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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第四十話 走る男、走る馬、飛ぶワイバーン

 足元から吹き上げる銀と翠の風が僕の髪を揺らす。これだけの速さを出しているのに不思議と向かい風は穏やかだ。これも森狼の付与の力だろうか。


「頑張れー! ポシュルー!」


 後ろでフィオナがハーフユニコーンを応援しているがそれは名前なのか。あんな綺麗なハーフユニコーンがポシュルか……い、良い名前だね!


「ダニエラ、大丈夫か?」


 チラ、と抱きかかえるダニエラに視線を落として声を掛ける。ギュッと僕の服を掴む手は震えている。が、


「あぁ……平気、だ」


 まだ怯えてはいるが先程のように放心した様子もない。このままスピリスまで逃げたいが、一つ問題がある。

 あの平原都市にワイバーンを相手取る程の防衛機構があるだろうか。あのワイバーンが流れのワイバーンならアウトだ。僕達は災厄を引き連れて来訪することになる。

 だがこの辺りに時々でもワイバーンが出ることがあるなら?


 前方にだんだん大きく見えてきた防壁を見る。3~4メートルはあるだろうか。立派な壁だ。あれがワイバーンの為の防壁なら最高なんだが。


「ゴガアアァァァァアア!!!」


 背後から翼竜の咆哮が聞こえてくる。流石に竜の咆哮は肝が冷える。しかし足を止めることは出来ない。


「大丈夫か! フィオナ!」

「だいじょーぶー! だけど怖すぎるー!!」


 この状況でそれだけ言えるなら安心だ。ワイバーンの本気の速度がどれだけ出るか分からないが、ハーフユニコーンと《森狼の脚》の速さには追い付けないようだ。


「もうすぐスピリスだ! あの都市はワイバーンを退けられるか!?」


 後ろを走るフィオナに尋ねる。空からの強襲にもいち早く対応したギルド員なら、あの都市の防衛力を知っているかもしれない。


「だいじょーぶ! 真っ直ぐ走ってー!!」


 分かった、と肩越しに振り向いて頷く。ハーフユニコーンがフンスと鼻息荒く、僕を追い越そうと速度を上げる。そしてワイバーンとの距離は開いていく。


「ダニエラ、何か、鏑矢みたいなのはないか?」

「すまない、鏑矢は……ない。あの都市に知らせるのだろう? なら……」


 ダニエラが震える指先で矢筒から一本の矢を取り出す。


「閃光矢だ。これなら……」

「射ることは出来るか?」


 そっと尋ねるとダニエラは小さく首を縦に振る。


「ここで放てなくては、意味がないからな」


 辛そうに眉間に皺を寄せながらダニエラが言う。僕はダニエラをしっかり抱えながら、何とか鋼鉄の剣を鞘に仕舞い、ダニエラを抱きかかえる。ダニエラが軽くて良かった。

 そしてダニエラが死生樹の弓を持って平原都市上空へ向ける。その弓にそっとダニエラが閃光矢と言った1本の矢をつがえる。きっと名前の通りに閃光を放つ矢なんだろう。準備が出来たことをフィオナにも伝える。


「今から都市に僕達がいることを伝える為に閃光矢を射るから光に気を付けて!」

「りょーかい!!」


 フィオナがギュッとハーフユニコーンの首に掴まって「大丈夫だからね」と囁いている。


 それを見たダニエラは小さく頷き、ギュッと弓矢を握る手に力を込める、そしてギリギリと弦を引き絞り、放つ。真っ直ぐに平原都市方面に飛んだ矢は目測だが僕達と都市を挟んだ中間地点辺りの上空で強い光を放った。都市を衛兵はもうワイバーンに気付いているだろう。これで僕達にも気付いてもらえるはずだ。


「流石ダニエラ先生。ばっちりだ」

「ん……アサギくんが優秀な生徒だからだよ」


 冗談を返すくらいには落ち着けているようで安心だ。少し頬が赤いがそこだけ心配だ。


 後は走るだけだ。《森狼の脚》の行使による疲労はない。後できっとやばいくらい疲れるパターンだと思うが今は気にしていられない。ハーフユニコーンもあとどれくらい走れるだろうか。フィラルドからあの森まで飛ばして来たからそれなりに疲労は溜まっているはずだ。


 だんだん都市がはっきりと見えてきた。高い高いと思っていた防壁の上にはよく見るとバリスタが設置されている。あれでワイバーンを撃退するんだろう。これなら突っ込んでも大丈夫そうだ。慌ただしく兵士が走っているのも見える。

 都市の玄関である門からは衛兵隊がどんどん出てくる。戦闘に立った人が頭上に上げた槍をグルグルと振るっている。ここに走って来いということだろう。その衛兵を中心に隊が2つに別れる。その間を行けば良いんだろうか。フィオナを見ると頷かれる。やっぱり走り抜けるしかないんだろうか。

 この《森狼の脚》のまま走り抜けるのは拙いんじゃないか……?


