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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第三百九十話 人と魔物の未来

 長い柄を両手で握り締め、両の足に力を込める。銀色と翡翠色の粒子を散らして巻き上がる白銀翠の風は僕を何処までも運んでくれる。


「僕が丘を消し飛ばすから、店長と松本君を呼んできてくれ」

「レモンは?」

「あの子は指示も出来る子だ。冒険者達の所に行ってもらいたい」


 戦いながら見てきたが、冒険者達はどこまで行っても冒険者だった。ある程度の指示はあったようだが、時間が経つにつれて動きがバラバラになってきている。レモンならそれを立て直せると勝手に判断させてもらった。


「了解だ。気を付けろよ」

「あぁ、勿論」


 ダニエラと別れ、空へと駆け上がる。銀と翡翠と氷の粒子を靡かせ、一直線に巨兵へと迫る。だが氷結晶を使った魔法が思っていた以上に操作が難しく、そちらに集中しなければいけなくなり速度が出せなくなった。それでも乗用車くらいに速度は出ているが。


 巨兵も僕に気付き、不気味な長い腕を後方へ伸ばし、大きく横薙ぎに振るう。遠心力を使って威力を増したラリアットは鬼気迫るものがあるが、しかし僕には届かなかった。


 カッと強い閃光の後、極細のレーザーが下から上へと振り抜けた。それは難なく巨兵の腕を切断する。勢いを残したまま切り離された腕は戦場を明後日の方向へと飛んでいった。


「先輩!!」


 光る大剣を掲げた松本君にサムズアップを返す。本当に頼りになる後輩勇者君だ。もう彼奴だけでいいんじゃないかな。とは思うが、申し訳ないが僕は主人公候補なので、魅せていかねばならない。


 更に巨兵へと迫る。しかし懲りない巨兵は反対側の腕を同じように振り上げる。


「今度は振り下ろしか……!」


 しかしその攻撃もまた阻まれる。振り上げ、腕が背後に伸びた瞬間、地面から巨大な氷柱が出現し、巨兵の腕を貫いた。


「あんな氷出せる奴なんて、僕か彼奴しか居ないな!」


 ニヤリと笑うと、力強い遠吠えが聞こえてくる。ちょっと遅刻気味だが到着したようだ。下を見ると自動人形の間を縫うようにスノーウルフやフォレストウルフ達が駆け抜ける。すれ違いざまに鋭い牙や爪が自動人形を襲う。


 太陽の光に反射した白銀と森色の翠が走り抜ける様はまるで《神狼の脚》のようでとても美しい。


 腕を壊され、動きを封じられた巨兵。それでも攻撃しようと大きく足を踏み出す。足元の兵士達が逃げ惑う。

 一刻も早くと速度を上げる。その眼下で勇敢にも巨兵の元へ走る2つの影が見えた。


「ユウナギとヤマトさん……!」


 二人共、鬼らしく金棒を手に全力で巨兵へ向かっていく。驚くことにその速度は今の僕と同じくらいだ。全力が出せていないとはいえ、匹敵するとは驚きだ。やはり鬼族というのは凄いな。


 二人は並んで走っていたが、二手に別れ、それぞれが巨兵の足へと向かっていく。ベオウルフの氷柱に拠って動きが封じられた巨兵は身動きが出来ない。その両足を、勢いよくジャンプした二人が速度を落とさず、そのまま金棒で膝を振り抜いた。


 関節が逆に曲がった巨兵は糸を切られたように地に沈む。最早動くことは敵わない。そんな中攻撃するのは気が引けるが、万が一此奴が再生なんかしたら厄介以外の何物でもない。


「さぁ行くぞ……!」


 放たれる2体の《深狼の影》が地を走るが如く空を滑り、巨兵へと向かう。実体化した影はその手に黒い大剣を握り締める。影は左右に分かれ、その間を僕が走り抜けた。


 手にした全てを凍てつかせる儀礼剣を構えて放つは第三の必殺技。


「『上社式(カミヤシロシキ)……ッ!?」


 抵抗出来なくなった巨兵に《神速》で一気に距離を詰めようとしたところで嫌な予感がし、高度を下げた瞬間、僕が居た場所を熱線が迸った。


 松本君の放った光属性とは違う、恐らく火属性であろう熱線で焼けた空間を越えて、再び速度を上げる。巨兵の単眼に魔力が集まっていく感覚を感じる。またあの熱線が放たれる前に、速く……!!


