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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第三百八十九話 人形戦争

「ベオウルフ達は後程合流する。安心して戦うがよい」

「ありがとう、師匠」


 後ろから杖で突いてきたレイチェルに礼を言うとふん、とそっぽを向かれる。


「先輩、僕達は一直線に霧ヶ丘を目指します。何かあったら一番眩しいところに来てください」

「あぁ、分かった」


 松本君と松本ハーレム達もやる気満々、準備万端で気合い充分だ。僕が心配するようなことは一切ないだろう。


 店長やレモンも問題ない。結局僕が心配するようなことは一切なかった。


 僕の前に立つのは軍の一番偉い人だ。


「この戦いは世界の未来を決定する戦いである!」


 とか言ってるけどそれは流石に過言ではと思う。が。これもまた士気を上げる一貫のようだ。これで上がるのなら別に気にしない。何を言ってもらっても構わない。僕達が無事に勝てるのなら、それが一番良い。


 そして程なく戦争が始まった。


「アサギ殿、頼みましたぞ!」

「はい」


 お偉いさんに言われ、ゆっくりと歩き出す。その隣をダニエラが並び、それに釣られるように店長達も追従する。やがて走り出すと皆がそれに続き、いつしか後方から押されるような鬨の声が上がり、逆に釣られるように僕達も雄々しく声を張り上げながら自動人形の群れに突っ込んだ。


 速度を上げ、一気に駆け出した僕は誰よりも速く、気合い一閃、束になって襲い掛かってくる自動人形を切り飛ばした。


「セイッ!!」


 藍色の大剣によって両断される3体の自動人形。断末魔もなく、無機質な終わりを迎え、地に転がる。良かった、斬れないなんてことはないようだ。


「ハッ!」


 隣ではダニエラが鋭い突きで炉心のある胸部を死生樹の細剣で貫く。速すぎる攻撃に、4体の自動人形が同時に倒れた。


「私の方が1体多いな」

「お? 煽りか?」

「二人共、遊んでる場合じゃないよ!」


 僕の影から飛び出した店長が両手に持った三枚刃の黒い短剣で2体の自動人形の首を跳ね飛ばし、更に鋭い蹴りを放ち、残った胴体を群れの方へ吹っ飛ばした。


「ストライク。私の方が圧倒的に多いね」

「「よし、戦争だ」」

「もう、3人共ちゃんと戦ってください!」


 灼熱を帯びた刃で難なく溶断していくレモンの叱咤に反省した僕達は大人しく数を減らす作業に戻る。


 少し離れた所では松本君が奮闘しているらしく、ピカッと光って人形が舞った。やっぱ勇者は違うな。この調子で頑張ってもらいたいところだ。


「よーう、アサギ!」

「俺達の分は残しておいてくれたんだろうな!?」


 と、聞き覚えのある声にニヤリとしてしまう。


「ガルド、ネス!」

「よぉ! たまたま王都に居たらお前ぇの名前で傭兵の募集がされてたから来てやったぜ!」


 何という偶然だろう。居るか居ないか分からないが神様も粋なことをしてくれる。


「ハハッ! 二人とも全力出さないと僕が全部食っちまうぞ!」

「はしゃぐなよ、銀翆サマ!」

「オラァ! ちくしょう、一体で金貨何千枚になるんだ!?」


 獰猛な笑みを浮かべて戦うガルドに対し、ネスは泣きながら戦っていた。


「自動人形1体、炉心数個で金貨5000になるぞ!」

「ちくしょうが!!」


 泣きながらキレるネスが振るう剣にバタバタと自動人形が倒れていく。


 と、順調ではあったが、遠くの方で悲鳴が上がった。見れば複数の自動人形が合体したかのような大型の人形が暴れていて、兵士達が逃げ惑っていた。


「此処は任せた!」

「おう! 行ってこい!」

「行けぇ、アサギィ!」


 二人にサムズアップで応え、両足に白銀翆の風を纏う。1歩目でトップスピード、2歩目で空へ。3歩目で空を蹴る。あっという間にガルド達は見えなくなった。でも彼奴等なら何の心配もない。僕の戦友はとても強いのだ。


 中途半端な巨人みたいな自動人形が腕を振るう。それだけで、戦場はおもちゃ箱をひっくり返したかのような騒ぎになる。


 僕は藍色の大剣に水の魔力を流す。刃を覆う水流は剣身を伸ばし、絶対切断の力を宿した。


「『上社式(カミヤシロシキ)壱迅風閃(イチジンフセン)』!!」


 必殺の一閃は見事に巨大人形の首を両断することが出来た。だが……


「うわぁ! まだ動いてる!」


 兵士の一人が叫び、通り過ぎた後方を振り返らずに《神狼の眼》で確認すると、確かに巨大な頭部は落ちているが、残った首から下がまだ動いて、周囲の兵士を薙ぎ払っている。よく確認すると、胸と腹に魔力の反応がある。


「そういうことか!」


 当たり前のように頭を落とせば停止すると思っていたが、胸と腹にある炉心が此奴を動かしているようだ。僕はすぐに藍色の大剣を虚ろの腕輪に収納し、腰にある2本の剣を引き抜いた。


 踵を返して両足の風速を一気に引き上げ、放つ技は第二の必殺技『上社式(カミヤシロシキ)二牙擘胴(ニガビャクドウ)』。


「ハァッ!!」


 順手で持った天狐で胸部を切り裂き、壁に投げたボールが跳ね返るように反転し、逆手で持った鎧の魔剣で腹を引き裂いた。


 残りの炉心を失った巨大人形は漸く地に沈む。


「怪我人を後方へ!」

「はっ!」


 クルリと回して持ち直した鎧の魔剣で方向を指示すると、返事をした複数の兵士が倒れている兵士を担いで引き上げていく。その間も襲ってくる通常サイズの自動人形を左右の剣で斬り飛ばして撤退の時間を稼ぐ。