「ダニエラ、このスキルを見られるのは拙い。もう何か、ここまで走っておいてどうしようもないけれど……」

「あぁ、確かに……私もそろそろ君のお陰で走れる。あの丘の手前で私を放り投げて君はハーフユニコーンに掴まってくるんだ」

「そんなこと出来るのか……?」


 だんだんコツが掴めてきたのでちょっと速度を落とす。フィオナと並走して手短に相談すると、


「なら3人とも乗っちゃいなよ。ポシュルならだいじょーぶだから!」


 とのことだ。ハーフユニコーン凄い。


「ゴガァァアアアアア!!!」


 背後のワイバーンが再び吠える。どうしても追い付けないことへの苛立ちがその声音に含まれているのが分かる。だが僕は優しくないので追い付かれてはやれない。

 ダニエラがハーフユニコーンに手を伸ばす。何をするのかジッと見ていると魔力が注がれるのが見えた。恐らく風の魔法だろう。ハーフユニコーンが一瞬、僕を追い越す。負けじと追い抜き、追い越されを繰り返していると最後の丘の麓に来た。ここで少しだけ衛兵隊からは見えなくなる。

 丘を駆け上がるハーフユニコーンにダニエラを乗せて僕も乗ろうと手を伸ばす。馬上からダニエラが手を伸ばしてくれたのでその手を掴む。ギュッと繋いだダニエラが引っ張ってくれて僕もハーフユニコーンの上に乗ることが出来た。尻の方で実に危なっかしいがもうすぐ都市に着くので我慢だ。

 ダニエラが僕の腕を掴んで自身の腰に回す。掴まれということだろう。ならば行為に甘えてしっかり捕まる。ふむ、この状態ならば攻撃も出来るだろうか。ここまで走らせてくれたワイバーンへのお礼が必要だ。


「見てろよぉ……一発おみまいしてやる」

「アサギ?」


 ダニエラが此方を見て首を傾げる。その反応に僕は悪戯を仕掛けるガキのような笑みを返す。

 ハーフユニコーンが丘を登りきり、下りに入った。あと少しだ。壁上のバリスタがしっかりとワイバーンに向けられているのも見えた。

 僕は空いた手を後方に伸ばす。紺碧の氷魔法によって作られたのはオーク戦でもお世話になった『氷剣』だ。あの時と同じ氷剣を切っ先をワイバーンに向けて生成した。時間がないがじっくり狙いをつける。


「もうすぐ着くよ!」


 フィオナが声を上げる。と、同時に僕は紺碧の氷剣を射出する。それはまっすぐ、狙い通りにワイバーンの左目へと吸い込まれる。射出の威力と向かってくる速度を上乗せした一撃は氷剣の根本まで突き刺さるという結果をもたらした。


「ゴギャァァァアアァァアァアァァ!!!」


 突然の激痛に翼の操作を誤ったワイバーンが地に墜ちる。豪快に草原を抉りながらスライディングしてくるが勿論、速度は落ちるので僕達には届かない。僕は衛兵隊に向かって新しく生成した氷剣を見えるように振るう。


「おおおおおおおお!!!!」


 力強い声だ。ビリビリと空気を震わせる鬨の声。僕達はその声に包まれながら衛兵隊の間をすり抜ける。先程、槍を振るっていた衛兵がその槍をワイバーンに向けて一際大きな声で号令する。


「撃てえぇぇぇぇえええい!!!」


 バツンバツンと最大限まで張りつめた弦が矢を放つ音が頭上から聞こえる。バリスタが放たれる音だ。同時にワイバーンの悲痛な絶叫が聞こえる。背後の戦闘など眼中にないハーフユニコーンことポシュルは、ついに一瞬も速度を落とすこともなくスピリスへと飛び込んだ。

40話です。まだまだ続きます。

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