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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第三百八十三話 4名様、砦へご招待

 一通り遊んだところで日が傾いてきたので、その日はダニエラの故郷で野宿をした。結界の魔道具のお陰で魔物の侵入も接近もなく、無事に夜を明かした僕達は真面目に歩き通してついに砦を視界に捉えた。


「アサギ先輩、そっち行きました!」

「まかせろ! ハッ!」


 と、途中までは平和だったのだが、現在は突然に魔物の襲撃に対応している。草原という陰のない場所は空から丸見えで、つまりこのソニックイーグルの独壇場となる。


 上空から高速で滑空して鋭い嘴と爪で攻撃してくるこの魔物は、器用なことに魔法も使いこなし、去り際に風魔法をぶつけていく。羽を広げた際の大きさは僕がすっぽり収まる程だ。そんな巨体で突っ込まれてはひとたまりもない。


 だが相手が悪かった。文字通り飛ぶ鳥を落とすダニエラに影を操る店長、見た目は幼いが高い実力を持つレモンに、空でも陸でも戦える僕だ。


 最初の襲撃を躱した後はそれぞれが適切な対応で1匹ずつ仕留めていく。


「これで、終わり!」


 レモンの袈裟切りで最後のソニックイーグルが血を流しながら地面をスライディングして絶命した。僕の足元まで滑ってきたソニックイーグルを改めてみると、綺麗な青色の羽だ。血で汚れていなければ立派な加工品になるだろうな。


「む……誰か来る」


 ダニエラが素早く矢を手に取り、南の方向を見る。慌てて僕も《気配感知》を広げ、反応のあった方を見ると、馬に乗った人間が5人程此方に向かっていた。賊かと思い背筋が冷えたが、落ち着いて確認すると、それが鎧を身に着けた兵士であることが分かった。


「いやぁ、お強いですな! 魔物が人間を襲ってるのが確認出来たので大慌てでやってきたのですが、倒してしまいましたか!」


 先頭を走っていた男が兜のバイザーを上げて快活な笑みと共に称賛する。敵意はないようで、僕もダニエラも武器を下げた。


「砦の方ですか?」

「えぇ、ランブルセン共和国軍所属、ガッセルであります! お名前を聞いても?」

「アサギと言います。どうぞよろしくお願いします」


 ガッセルさんが差し出した僕の手をガシッと握る。すると更に強く握ってくる。懐かしい彼の顔が浮かぶ。彼の為にも負けられない。


「むっ……!」

「ふふふ……」

「いやはや、お強い……!」

「ありがとうございます」


 痛そうに手をぷらぷらと振るガッセルさんに肩を竦めてみせると困ったように笑われた。


 その後はお互いに軽く自己紹介をして、ついでにステータスカードも提示して身元を明かした。お陰様で二つ名も知られ、無事に信用を得た。嬉しくない。


「『銀翠』のアサギ殿に『白風』のダニエラ殿。お名前を伺った時はもしやとは思いましたが、ランブルセンでも高名なお二方にこんな所でお会い出来るとは思いもしませんでした」

「そんな大層な人間ではないですよ。僕もダニエラも」


 まぁ、このランブルセンで色々したことはあったけど、それだって数々の偉業を成し遂げてる松本君には敵わないだろう。何してるか知らんけど。


「ふむ、しかし間違いはないようで安心しました」

「?」


 嬉しそうに頷くガッセルさんだが、僕達はまるで意味が分からず、首を傾げる。


「実は本部より連絡がありまして。エレディアエレス法国方面より訪れる4人の冒険者を城へ案内せよ、と。その冒険者の名はアサギ=カミヤシロ、ダニエラ=ヴィルシルフ、リンドウ=キヅガワ、レモンフロスト=グラシルフと」

「城に招待……あぁ、レイチェルか」


 納得がいったとダニエラがポンと手を叩いた。なるほど、早速レイチェルが動いてくれたらしい。まったく便利神狼様だ。


「本日は砦にお泊りください。明日、首都ソル・ソレイユ旧王城『アンジェ・テレノアリス』へお送りしましょう」


 一も二もなくお言葉に甘えることにした。今日は久し振りに立派な屋根の下で眠れそうなので、僕達4人は自然と頬が緩んだのは言うまでもない。



  □   □   □   □



 砦は意外と綺麗で、物資が重なり合い、埃臭い場所だと思い込んでいた僕は驚いた。ガッセルさんが言うには、此処は魔物退治程度にしか使われないので特に物資が必要ないそうだ。戦争もないし、此処を通るのは旅人か商隊くらいだそうだ。平和なのは実に良いことである。


 ガッセルさんの計らいで夕飯を頂いた僕達は、これまたガッセルさんの計らいで浴場へと案内してもらった。この砦、お風呂があるなんて素晴らしいな!


「いや、申し訳ない。通常の宿であれば男性と女性に分けた浴室があって然るべきなのですが、何分、此処は砦でして……」

「大丈夫ですよ。謝らないでください」


 浴室は大浴場一つとのことで、先にダニエラ達が入ることになった。僕は後から此処の兵士達と一緒に入る。勿論、それに対して不平不満などあるはずもなく、ペコペコと頭を下げるガッセルさんを宥めるのに苦労した。


「裸の付き合いといきましょう!」

「ですな!」


 そのお陰か、お互いの距離も縮まり、湯気の中でガッセルさんの背中を流してあげた。他の人達も気さくで良かった。しかしまさか一番最初に入った兵士が湯舟のお湯を飲もうとした時は焦った。変態という生物は何処にでも居るらしい。


「お、あがったか」

「お待たせ」


 湯上り……から幾らか乾いているが、湯上り美人のダニエラが先程夕食を食べた食堂で酒の入ったジョッキを並べていた。手にしているジョッキ以外は空である。


「久しぶりの湯舟ではしゃぎ過ぎた。喉が渇いて仕方ない」

「にしたって飲みすぎでしょうよ……店長、ちゃんと止めてくれないと困ります」

「何、それはアサギ君の役目と思ってね」


 同じジョッキを手にした店長がヘラヘラと笑うが、酔ってはいないようだ。逆にレモンは机に突っ伏している。どれだけ飲んだのかと呆れながら確認したら手にしたジョッキにはまだ赤ワインが半分残っていた。


「こうして潰れたレモンを部屋で介抱(意味深)をするのが私の役目だよ」

「サイッテー!」


 精一杯のしかめっ面をしてやると店長はカラカラと笑いながらレモンを担いで用意された部屋へと帰っていった。此処は砦だから手加減してほしいものだ。


「リンドウも久しぶりに安心して眠れるからはしゃいでいるな」

「そうかもしんないけど、周りは男ばっかりだ。ちょっとは加減してくれないと悪いことに繋がるぞ……」

「ふむ……私もはしゃいでいたが、アサギがそう言うなら自粛しておこう」


 む……そう言われると途端に何故か損をした気分になる。


「ま、まぁ石造りだし、風魔法で結界を張れば、まぁ……」

「魔法を維持しながらとは、アサギも酷なことを言う」


 ま、造作もないがな。と耳元で囁かれ、風呂上がりなのに逆上せそうになる。


「……そろそろ、部屋に帰ろうか。消灯時間っぽいし」

「ふふ、そうだな?」


 全部見透かしたように笑うダニエラが立ち上がるので、僕もその後ろをついて行く。


 それからは部屋で少しだけ話し、少しだけ運動をしてから朝までたっぷりと寝た。屋根の下での睡眠はとても気持ち良かったです。

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