、ここに居たのか……ワイバーンの、番い。なるほど、大きな気配は群れじゃなかった。此奴1匹の気配がでかすぎたんだ。となるとさっきのグラスウルフ共、此奴を見て逃げてきやがったな……。


「グルルル…………」


 喉を鳴らしながら寝そべっている。寝てるのかどうかは分からん。が、逃げるなら今のうちだ。君子危うきに近寄らずが僕のモットーなのだ。

 と、振り返ろうとして気配感知に何かが引っ掛かった。此奴のでかい気配に隠れて何かが此方に来ている。場所は森の方だ。目を凝らす。と、木々の隙間から見えたそれは数人の冒険者だった。まさかあいつら、クエスト板を見てやってきた冒険者、か?

 ジッと見ているとそのうちの一人と目が合った。僕はそっと人差し指を口の前に立てる。それを見た向こうが頷き、仲間に知らせた。連中が僕を訝しむように見たので、僕は親指で自身の背後を指差し、逃げることを伝える。すると冒険者達はニヤニヤと笑う。どう思ったんだろうな。ヘタレと思ったのか、独り占め出来ると思ったのか。まぁ関係ない。僕はすたこら逃げるのみだ。


 ……が、思い直してその場に留まる。連中がどういう戦い方をするのか見てみたい。多人数の戦闘はまだ見たことがないから、見て学べば《器用貧乏》の肥やしになるやもしれん。

 見ていると連中が武器を構え始めた。仕掛けるつもりだ。僕は身を低くして茂みに隠れながら観察する。まず一人が弓に矢をつがえた。牽制か、初撃か。ジッと見る。剣を抜いた奴がゆっくり近付き出したから援護射撃だろうか。ん、走り出した。一気に仕掛けるのか。と、弓から矢が放たれた。同時攻撃か!


「うらぁぁあ!!」


 鋭い剣閃がワイバーンの顔へ迫る。日に照らされた鏃が銀線を描きながらワイバーンの額に突き立つ。と、思われたがそれは叶わなかった。硬すぎる鱗の盾に矢が負けた。そして冒険者の声と、攻撃に目を開いたワイバーンは……


「ゴギャアアアアア!!!!」


 鎌首をもたげて咆哮する。その圧倒的強者の怒声に一瞬怯んだ剣を持った冒険者は、しかしすぐに気を取り直して剣を構え直す。矢は効かなかったが剣は通るのか? ガサガサと森から現れた冒険者達、計8名がワイバーンを囲う。それを睥睨するワイバーン。そして茂みに隠れる僕。さてこの戦闘、どうなるのか……。

指摘がありましたので訂正します。


さて、次は牙を抜く作業だ。死んだグラスウルフの口をこじ開けて短剣を差し込む。そのまま根元から折れば作業終了。

さて、次は爪を抜く作業だ。死んだグラスウルフの前足を持ち上げ、短剣を爪の根元に差し込む。そのままどうにか根元から抜けば作業終了。


グラスウルフの討伐証明は爪だということをすっかり忘れていました。今後は気を付けます。

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