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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第四十六話 ボーナスは突然に

 結局、僕は異世界ファッションデビューを果たすこと無くギルドへと来ていた。でもまぁ売約済みだし? 後はちゃっちゃと金策こなせば竜種装備セットは僕のものだ。現在の所持金は金貨2枚と銀貨60枚と銅貨が600枚くらい、かな。銅貨は100枚ずつ纏めて袋に入れて虚ろの鞄に収納してある。銀貨に変えてもいいが、そこは元コンビニ店員。端数のお金がないと落ち着かない。

 つまりあと金貨65枚だ。計算が合わないって? 財布の中身全額で支払ったら生活出来ないでしょうが!


「流石は平原都市のギルドと言ったところか……広くて綺麗だ」

「冒険者の質も良さそうだ。あの大剣使い、なかなかの腕があると見た」


 二人してお上りさんよろしく、キョロキョロと見回していると一人のギルド員が声を掛けてきた。


「ギルドは初めてですか?」

「ここのギルドは初めてですね。フィラルドから来ました」

「あら……では貴方がフィオナさんの言ってたアサギ様ですね。そしてワイバーンを倒した」


 何か知らんがもう話が通っているらしい。しかも僕がワイバーンを倒したことになっている。倒したのは衛兵隊で、僕は一撃入れただけなんだが。


「アサギ様のことはフィオナさんから聞いています。良くしてやってくれと。そしてワイバーンに関しましてはつい先程、衛兵隊長西地区担当のハロルドが来まして『ワイバーン討伐の最大の功労者はアサギという冒険者なので、討伐報酬は彼に』と」

「えっ」


 あの人何言ってんだ!? 僕は飛んでるところに氷剣をおみまいしただけで、あとの削りや止めは全て衛兵隊の功績だろ!


「ハロルドが持ち込んだのはワイバーンの爪8本、ワイバーンの牙24本、ワイバーンの翼膜2セット、ワイバーンの逆鱗1枚、ワイバーンの心臓1個になります。此方をアサギ様にと」


 そう言ってギルド員さんは目録を僕に差し出す。確かに今言った内容がリストになっている。最後に『これら全ての品をアサギ殿に』とまでご丁寧に書いてある。


「いやしかしこれでは衛兵隊から不満が出るでしょう。自分達の功績を一介の冒険者に全て掠め取られるだなんて」


 だってそうだろう。ワイバーンだぞ? 竜種だろ。正確には翼竜種という亜流らしいが、腐っても竜種、それを討伐出来た功績と業績は立派なものに違いない。それを僕みたいなのが総取りなんてしたら不満が募るに決まっている。矛先がハロルドに向かったりしたら最悪だ。


「実はこの品目がワイバーンから取れる全ての素材ではありません」

「そうなのですか? でもレア素材でしょう」

「一番、需要があるのは鱗と皮です」


 あ……そういえばその2つが載っていない。


「でもその2つでも元は取れないでしょう?」

「そこは足りない分はハロルドが自身の財布から出すとのことです。今頃は酒場でしょう」


 クスクスと笑うギルド員さん。あー……酒を自費で奢るのね……。


「じゃあ、貰ってもいいんですかね……」

「えぇ、素材自体は保存魔法にてギルドで保管していますので、受け取る場合は『報酬引渡』のカウンターでこの目録を出して頂ければ」

「分かりました」


 改めて目録を受け取る。いきなりワイバーン素材を貰うなんてな……今度詰め所でハロルドに礼を言わなければ。

 目録を受け取った僕はダニエラと『報酬引渡』カウンターに来た。流石にフィオナは居なかった。


「すみません、このオークの討伐証明を換金してほしいのですが」

「オークですね。畏まりました。ではステータスカードを」


 オークの牙6本とステータスカードを渡す。勿論、ダニエラのもだ。


「それとこれを」


 ついでに目録もカウンターに置く。


「拝見します。…………はい、アサギ様ですね。目録に記載されている素材の引渡でよろしいでしょうか」

「はい、おねがいしま『アサギ』……なんだ?」


 コミュ障のダニエラ先輩が珍しく割り込んできた。なんぞや。


「ワイバーンの素材は換金しないのか?」

「…………あっ、その手があったか!」


 素材を貰うことばかり考えてたが、貰う素材を換金すれば目標金額に大きく近づくんじゃないか!?