「『終霜三赤(シュウソウサンジャク)』!!」


 《神速》に拠って距離を刻むように詰め、《神狼の脚》の速度を最大限に上げて『氷凍零剣(ニブルヘイム)』を単眼に突き立てた。収束していた魔素が空間ごと凍りつき、巨兵を動かす魔素をも凍てつかせる。


 そして影の僕が凍りついた巨兵を切り刻んだ。僕そっくりの動き方で放つ剣撃は一刀で巨兵を両断する。凍った巨兵の体はその攻撃でバラバラと崩れていった。


「ふぅー……これは主人公だな……」


 一気に気温が下がった所為で白くなった息が消えていくのを眺め、戦況を上から確認する。崩れ落ちた巨兵のお陰で全体的な士気は上がったように見える。予め全体に話していた鬼と狼の合流は問題なく行われ、場所に拠っては共闘もしていた。


 狼が自動人形の腕に噛みつき、動きを封じたところで人間、或いは鬼族が人形を壊す。そんな光景を見た時、脳裏に浮かぶのはアーサーの姿だった。


「人と魔物が一緒に戦う日が来るなんてな……」


 鬼族はかつて存在した亜人族代表としてこの戦いを期に人と手を取れるようになればなと思う。魔物に関してもそうだ。全てとは言わないが、アーサーが目指した人と魔物の共存が、これをきっかけに進んでいけば良いな。


 そうして戦況を確認していると、ゆっくりとだが霧が濃くなっていくのが分かった。多分、地上に居たら気付かなかったかもしれない。その霧は丘の一部から広がっているように見える。其処には無数の自動人形が固まっている。


「あれが霧ヶ丘の秘密か……」


 《神狼の眼》で確認した。其処には霧を発生させる魔道具があった。其処以外にも無数の魔道具から霧が溢れてきている。そうして周囲を霧で隠して施設を隠蔽していたんだろう。


「ほう、あれが霧ヶ丘の秘密か」


 と、眺めているといきなり背後にレイチェルが現れた。心臓に悪い。


「彼処を攻撃すれば視界不良はなくなるはずだよ」

「では伝えるとしよう」


 レイチェルが杖を振ると空間が歪み、裂けた。その向こう側には軍司令部や戦場で指揮をしている上官達が見える。これ凄いな……。


「今から指示する場所を攻撃するのじゃ。霧を発生させる魔道具がある」


 それから細かい座標を指定し、テキパキと指示していく。やはり次元魔法というのは便利だな……。


 指示し終えたレイチェルが空間を閉じるのを見て感嘆の息が漏れた。


「便利じゃろう?」

「いいな、それ」

「お主ももしかしたら使えるようになるかもな」

「マジで?」


 僕の適正属性は氷と水。そしてほんのちょっと火。次元属性は微塵もなかったはずだけど。


「異世界を越えたというのは次元を越えたということ。そして神狼というのは世界を飲み込んだ魔物。つまり次元を支配したということじゃ」

「こじつけが過ぎる気もするけど……」

「しかし実際、ワシはただの狼じゃったがフェンリルに成った時に次元属性に目覚めた。それ以来研究をしてきたが、この理論は間違ってないと思っておるぞ」


 僕もいずれはレイチェルのような玄関空間が使えたりするのか……。でもそれって、完全に人間を辞めることと同義だ。


「ま、その時にお主に自我が残っていればいいがの」

「……」

「ふん、ビビリめ」

「悪かったな」


 その時、ダニエラが傍に居ないことを心から願う。

コミカライズ、好評なようです。

新作も投稿してます。良かったら読んでくださいな。

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