第三百九十三話 抜き放つ2つの星剣
改めまして、新年あけましておめでとうございます。
今年も器用貧乏共々、どうぞよろしくお願いいたします。
それぞれが特殊な自動人形に向かっていく。店長は重鎧の自動人形に。松本君は魔剣の自動人形に。ダニエラは龍型の自動人形に。
そして僕の前には無数の手に剣や槍、斧など様々な武器を持った異形の自動人形が。
「ノヴァ様の《神界接続》の邪魔はさせません」
「む……」
いつか僕が拾ってきた自動人形……今ではフリュゲルニア帝国貴族のメイドをしている彼女のように喋りかけてきた。礼儀正しい口調ではあるが、機械的で無感情だし、その容姿からまったくもってちぐはぐだった。
其奴は突然、何の前触れもなく手にした大剣を振り下ろしてきた。僕はそれを《神速》で避ける。振り向くと、大剣は硬そうな施設の床を砕いていた。
「まるで次元魔法のようですが魔力を感知出来ませんでした」
「ネタばらしはしない主義なんだ」
「速度の誤差を調整します」
今度は槍が突き出され、剣で弾いたところへ矢が飛んでくる。転がるように避けた先には既に大鎌が迫っていた。
「くっ……!」
《神狼の脚》を駆使してそれをギリギリで躱し、一太刀入れるが、相手もそれを避ける。
今までも沢山戦いにくい相手が居たが、これ程までに苦戦するのは初めてだ。なのでまずはしゃがんだまま《神速》で後退し、相手を観察することにした。
奴が持つ武器はどれも大きい。腕同士がぶつからないように配置はされているが、馬力はあるようで大剣や大鎌なども片手で振り回している。弓矢は流石に腕が2本必要だから両手だが、それでもまだまだ腕は沢山ある。見れば鎖鎌や切れ込みが入った剣、ソードブレイカーなんかも持っていて、見た目と戦い方の割にはもしかしたらトリッキーな戦法も使ってくるのかもしれない。
「誤差修正」
「そればっかりだな。だけど僕も誤差は修正したよ」
脳内で再生される《器用貧乏》に拠る未来演算。無数の戦い方を4分割された画面でそれぞれ再生させ、どれが一番良い戦法か吟味する。
ズシンズシンと見た目通りの重量を感じさせる足音を耳にしながら選択された最善の戦術の為に、僕は《白刀・天狐》と《鎧の魔剣》を虚ろの腕輪に仕舞う。
「降参は承認出来ません」
「勘違いするなよ。僕は誰にも負けない」
そして代わりに取り出したのは《黒帝剣》だ。かつて存在した異端皇帝キサラギが手にした剣は黒妖星石という星の核から作られた母なる黒の剣だ。恐らく同じ異世界人だった彼の想いが籠もった剣こそがこの戦いには相応しかった。
更にもう片方の手には翡翠に輝く最強の剣、《琳翠星鉄の森剣》を持つ。
古代エルフの技術を駆使し、琳翠石と隕鉄で作られた無限に広がる宇宙そのものであるこの最強の剣を今、此処で抜かなければ僕は何の為にこれを使わずに旅をしてきたのか。あまりにも強すぎる武器は己の成長に繋がらないと封印したこの剣を、今、抜き放つ。
両の手に吸い付くような感覚。流れ流れて僕の元に辿り着いた2つの剣と、長い時を生きた神狼の力が込められた衣服。そしてこの1年で鍛え、練り上げた僕の力の全てを此奴に叩き込む。
目の前まで迫った自動人形にぶつける戦術は、結果的には戦術とは呼べない、ゴリ押し脳筋技だ。でも結局行き着くのは其処だ。自己主張の激しい、しかし主人公足り得る必殺技が、全ての答えだった。
「行くぞ……!! 『上社式・神狼剣域』!!!」