「この目録の素材、換金したらいくらになりますかね?」

「えーっと、今の相場ですと……申し訳ございません、品数が多いので調べて参ります、あちらの席でお待ち下さい」


 後方に置かれた椅子を確認する。


「分かりました。よろしくお願いします」

「はい、承りました」


 カウンターから離れてダニエラと共に椅子に座って待機する。することもないし暇だな……。それにしてもダニエラの発想には脱帽だな。と、その話をする。


「いやー、流石ダニエラだな。換金なんて考えもしなかった」

「折角貰う鮮度の良い素材なんだ。売れば良い金額になるだろうな。そもそも貰っても使い道がないだろう?」

「あー……レア素材が沢山だぜとしか考えてなかった。収集癖とかあるのかな」

「ふふ、アサギは変な癖を持っているな?」


 変とは失礼な。珍品コレクションは立派なサブカルチャーなんだぞ。サブカル系の女子にモテるんだぞ。


「他にも変な癖はあるぞ?」

「えー、なんだよ」

「よく髪を掻き上げているだろう。何か考え事をしている時はよくやっている」

「え、知らなかった」

「ふふ、隣で見ているとよく分かる。掻き上げると綺麗な黒い瞳が見えるんだ」


 はー、よく見てんなぁ…………見過ぎじゃない? はっは、さてはほの字か?


「ダニエラもやっぱりエルフだけあって綺麗な目だよな。透き通るような翠は高評価だ」

「あぁ、この目か。新緑の目を持つと色が変わるんだ。生まれた時は違ったらしいが、幼い時に発現してな」


 ぽつりと呟き、遠くを見るように虚空を見つめるダニエラ。その翠の瞳が見ているのは過去の故郷だろうか。

 生まれた場所、家族、友達。全てを無くした彼女を見ていると、よく分からない感情が込み上げてきた。何だろう、酷く胸を締め付けられる。同情か? それとも……。


「アサギ様、お待たせしました」


 その声にハッとしてダニエラの横顔に固定していた視線をカウンターに戻す。そこには先程のギルド員がいて僕を見ている。そうだ、相場の確認をオーク討伐の報酬だ。


「オークに関しましては今回、討伐クエストが発行されていませんでしたので、素材相場から換金した金額のみのお支払になります。よろしいですか?」

「はい、それで良いです」

「畏まりました」


 目の前に出されたトレーには金貨が3枚と銀貨が60枚。意外と高レートなんだな。やっぱ人類の敵みたいなところあるからかな。


「では続いてワイバーン素材の相場です」


 お、きたきた。ここ大事よ。ゴクリと唾を飲み込んで、耳を澄ませた。


「ワイバーンの爪が1本銀貨30枚、ワイバーンの牙1本銀貨20枚、ワイバーンの翼膜が1セット金貨3枚、ワイバーンの逆鱗1枚金貨10枚、ワイバーンの心臓1個金貨25枚となります」


 えっ、嘘でしょ……聞き間違いじゃないよな?


「しばらくワイバーン討伐が成されませんでしたので、素材が高価格になっております。先程の目録に記載された素材合計数から、換金しますと金貨57枚になります」

「……」


 思わずダニエラに振り返る。どうして良いか分からなくてだ。ダニエラはその切れ長な目を細めて笑った。それだけで僕はこれが良い結果なのだと確信出来た。


「是非、換金してください」

「承りました。ではもうしばらくお待ち下さい」


 ギルド員さんはそれだけ伝えるとまた奥に引っ込む。僕は覚束ない足取りで再び椅子まで歩き、深く沈み込むように座った。


「ダニエラ……夢じゃないよな」

「何言ってるんだ君は……現実だ。しっかり貰ってこい」


 肩をポン、と叩いてくれたダニエラ。はぁぁと深い深い溜息をつく。まさかワイバーンの素材がこんなにするなんて……オークの報奨金と合わせれば金貨60枚と銀貨60枚だ。あと金貨4枚と銀貨40枚で目標金額まで到達してしまう。これは絶対にハロルドに、いや、ハロルドさんに挨拶せねば。

 しばらく呆けているとギルド員さんが僕を呼ぶ声がした。椅子から立ち上がった僕の足取りは先程とは大違いで、まるで羽根が生えたような軽さだった。

※修正です。ワイバーンの魔石からワイバーンの心臓に変更しました。特に使い途はないですが、展開的理由からの変更です。よろしくお願いします。

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