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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第三百九十四話 神界接続

 ドラゴンが吐いた火炎の熱風がジリジリと肌を焼く。じんわりとした熱気から身を守るように氷属性の魔力を発生させ、周囲の温度を下げた。


「うっ……」


 それだけの魔力行使でもズキリと頭が痛む。垂れてきた鼻血が荒く息を吐く僕の口に流れ込み、鉄の嫌な味が口内に広がった。


「何とかならんのか……う……?」


 不意に視界が白く染まる。敵の攻撃かと剣を構えようとするが、それが自ら放っている光だと気付いた。《神狼闘衣》が眩く輝いていた。光ってるからといって脱ぎ捨てることも出来ない。たが、視界が塞がれているので敵の攻撃にいつでも反応出来るように《気配感知》だけは広げておく。


 時間にすれば数秒だったが、光が止む。いきなり光って内心、かなり焦ったが見た目は特に変化はないように思える。


「あれっ……」


 しかし内面はガラッと変わった。あの嫌な頭痛が一切しなくなっていた。試しに《神狼の眼》を使ってみるが、痛みは全くない。


「おぉ……体も軽い!」


 レイチェルめ、こんな機能があるなら言ってくれればいいのに。


 軽くなった足取りで走り、再び黒帝剣を取り出して風のバリアで炎を防ぐダニエラを庇うように割り込んだ。


「遅くなった!」

「誰……アサギ、か?」

「そうだけど、いや見れば分かるだろ?」


 振り返ると困惑した顔でダニエラが僕を見ていた。まるで知り合いによく似た誰かを見ているような顔だ。


「いや、お前、その髪……」

「髪?」


 ふと自分の前髪を見上げる。すると不思議なことに黒と銀が入り混じった色をしていた。


「は? 何だこれ」

「アサギ、お前、ひょっとしてフェンリルに成りかけてるんじゃないのか……?」


 言われてハッとする。銀の髪はレイチェルの特徴と一緒だった。


「……前!」

「うっ……!」


 ダニエラの声に慌てて正面を向く。いつの間にか消えていた炎の代わりにドラゴンが突っ込んでくる。鼻の上についた角を此方に向けて向かってくるのに対し、剣を十字に重ねて防御の姿勢を取った。


「グッ……!!」


 ガキン! と角がぶつかり、後方に押しやられる。ダニエラが背中から押してくれたのでそれ程後退せず、防ぎきった。素早くダニエラが風を纏わせた矢を番えてドラゴンに向かって放つ。ガリガリと表面の装甲を削りながら、だが突き刺さることなくドラゴンの背後へと軌道が反れた。


 抉れた装甲の中でバチバチと自動人形特有の火花が散る。


「彼処を狙ってくれ!」

「任せろ!」


 ダニエラのお陰で開いた突破口へ向けて《神速》で移動し、両手の剣を突き立てた。


「……ッ!!」


 先程の人型と違い、人語は話さないようだ。無言でのたうち回るので必死になって刺した剣に縋り付く。


「駄目だアサギ、離れろ! 其処に居る方が危ない!」


 ぐるぐると回る視界を《神狼の眼》で切り替えて俯瞰で確認する。ドラゴンは地面をゴロゴロと転がっている。あれじゃあ僕まで巻き込まれてしまう。慌てて離れ、だが目は切り替えずに俯瞰から全体を確認する。何だかゲーム画面みたいだ。


「無事か?」

「問題ないよ。後ろから来る店長と松本君にポーションを渡してくれ」


 腕輪から取り出したポーションをダニエラに渡して藍色の大剣(シュヴァルツ・テンペスト)を構える。


 すぐに追い付いた二人にダニエラがポーションを渡すのを確認してから、少し大人しくなったドラゴンの首の付根に向かって走り、剣を振り下ろした。金属同士による多少の抵抗は水刃化することで難なく通り、見事に根本から分断することに成功した。