振り下ろされた大鎌と大剣は過去へ置き去りにし、フェンリルの力を開放した僕はこの世の誰よりも速く、速く、駆ける。
すれ違いざまに黒帝剣で槍を分断し、森剣で矢を番える腕を切断する。背後から強襲しようとしたところで振り回された無数の剣を避け、股下を潜って正面から大剣を叩き割った。
それらの光景を《神狼の眼》で全ての角度から見て、一番隙が多い部分に剣撃を叩き込んだ。
「誤差修正誤差修正誤差修正誤差修正誤差修正誤差修正」
「……ッッッ!!」
流石は自動人形、僕の速さを修正して攻撃を繰り出してくる。だけどレイチェルのお陰で淀みなく戦える。以前は5分で限界が来ていたが、今ならまだまだ戦える。
斬撃を掻い潜って足元で氷魔法《逆さ氷柱》を放ってその場に貼り付けにし、更に風速を上げて全方面から攻撃を繰り出す。白銀翠色の《神狼の脚》の風は途切れることなく尾を引き、やがて自動人形を包み込む球体となった。
バラバラに壊れていく武器や体は球体の外へと弾き出されていき、やがて無防備な魔道具と僕だけがこの場に残った。見上げてた人形の無機質な目に僕の姿が映る。
「修正、不可能……」
「……に決まってんだろ!! これで最後だッッッ!!!」
そして全ての武器を壊し、腕を千切る。球体を飛び出し、天井スレスレの位置から一気に速度を上げて落下し、森剣を振り抜た。
左右に分断された自動人形が、ゆっくりと衝撃で抉れた床に歪に倒れる。バチバチと魔力の籠もった火花はやがて音と光を失い、完全に停止し、僕は残心を解いた。
「ふぅぅぅぅ……」
いつの間にか止めていた息を吐き出し、吸い込み、遅れて勝利を実感する。
「はぁ……ズズッ……」
すると、妙に鼻がむず痒い。こんな時に花粉症かと無意識に腕で鼻を擦ると、赤よりも濃い、黒いタールのような血が素肌に伸びていた。
「なんだよこれ……うっ……!!」
同時に刺すような酷い頭痛に思わず剣を手放してしまう。ガランガランと音を立てて自動人形の上に落ちた剣と、その上に落ちる血を眺める。不安からグルグルと色んな思考で頭がいっぱいになっていくのを、何処か他人事のように考える自分が居て、不安は更に増していく。
「くそ……まだやらなきゃいけない事があるのに……うっぐぅ……!」
ズキズキと痛む頭を抑えながら、黒帝剣を拾い上げて虚ろの腕輪に仕舞う。琳翠星鉄の森剣は右手に握った。
じわじわと自分が人間じゃない何か……魔物になっていくのを感じる。これがもっともっと進行したら、僕は僕じゃなくなってしまうんだろうか。
「な訳ねーだろ……レイチェルだって生きてるんだから……」
口ではそう言っても頭の中は不安でいっぱいだ。思わず歪む視界をゴシゴシと擦って無かったことにし、そのまま鼻血も拭う。
「そうだ……皆は……」
《神狼の眼》は使わず、首を動かして周囲を確認すると、どうにか勝利を収めていた。見た限りでは腕や足はちゃんと付いてるようで、ホッと胸を撫で下ろす。
だけどまだダニエラだけが戦いを続けていた。竜型の自動人形は健在で、しかし最初に見た時に付いていた翼や尾は切断されている。どうにか首を落とそうとしているが、やはり細剣という武器は相性が悪いらしく、攻めあぐねていた。
「ダニエラ……!」
此処で僕が助けなければ、誰がやるというのか。痛む頭や霞む視界なんて関係ない。体中が傷んでいようと問題ない。
僕は剣を引き摺りながら、ダニエラの元へと走った。
新作も更新しています。
『リッチーな姉と行く迷宮探索』をよろしくお願いいたします。




