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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第三百八十八話 あっという間の二週間

 あっという間に一週間が過ぎた。軍の出立準備が終わるまで暇をしていると思っていたけれど、意外と忙しい日々を過ごした。

 だがそれはよく考えてみれば当然のことで、僕達の出立準備がまだだったからだ。


 城下町に出向いた僕達は、それぞれ消費したポーション類や消耗品を購入した。僕やダニエラに関しては自分に合った武器装備を入手していたが、店長やレモンは、武器はともかく装備が心許ないということで、町中の防具屋を巡っていた。


 その中で一番優秀な装備を抱えている店を見つけたということで僕やダニエラもついて行った。


「それで店長、お店の名前は何ですか?」

「あぁ、言ってなかったね。可愛らしい名前だったよ。『肉球防具店』というんだ」

「……ん?」


 ダニエラが首を傾げている。珍しく記憶に引っ掛かりがあったのだろう。勿論、僕は引っ掛かることもなくしっかりと記憶している。大した宣伝は出来なかったが、出世したらしい。


「そのお店は信頼出来るお店ですよ」

「おや、知ってるのかい?」

「えぇ、僕が着ていた竜種装備を作ってくれたお店ですよ」

「それだ。何処かで聞いた名前だったと思った」


 ダニエラも漸く思い出したみたいで、ポンと手を叩いていた。


「前は別の町で店を構えていたんですけど、出世したみたいですね」

「そのようだね。城下町に店を出せるのは凄いことだよ」


 どうやら店には女性用の装備も多いらしく、店長とレモンが嬉しそうに話していた。確か服飾店と防具店があって、服飾の方はニックの奥さんが経営していたんだっけ。キューナだったかな?


 そんな話をしながら歩いていると、見覚えのある肉球マークが見えた。


「彼処です!」


 レモンが指を差したのは、やはりその肉球だった。以前スピリスで見た時より大きな店だ。マジで大出世してる。


 店長とレモンが先頭で店に入ると、男女の声が聞こえてくる。


「いらっしゃいませー!」

「ごゆっくりどうぞー!」


 やっぱり二人の店だ。続いて僕達も入ると、目が合った。


「あっ、アサギさんでは!?」

「やぁニック。久しぶり。店大きくなったね」

「うちの店の装備じゃないじゃないですか!!!!」

「……」


 開口一番、それだった。まぁ防具屋だしね。仕方ない。


「色々あったんだよ」

「そんな一言で済まされても……」


 そうは言ってもニックの店で買った装備の所為で人間辞めかけてるなんて、口が裂けても言えない。


「色々あったんだよ」

「言う気ゼロじゃないですか……」

「もういいだろ。ほら、今日は僕じゃなくてこっちの二人がメインなんだから、一番良いのを出してあげてよ」


 そういうと渋々引き下がってくれた。それからは商売ということで気を取り直したのか、いつも通りの懐かしい接客業を見ることが出来た。


 無事に二人をニックに引き継ぐことが出来て一段落した僕は店の商品を眺めることにした。僕は服に関しては門外漢だが、どれも良い物なのは分かる。昔作ってもらった風竜装備は突然流れ込んできた素材で質が良かったのもあったけれど、此処に並んでるのはそもそもの質が高い。だから出来上がりも当然良い物になっている。


 つまり素材の仕入れが成功しているってことだ。やはり王都に出店するくらいになると、それだけのコネと信用を得られているということらしい。


 試しに一枚のシャツを手に取ってみるが、懐かしき速乾Tシャツのような肌触りだ。どれだけ良い生地を使えば此処まで仕上げることが出来るのか、想像もつかない。


「アサギ」

「ん?」


 ダニエラの声に振り返れば、2つの服を手にしていた。


「どっちが似合う?」

「右手の白い方」

「そうか」


 それだけ聞くと左手に持っていた青い服を返しに消えていった。しかし直感とは言え、素っ気ない返事をしてしまったが、これは噂に聞く『彼女が選んで持ってきた服を褒めるやつ』だったのでは? どちらを選ぶにしても両方しっかり褒めないと結果的に面倒臭い展開になるという恐ろしいやつだ。


「ダニエラがドライで良かった……」

「私が何だ?」

「いや、何でも無いよ。さて、僕はどれにしようかな……」


 服を返してきたダニエラに言い寄られるが、さらりと躱して自分の服を選ぶ。うーん、神狼なりかけおじさんなので素材には気を付けたいところだが、普段着であれば問題ないと思う。此処は一つ、先程の速乾Tシャツ系をいくつか買っておきたい。



  □   □   □   □



 色違いをいくつか選んでカウンターに持っていくと、女性店員が対応してくれた。


「お久しぶりです」

「むぅ……」

「あはは……」


 此方も拗ね気味だ。ニックの奥さんで『肉球服飾店』の店主であるキューナさんだ。


「色々あったんです」

「それはさっき聞いたけど……はぁぁ……」


 まぁ確かに自分達の商品を鞍替えされたらあまり良い気分ではないだろう。


「何か不満とかあった……?」

「いや、そんな事は全然。度重なる激戦の所為でどうしようもなかったんです」

「そっかぁ……」

「すみません……」


 こうもガッカリされてしまうと段々申し訳なくなってくる。別に僕が悪い訳ではないのだが、こればっかりは気持ちの問題だからしょうがない。


「……まぁ、使い潰してくれたんなら、嬉しいかな」

「そう言ってもらえると有り難いです」

「それにしても、その装備、良いね……何処の誰が作ったの?」


 それからは今の装備の話になった。勿論、この装備の製作者であるレイチェルの事は言えなかったので其処は上手くぼかした。しつこく聞かれたが言えないものは言えない。この人なら王城まで乗り込んでいきそうだしな……。