 視界を切り替え、自分の目でしっかりと確認する。まだコアは生きている。ちょうど胸の部分だ。其処に向かって剣を突き立てて一気に貫いた。


「これで終わり……全部の自動人形は破壊したぞ」


 首に刺さった2本の剣を回収して3人と合流すると、店長と松本君が僕を見て目を見開いた。


「アサギ先輩、その髪は……」

「大丈夫大丈夫、イメチェンだから」

「いや、それは言い訳としては下の下だよ」

「体調は良いんです。本当に」


 グッパグッパと手を動かすが、まったく問題ない。むしろ前より力が増した気がする。……やっぱり、神狼化が進んでる証拠だな、これ。


「終わったらレイチェルの所に行かないとな」

「あーうん、そうだな」


 行ったら行ったで何か言われそうで、その事を思うと気分が萎えた。だがそれは全部終わってからだ。今はまず、目の前の魔道具を破壊しなければ。


 大広間の奥を見据える。其処には此方に背を向けた白金の髪の自我を持つ魔道具、ノヴァが一心不乱に作業を続けていた。


 剣を持ち替えた僕を先頭に走り出す。追従する皆もそろそろ限界だ。さっさと終わらせて、地上に帰るんだ。その気持ちが僕に力をくれる。幾らでも戦える気になってくる。



  □   □   □   □


「ノヴァ! 其処までだ!」

「……あぁ、死ななかったか」


 興味の欠片もないという反応だ。此方を見ずにキーボードを叩いている。


「お前の所為で人生を狂わされる全ての人々の為に、破壊させてもらう!」

「そうは言うが、その力のお陰で此処まで到達出来たんだろう?」

「だからってお前に感謝なんてしない!」

「それは違うぞ。感謝は私ではなく、神にするんだな」

「神……?」


 この世界に移動する際に聞こえたあの声は、てっきり此奴だと思っていた。だけど実際に声を聞いてからは別人だったので、他の、《神界接続》に使っている魔道具の音声だと勝手に納得していたが……。


「異界へ渡る際の神気に触れる事で人は新たな力に目覚める。それは私ではなく神が作り出したシステムだ」

「じゃあ、この力は……」

「異界とこの世界の狭間、神界の力の末端に触れた結果だ。私がお前に力を渡す理由はない」


 言われてみれば納得出来た。実験の失敗の結果、関係ない人間を呼び出し、そんな人間に力を授ける理由はない。

 なるほど、神のいたずらとはよく言ったものだ。


「しかしそれもまた興味ある課題だ。どうだ、私の実験に付き合う気はないか?」

「お断りだ!」

「ふむ……まぁ、良いだろう。お陰様で時間は稼げた」

「……ッ!?」


 くそ、お喋りに付き合い過ぎた!


 タン、とキーを叩いたと同時に周囲の空気が一気に重くなった。耳障りな音と共に空間が歪み始める。


「やはり私の計算は正しかった……! 10万回を越える実験を繰り返したのもこの日の為! 既にこの日、実験が成功する事は確定していた! 此処に神気の欠片を宿した人間が集まることで空間は安定し、世界は神の国へと繋がった!!!」


 神気の欠片を宿した人間。それは僕や店長、松本君の他、レイチェルやベオウルフ達も含まれているだろう。多くの欠片が集まることで欠片は欠片ではなくなる。


「くっ……どうする、壊すか!?」

「いや、何が起こるか分からない……」

「だけどこのままじゃ、神が……あっ!」


 松本君が指差した先の空間が大きく歪み、何かをかたどっていく。言葉にしにくいが、透明な線がゆっくりと曲がり、伸びて形を成していく。


 それは女性の形だった。衣服を纏わないボディーラインから女性だと判断出来た。やがて形づいた空間に色が付き始める。白に近い肌色が、金に輝く髪が、空間を人へと作り変えていく。


「あぁ、神よ……私を神の世界へ……皆のところへ……」


 その女性……女神に向かって跪き、両手を伸ばすノヴァ。


 やがて人の形を完成させた女神がゆっくりと双眸を開いた。髪色と同じ金色の目がノヴァを、僕達を、そして周囲を睥睨する。


「あ、あー……あー。うん」

「……ッ」


 慌てて下がる。急に声を出すから驚いた。


「またやってしまったね。これだからエルフ族というのは……」

「……?」

「痛い目見ないと分からないとは言うけれど、痛い目見ても分からないのは君がただの道具だからか?」


 どうやら様子がおかしい。エルフ族は神の世界に渡ったというノヴァの言葉は間違っていたのか?


「過去の馬鹿共と同じ末路を辿るといい……」


 スッと手の平をノヴァへと向け、とんでもない量の魔力が収束を始める。その行為だけで空気が震え、建物全体が軋み始めた。


「そんな、私は皆の元へ行きたいだけだったのに……!」

「だからそうさせてやろうと言っているんだよ。お前の言う皆は皆殺しとなった」

「!?」

「神の世界へ土足で踏み入るなど、万死に値する」


 ノヴァが悲鳴を上げながら蹲り、両手で頭を庇う。今にも神の魔法が放たれる。そう感じた僕は皆を守るように前に立ち、両手を広げる。


 だが突然、女神の手はまったく別の方向へ向けられた。

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