 積み重なる人形兵を手の空いた兵士達が引きずり、片付けていく傍からどんどんスクラップを生成していると、遠くの方で大きな爆発音が聞こえた。《神狼の脚》で空中へと飛び上がり、視線を爆発のあった方へ向ける。


 もうもうと黒煙が昇り、その根本では何かが燃えているのが見えた。《神狼の眼》でズームしてみると、それは兵士だった。


「……ッ!!」


 あまりの光景に言葉が出なかった。だが此処は戦場だ。人と魔道具が争う戦争の最中だ。僕達が自動人形を壊すように、自動人形も人を殺す。どんな兵器を隠し持ってるか分からない。刃物だけではなく、ああして可燃物だって持っていてもおかしくはなかった。


「……くそっ」


 誰にともなく悪態をついてしまうくらい、心が荒れていく。どうしたって人は死ぬ。それは嫌というほど分かっているくせに、何時まで経っても心が追いつかない。


 また別の場所で爆発が起きた。爆弾か何か持っているのかもしれない。それは魔法か……。


 《気配感知》でダニエラの居場所を探すと、左右に広がる人間軍の右翼側に居たので、《神速》を使って一気に距離を詰める。


「ダニエ……うわぁ!?」


 ダニエラの傍に降り立つと同時に細剣が僕の頭を貫きかけた。


「アサギか。ビックリさせるな」

「ビックリしたのは僕だよ!! それよりもダニエラ、気を付けて。この人形、多分自爆する」

「先程から聞こえる爆発音はそれか」


 戦場の各地で起きる爆発を防ぐ方法は分からない。一体どうすれば……。


「恐らくだがノヴァ本体を停止させればこの戦場の自動人形は停止するだろう。これだけの数だ。炉心一つ一つに魔力を供給しているとは思えないし、常時供給してなければ戦い続けることは出来ないはずだ」

「何らかの方法で全ての炉心に魔力を送っているってことか」


 その方法は一体……いや、魔力の送信……。


「それって一種の繋がりがあるってことか……?」

「そうなる、な!」


 つい考え込んでしまった僕の背後に自動人形にダニエラが鋭い突きを放つ。ハッとして顔を上げるとダニエラの背後にも自動人形が居たので慌てて剣を振り下ろした。


「分かったぞ、カルマ・ネットワーク……龍脈だ!」

「古代エルフの施設のある場所には龍脈があると言っていたな。それか!」


 やはりノヴァ本体を停止させるしかないらしい。全てのカルマとの接続を切ったという話だったが、キモンのカルマさんから聞いた話では、カルマ・ネットワークの一人、エルミナータがノヴァへと一時的に接続したという話だった。エルミナータはその所為で破滅因子を送り込まれ、機能が停止してしまったが、今大事なのは其処ではない。


 情報収集の為とはいえ、エルミナータが接続してしまったことで、ネットワーク自体が再構築されてしまったことが問題だった。


 とは言え、龍脈全てを繋いでしまってはカルマさん達の猛攻撃が始まる。だからこの地域だけだろう。カルマ・ローカルネットワークと言ったところか。


「そのネットワークの所為で1000程度だった自動人形が10倍に増えたということか。なるほど、ネットワーク無しだったらノヴァは一つ一つ魔力供給していたのか。地道なことだな」

「言ってる場合か! 早くミストマリアに向かわないと……!」

「だな……だがまだ彼奴が邪魔だ」


 ダニエラが鋭い目で霧ヶ丘の方を見ると、地鳴りと共に巨大な姿が見えた。だがそれは体の一部のようだ。先程の巨大人形とは桁が違う。一体何体分の自動人形が混ざってるのか、検討もつかない。何であれが自立出来ているのかも分からない。しかし考えても仕方ない。ファンタジーな何かで動いているに決まっているからだ。


「なぁダニエラ」

「なんだアサギ」

「彼奴をさ、超格好良く倒したら士気とか爆上がり間違いなしでは?」

「ふむ……確かにそれは言えてる。もう私達が最後まで戦い切るまで全然萎えないだろうな」

「僕もそう思う」


 思うだけでは駄目だ。実際そうなってもらわないと困る。


 虚ろの腕輪から一つの石を取り出す。これは城下町で色々散策していた時に見つけた鉱石専門店で購入した高純度の氷鉱石……氷結晶だ。この結晶自体に高純度の氷属性の魔力が詰まっている。


「ふぅぅ……」


 その石に更に魔力を送り込み、自身の魔力の流れに取り込み、鉱石の魔力を練り合わせ、掌握し、媒介として魔法を生成する。


 周囲の気温を一気に低下させ、作り出したのは絶対零度の大剣《氷凍零剣(ニヴルヘイム)》。過度な装飾の多い剣は斬る為の氷剣ではなく、相手を完全の凍結させる為の魔法だ。


 本来は僕のほぼ全魔力に氷竜(アイスドラゴン)装備の加護と付与を上乗せして構築する僕の切り札ともいえる魔法だが、氷結晶のお陰で僕の1割程度の魔力だけで生成することが可能になった。勿論、氷結晶の数だけ、使える回数が限られてる。


「あれだけ的がデカいと当てるのも楽ってもんだ」

「油断するなよ」

「する訳ないだろう?」

2019年12月11日よりニコニコ静画様にて当作品のコミカライズが始まります。

紙風船のツイッターでも告知しておりますので、ご確認よろしくお願いします₍₍(ง˘ω˘)ว⁾⁾チェケラ

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