「いやぁ、でもあれだね。良い製作者さんだよ。私達が作った装備を大事にしてくれてる」

「そうですね。腰のところとか用意してくれて嬉しかったですし」

「うんうん、まっ、それだけ私達の装備がデザイン的に優れてたってことにしておきましょう!」


 あの時は突貫だった腰マントだったが、僕自身かなり気に入ってたので今も装備出来ているのが嬉しい。狼の尻尾付きだしね。


「キューナ、お会計頼む」

「お、決まったのかい?」


 話しているとニックが店長とレモンを連れて戻ってきた。二人の手にはそれぞれ必要な装備が抱えられていた。


 僕はその場を離れて暫く商品棚の近くでダニエラが服を手に姿見の前を行ったり来たりしているのを眺めていたら、店長達が装備を持ってまた奥の方へと行くのが見えた。多分、今から着替えてくるのだろう。


「ダニエラ、そろそろ帰る準備しよう」

「あぁ、分かった」


 ダニエラは持っていた服をカウンターに持っていく。今日は沢山買い物してしまったな……。今までのクエスト等の収入のお陰でお金に困ることはないが、出るばかりというのも落ち着かない。何処かでちょっと稼ぎたいところだが……。


「おまたせ」

「結構時間掛かっちゃいました……!」


 と、思案していると二人が戻ってきた。おぉ、普段とは違う格好。ちょっと新鮮だ。


 店長は僕と似たような黒インナーに革製の胸当てを装備している。下はショートパンツに、此方も黒いタイツを履いている。それをニーハイブーツで覆っている。此方も革製だ。腰の左右には剣帯が下げられ、僕が渡した《常闇の三双剣》をそれぞれ収納している。これ、剣帯がクロスしてて格好良いからずるい。2丁拳銃みたいな感じ。僕も欲しい。


 レモンは意外にも金属製の鎧を装備している。フルプレートではないが、それなりの重装備に見える。胸と腕をしっかり固めていて、逆に肩は出ているが、これは動きやすさ重視の結果だろう。灰色のインナーを覆うブラストアーマーの上半身。下半身は腰回りをデザイン性のある金属鎧で覆い、膝を覆う形で足も金属製のブーツを履いている。そして剣帯を下げて僕が渡した《片刃・斜陽》を装備してくれていた。


「いよいよって感じがするね」

「頑張りましょう!」


 二人共気合いが入ってる。僕も頑張らないとな。

 ふと横を見ると、ダニエラがウロウロしていた姿見が見えた。何だか久しぶりに自分の姿を見た気がする。レイチェルに貰った《神狼闘衣(グレイプニル)》を身に着けた僕だ。結構、引き締まった体になってるな……顔は、何だろう。昔より精悍な顔つきになってるような気がする。それとも老けたのかな。


「待たせたな」


 会計を終えたダニエラが戻ってくると、ニックとキューナの二人もついて来る。


「これから大きな戦いがあるって噂ですけど、もしかしてアサギさん達も参加するんですか?」

「まぁ……そうだね。参加するよ」


 流石に軍が配備されることもあって城下の市民達にも噂という形で話は流れてきているらしい。


「あと一週間したら霧ヶ丘周辺は戦場になる。二人共、気を付けてくれ」

「分かったよ。この話は他の人に話しても?」

「問題ないんじゃないかな?」

「そうですね! むしろ知ってもらった方が事故も少なくなると思います!」


 それを聞いて二人も広めてくれると言ってくれた。出来るだけ尾鰭が付かないように広めてくれたら凄く助かる。


「じゃあそろそろ行くよ」

「アサギさん、気を付けて!」

「あぁ、出来る限り気を付けるよ」


 手を差し出したニックの手をギュッと握る。ダニエラ達はキューナさんと握手やハグをしていた。その光景を見るとこれから戦争が始まるんだなと、改めて思う。


 僕達は気合いを十分に満たし、城に戻った。




 装備を整え、アイテムを揃え、そして日々自分を鍛え直す為に手合わせを繰り返した。


「これで十分とは思えないけど、何時だって十分に準備出来た時はなかったな」

「そうだな。そしてどんな時でも私達は生き残った」


 剣帯に《鎧の魔剣(グラム・パンツァー)》と《白刀・天狐(ハクトウ・テンコ)》を下げる。そして《藍色の大剣(シュヴァルツ・テンペスト)》を肩に担ぎ、ダニエラの隣に立った。


 《死生樹の弓(シセイジュノユミ)》の弦を掛け直し、風龍装備に身を包んだダニエラがパン、と作った拳を手で覆った。


 僕達の後ろには店長とレモン、そしてレイチェルと松本君とそのハーレム達が。そしてその更に後ろにはランブルセン共和国軍と、傭兵として臨時募集した高ランク冒険者達が並ぶ。


 チラリと後ろを見ると、まぁ強面な方達が気合十分な顔をして更に怖い。見なかったことにしてスーッと前に向き直ると、前は前で自動人形(オートマタ)達が、最早無限に居るのではと思えるくらいの数で待ち構えていた。


「……頑張ろうかね」


 さぁ、始めるとしよう。人と魔道具との戦いを。

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