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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第三十九話 晴れ、時々

ユニークアクセスが4000を突破しました。読みに来てくださりありがとうございます。

「待ってませんけれど」

「やだなぁ、冗談だよ」


 温度差のある会話だがここはフィラルドから約5日分離れた森の中だ。いつもの気安いフィオナと話すギルドではない。


「どうしてこんな所に?」

「そりゃあアサギくんを追い掛けて来たんだよ!」

「そろそろ行こうか、ダニエラ」


 虚ろの鞄を背負い直して歩きだすと後ろから馬に乗ったフィオナが付いてくる。本当に何でこの人ここにいるの?


「実はスピリスに人事異動の通知が来たんだよね」


 何でもなかったようにフィオナが話し始めた。歩きながら耳だけ傾ける。


「アサギくん達が出て3日後だったかな……今なら間に合うかなってギルドが保有してる中で一番優秀なハーフユニコーンに乗ってきたんだよ」

「ハーフユニコーン?」


 ユニコーンなら聞いたことがある。ハーフって何だ?


「普通の馬とユニコーンの間の子を家畜化させた馬だよ。普通の馬より優秀なんだよ!」


 ドヤ顔でペチペチとハーフユニコーンを叩くフィオナ。言われてみると確かによく見る馬車馬とはちょっと違う。見た目としてはスレンダーで美しい。日本で見たサラブレッドとそっくりだ。目は深い紫色だ。魔物の要素だろうか。ユニコーンの親戚のくせに角はなかった。角なしだ。

 なるほど、このハーフユニコーンの体力と脚力で僕達の5日分の2日で旅路を走破してきたのか。そう考えるとこの馬が優秀だというのも頷ける。


「でもまさかもうスピリスの目の前まで来てるなんてね……楽しい旅を期待してたのに……」

「楽しい旅でしたよ。昨夜はオークを討伐しましたし」

「オーク!? 何で!? ガルド達が遠征で討伐したはずじゃん!」


 あ、やっぱりガルド達が討伐遠征に行ってたのか。僕の予想は合っていたようだ。


「その討ち漏らしだ。それが流れ流れてこの森まで来たということだ」


 ダニエラが説明してくれた。フィオナがうーむ、と腕を組んで考え込んでいる。

 

 野営地から出てそろそろお昼だ。ちょっと小腹が空いたかなと腹を撫でていると馬上のフィオナが「あっ!」と声を上げた。何事かと見上げると前を指差している。それに釣られて前を見ると木と木の間から草原が見えた。ダニエラを見やると頷いて微笑む。どうやらあれが出口のようだ。

 逸る気持ちを抑えて、でも少し早歩き気味で出口を目指す。だんだん差す光の量が増えていく。木漏れ日を抜けて一瞬、強い光の明暗の差に目を細めるが、それもすぐに慣れて目の前の光景をじっくりと眺める。森の先の草原、スピリスへの道。ちょっとした丘が多く、なだらかな起伏のある平原だ。視界を遮る物は何もなく、風が茂る草を撫でていくのがよく分かる。あれも精霊さんの仕業なのだろうか。

 ゆっくりと空気を吸う。森の湿った空気とはまた違う爽やかな空気だ。森の雰囲気も好きだけれど、こんな平原も好きだな……。


「さて、そろそろ行こうか?」


 ダニエラがポン、と僕の背中の鞄を叩く。少し浸りすぎた。恥ずかしい。

 進路を確認すると遠くに町が見えた。町と聞いていたが最早都市だ。大きな防壁がある。良くは見えないが高さも結構ある気がする。


「あれが『平原都市スピリス』だよ」


 フィオナが指差して教えてくれた。やっぱり都市だった。


「平原都市か……前に来た時は平原の町だったと思うんだが」


 ダニエラがポツリと呟く。


「前っていつ頃の話?」

「故郷を出てすぐだからまぁ、60年と少し前ってところかな」

「それだけあったら都市にもなるわ」


 ダニエラが頬を掻きながら拗ねたように僕を睨む。見られても困るんだが。


「ほら、行くんだろう?」


 お返しにダニエラの背中をポンと叩いて歩きだした。ゆっくりと平原への坂を降りながら振り返るとダニエラとフィオナが此方に歩いてくるのが見える。何か一人増えたけど、スピリスまで賑やかになりそうだ。



  □   □   □   □



 暖かい日差しの中、取り留めのない会話を続けながら平原を歩く。こんな気持ち良い日に草の上に寝転がったら速攻で眠れそうだ。フィオナもハーフユニコーンから降りて歩きながら時々欠伸をしている。

 ふと視線を右に逸らすと野兎が走っているのが見える。蝶々を追い掛けているのをジッと見ていると目が合った。一瞬止まった兎が慌てて逃げて茂みの中へ飛び込む。その様子が可笑しくてクスクス笑っているとフィオナが『何笑ってんのー?』と脇腹を肘で突いてくる。それを適当にあしらってもう一度、兎の消えた茂みを見やる。するとガサガサと揺れた茂みが割れて先程の兎が顔だけ出して僕を見る。隣を歩くフィオナの肘で突いて兎を指差す。


