第四十七話 金策開始
おさらいしよう。金貨57枚。ワイバーン素材の換金額だ。金貨3枚と銀貨60枚。オーク討伐の報奨金だ。これらを合わせた金貨60枚と銀貨60枚。これが今回の報酬だ。
そして僕の新装備予定のアイスドラゴンの革鎧。鎧、篭手、靴、それと脛当ての4種で値段は金貨40枚。ウィンドドラゴンの衣類。インナー、ズボン、フード付きのポンチョの3種それぞれに付与魔法がついて合わせてお値段金貨60枚。これらの合計金貨100枚が僕の交渉で値下げしてもらった金額、金貨65枚が、僕の目標金額だ。
つまり、残り金貨4枚と銀貨40枚が必要なわけだ。適当にグラスウルフ辺りを根絶やしにしてしまえば稼げる額だ。が、そんなことをしてしまえばそれらを稼業にしている方々から非難の嵐だ。地道にクエストをこなすのが無難だろう。そしてそれもダニエラが手伝ってくれるので作業は半分になる。からと言っておんぶに抱っこになるつもりは最初からないので、頑張って稼ぐつもりだ。
というわけで、だ。僕は今、クエスト板の前にいる。各種クエストが貼られた掲示板だ。そこに貼られたいくつもの紙を見て吟味する。
「ふむ……やっぱ討伐クエストが旨いか」
グラスウルフ、ゴブリン、まだ見たことはないがコボルトなんてのもいる。犬頭の魔物だな。ファンタジー通りであれば、だが。
「ぉお? なんだこれ」
一枚のクエストが目に入る。内容は『ワイバーン討伐依頼』だ。ワイバーンなら倒したんじゃ? と思い、よく読んでみる。
「なになに……『本日昼過ぎに討伐されたワイバーンの番いが目撃された。これの討伐を依頼する。』……ふむ、番い、ねぇ」
あの討伐後に周辺捜査をしたところ、巣が見つかったらしい。オーク同様、どっかから流れてきたんだろうか。まぁ僕には荷が重い。此奴の討伐は強い人におまかせしよう。
ということで僕に出来るのはつまるところ、雑魚魔物の掃討だけだ。ちょいと合宿してグラスウルフとゴブリンを討伐しよう。
クエスト板からゴブリンとグラスウルフの討伐クエストを千切り、クエスト発行カウンターに行く。今はもう慣れたやり取りでクエストを発行してもらう。と、そこでギルド員さんに声を掛けられた。
「そういえばアサギ様はレベルが36に達しましたので、ランクD、通称『橄欖石』に昇格出来ます」
「橄欖石ですか」
所謂ペリドットか。鉱石から宝石になったわけか。
「よろしくお願いしても?」
「はい、承りました。では少々お待ち下さい」
またまた椅子で待機だ。ボーっとしているといつの間にか消えていたダニエラが戻ってきて隣りに座った。
「どこ行ってたんだ?」
「ちょっと屋台」
さっき食べたじゃん……。
「そうそう、ランクが上がったんだ。ランクD、橄欖石だそうだ」
「もうDランクか。早いものだな」
「そうなのか?」
「あぁ。ちなみにレベル36から50は橄欖石だ。そして51から70は柘榴石。私も柘榴石だな。とは言え、もうすぐランクが上がりそうだが」
柘榴石、ガーネットか。橄欖石から柘榴石までは長いんだな。レベル上げてランク上げるのも良いかもしれないが、まずは基礎が出来なくちゃだ。地道な努力が生き抜くコツだ。
それにしてもダニエラは先を行くなぁ。追いつきたいが、追いつきたくない。そんなジレンマ。
さて、その後は特に何もなく僕のランクアップも終わる。ダニエラは一度、宿に戻るらしい。
「僕は合宿で稼ぐことにしたからこのまましばらくは別行動だな」
「ふふ、折角宿を取ったのにアサギはそんなにも木の上が好きなのか」
「別に好きで木の上にいるわけじゃねーよ!」
なんてやり取りもあったが、お互いの無事を祈り合いつつ5日後、宿の前で会う約束をして別れた。そのまま僕は合宿に向かうので食料その他の買い込みだ。屋台の美味そうな匂いに惹かれながら食料を買い、鍛冶屋でゴブリン製の武器を買い取ってもらう。これで合宿費用はプラマイゼロになった。ここはフィラルドより鉄製品の需要があるみたいで買取額もなかなかの値段だった。だがそれも合宿費用で消えたので、装備獲得の代金に上乗せすることは叶わなかった。
これで合宿準備は整ったので僕は西門から町を出た。こんな時間に……と門番が訝しんでいたが、相方らしき門番が許可を出してくれた。昼間の方ですよね? と聞かれたので、多分、そう。と答えた。あの隊の中にいたんだろう。適当に挨拶をして通してもらった。
夕日が綺麗な草原を歩いて森を目指す。《森狼の脚》で走り抜けた草原は歩けばそれはそれは長閑な場所だ。昼間のワイバーン騒動でグラスウルフ達も逃げ出したのか、気配はない。実に静かだ。虫の声が耳に優しい。
しばらく歩いていると森が見えてきた。日はとっくに暮れている。振り返ると平原都市が明るく輝いているのが見えた。眠らない都市といったところだろうか。対して僕は眠る場所を探している。勿論、木なんだが。それももう視界に捉えた。森に行けば蔓もある。が、僕も文明人。実はロープなんて物を購入しました。鍛冶屋のワゴンセール的コーナーに鉤爪も売ってあったので、購入した。多分これ、手に付けて戦う系の装備だと思うんだけどまぁ、今は僕を木に縛る道具に過ぎない。これを使った戦法も《器用貧乏》を使えば確立できるだろう。それも追々だ。
と、森に到着した。まずは飯だ。テキパキと準備は進む。これも旅慣れた証か。まずは焚き火だ。これが無いと始まらない。暖と明かりだ。燃え移りそうな草や枝を避けて焚き火場を作る。避けた草を枝を火口に使い、集めた太めの枝に火を移す。これで完了。途端に周辺が明るくなる。次は周辺散策だ。何か危ない物や使える物がないか確認する。ふむ、見たところ視界を邪魔するものは特に無い。使える物も、特に無い。つまらん。
野営地に戻って焚き火の側に座る。はぁ、あったけぇ……。虚ろの鞄から取り出した屋台飯を食いながら今後の計画を立てる。殲滅、撃滅、皆殺し。おっけー、終了。
ふぅ、腹も満たしたのでそろそろ寝よう。理想としては風呂に入りたいところだがここは森の中なので贅沢は出来ない。ということで大人しく樹上野宿だ。ガッシガッシと木を登る。相変わらず見晴らしは良い。少し近くなった空にはお星様がきらめいている。雲も無く澄んだ夜空だ。今頃、ダニエラは何してるんだろう。まぁあいつも冒険者で年長者だ。僕なんかより上手いことやってるんだろう。二人で稼いだ金から金貨4枚と銀貨40枚を抜いたらあとは山分けしよう。宴会でもしたいなぁ。なんて、色々夢想していると眠気が襲ってきた。縛ったロープの緩みがないかを確認してから吊るした虚ろの鞄から毛布を取り出して被る。明日は朝から狩るぞー。と、僕は眠気に身を委ねて意識を手放した。明日に期待。
ブックマークが100件を越えてました。嬉しいことです。ありがとうございます。
※指摘がありましたダニエラのランクの修正をしました。(翡翠→柘榴石)