「あはっ、可愛い」

「美味そうな兎だな」


 ダニエラは相変わらず残念だ。でも最近はそれもダニエラの魅力と思えてきた。屋台前で出会った仮面の女性、一緒に屋台飯を食べ、絡まれて、そして冒険者仲間になった人。変な縁もあるもんだなとしか思っていなかったが、実はよく見るとそこら辺にはいないレベルの美人だ。髪は短めだがサラサラと風に揺れる様は絵画から飛び出してきた美術品を思わせる。切れ長の目は普段はきつい印象があるが目は口ほどに物を言うとはまさにダニエラの為にある言葉で、実に表情豊かな目だ。可愛いもの、美味しそうなものをみた時の目はキラキラと輝いていて、思わず僕も頬が緩んでしまう。

 今も兎を見る彼女の目はキラキラと輝いている。果たしてそれは可愛い物を見る目か、美味しそうな物を見る目か……。


「あっ」


 ダニエラが残念そうな声を上げる。兎が再度茂みの中に隠れてしまったからだ。ふとキラリと光る物が視界に入る。ダニエラが短剣を手にしていた。本当に此奴は残念な美女だな……。そりゃ兎も逃げるわ。


 再び歩き出す。スピリスに行けば美味い飯なんていくらでもあるだろうに。気付くと頬が緩んでいた。

 先程、昼頃だろうと思っていたがどれくらいで都市に着くだろう。太陽を見上げようとすると僕達の周りを影が覆う。しまった、雲が出てきてしまったか。さっきまで雲ひとつ無かったのにな。

 もしかして一雨来るのだろうかと再び見上げる。そしておかしなことに気付く。辺りを影が覆っているのに雲がない(・・・・)


「なんだ、これ……」

「どうした、アサギ」

「空がおかしい」


 釣られて二人も顔を上げる。僕もさらに顔を上げて目を細めて真上をジィ、と見る。


 その空には大きな何かが飛んでいた。


「おいおいおいおい何だあれ!!」


 流石に動転して上空を指差す。二人が真上を見上げて言葉を失う。しかしフィオナがいち早く我を取り戻し、叫んだ。


「ワイバーンだよ!! 逃げて!!」


 ハーフユニコーンに跨がり、声を上げる。


「逃げるぞダニエラ!」


 僕も走りながら振り返ってダニエラに声を掛ける。

 が、彼女は放心したように動かない。


「ダニエラ!? ダニエラ!!!」


 僕の声にビクン、と体を震わせて此方を見る。その目の端に涙が浮かんでいる。


「あ、アサギ……ドラゴンが……」


 震える手を僕に伸ばす。もしかしてあの時話してくれた竜種のスタンピードの……トラウマか?

 それに気付いた時、足元の影はいつの間にか最初より広がっていた。ガバッと見上げるとはっきりとワイバーンの姿が見えた。逆光だがその翼竜は完全に僕達のことを視認して襲おうとしているのが見えた。

 ダニエラは動かない。動けない。どうするか悩んだが、それも一瞬だ。こうなったらもう、使うしか無い。


 走り寄り、ダニエラを抱きかかえる。


「ア、サギ?」


 戸惑う声が聞こえるが今は無視だ。集中して脳内にいつもの4分割画面をイメージする。《器用貧乏》だ。更に奴からの贈り物を同時発動する。


「頼むぞ、ベオウルフ……!」


 《森狼の脚》の行使。脳内のイメージ通り、僕の両足を銀と翠が混ざった風が覆う。腰を落とし、大地を踏み締め、一気に走り出す。瞬間、景色を全て置き去りにする。いきなり高速道路に来たみたいな速さだ。あまりの速さに一瞬でフィオナの乗るハーフユニコーンに追いつく。


「急げフィオナ! スピリスまで全速力だ!」

「アサギくん速くない!?」


 悪いがスピード調節が難しくて並走してやれない。僕はハーフユニコーンを追い越して走る。背後から迫る圧迫感のある気配は僕達を見逃してくれる気はないらしい。振り向くとフィオナがすぐ後ろを走り、ワイバーンが上空から滑空してくるのが見えた。ハーフユニコーンもやる気満々にフンスと鼻息を出しながら僕を見る。対抗心からか、グンと速度を上げた。

 僕は振り落とさないようにダニエラをギュッと抱き締める。するとダニエラも僕にしがみ付く。がっちり抱えながら僕は未だ遠くに見えるスピリス目掛けて、更に速度を上げた。

ちょっと長くなりました。調整って難しい……。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 2日でここまできたんなら1泊野宿したことになるけど一人で大丈夫だったのか? [一言] 個人的にはヒロインとしてはフィオナの方が好きかな ストーリー的なヒロインはダニエラでもいいけど恋愛…
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