第三百八十一話 狼会議with白エルフ
今日は僕とダニエラしか居ない。店長達は宿を引き払う為のお片付けがある。結構泊まってたみたいだし、作業は時間が必要だろう。僕とダニエラは数日しか泊まってないので片付けるようなものはないので、楽ちんだ。
「来たか」
「おはよ。よし、ちゃっちゃと決めていこう」
すぐに玄関空間を開くと既に準備を終えていたレイチェルがぬるりと這い出てくる。
「うー……眠い……」
ちゃんと外行きの格好をしてるがまだ目がちゃんと開いてない。さてはレハティが着替えさせたな?
チラ、と塞がりつつある玄関空間を見るとレハティが小さく手を振っていた。ので、ベオウルフを指差すとビックリした顔をしたが、タイミング良く空間が閉じた。
「さて、僕が考えた最強の今後の展開を話すぞ」
「馬鹿っぽいが、頼む」
「んぅ……」
「寝るなレイチェル」
ガクガクとダニエラがレイチェルを揺らすのを横目に、僕は準備しておいた手書きの地図を虚ろの腕輪から取り出した。
「まず現在地。エレディアエレス法国は此処だ」
指差した場所は地図の上端。小さな丸が法国だ。僕達はその丸の右方向の森に居ることになる。
「で、下に行くとランブルセン共和国。此処がソル・ソレイユ」
レイチェルが宮廷魔術師をして、松本君が住む都市、ソル・ソレイユ。ランブルセン共和国の首都である。
「此処から東に進むと、僕が転移して来た場所であり、今回の戦場となる霧ヶ丘があるんだ」
スーッと指を右に動かし、一点を差す。因縁の地である霧ヶ丘だ。此処から更に東に行くと、僕が最初にお世話になったフィラルドがある。
「此処までは良いか?」
「うむ」
「うむ」
「あぁ」
似たような返事しやがって。キャラが被るんだよ。だが地理関係の説明は無事に終わった。ちゃんと理解してもらえて良かった。昨日の夜に頑張って書いたんだぜ、これ。ダニエラに聞きながら。
「で、実は此処に古代エルフの遺跡がある。皆知ってるな?」
「よく知ってる」
「我達が出会った場所だな」
「此処を合流場所にする。レイチェルに頼んで鬼族は既に移動済みだ。だからレイチェルには鬼族に狼達が合流することを伝えて欲しい」
地図から顔を上げるとレイチェルが嫌そうな顔で僕を見ていた。下着でも見せてくれそうな雰囲気だ。
「ワシ、これでも世界最強の神狼なんじゃけど」
「知ってるとも」
「パシリか? 神狼パシらせるのか?」
「とんでもない。これはパシリじゃなくて、お願いだ。神頼みだ」
勘違いも甚だしい。僕が師匠であるレイチェルをパシらせる訳がない。
「ふむ……まぁ、お主がそう言うなら、しゃあないのぅ」
「よしよし、ありがとうな」
満更でもない顔しやがって。はーちょっろ。
「よし、じゃあレイチェルは良いとして、ベオウルフ。お前には狼達に鬼族と人間を襲わないように伝えて欲しい。むしろ躾けてほしい」
「造作もない。移動前に済む。が、アサギよ。何も知らない人間に襲われた時にはどう対処すればいい?」
その問題がある。僕達は理解しているが、何も知らない人間、例えば冒険者や商隊なんかは狼の群れなんて見つけたら多分、喜んで狩りに来るだろう。
「出来れば戦って欲しくないが……僕があーだこーだお願いするより、今まで通りやってもらうのが良いと思う。ベオウルフは人間を殺さないという約束を守ってくれてることだし」
「ではこれまで通りということで問題ないな」
「うん、任せるよ」
戦った相手に薬草を差し出す優しさを持つベオウルフなら心配する必要はないか……。
と、此処までが僕が考えた合流作戦だ。僕やダニエラ達が霧ヶ丘付近まで来たらレイチェルに空間を繋いでもらい、戦場に召喚してもらう予定だが……。
「何か不都合とかないかな?」
「ワシ働き過ぎ問題」
「其処は申し訳ないと思ってる。頑張ってください」
「チッ……まぁいいじゃろう」
便利なんだもん、次元魔法。
「ベオウルフは?」
「問題ない。だが遺跡までは徒歩で向かわせてもらう。レイチェル殿に負担は掛けたくないし、狼の足ならそう時間も掛からん。懐かしの森を通って霧ヶ丘は迂回しよう」
「分かった。怪我の無いようにな」
これくらいか。意外と早く終わったな……でも時間は有限。タイムリミットはないけれど、早く決着がつけられるならそれに越したことはない。
では解散ということで、レイチェルはさっさと玄関空間を開く。
「あー、レイチェル」
「あん?」
「あとでソル・ソレイユにも行くから、よろしく」
「はぁ? あぁ、アレも使うか……ほんとにお前は神狼使いが荒いのぅ……まぁ、状況が状況じゃしな……使えるもんは親でも使うがよい」
それだけ言うと別れの挨拶も無しに帰っていった。
ベオウルフも眷属のスノーウルフを引き連れ、ウォフウォフと鳴きながら移動を開始した。道中の食糧はまぁ、問題ないだろう。其処は野生の勘にお願いするとしよう。
「さて……僕達も帰るか」
「あぁ」
ダニエラとは昨夜、既に話し合ってるので特に意見が割れることはない。むしろダニエラが考えてくれたことが多くあって非常に助かっている。
こうして僕が頑張って行ったプレゼンの練習にも付き合ってくれた。まさか僕が企画披露するとは……。一アルバイトだった僕がまさかねぇ。
僕が両腕を上げるとダニエラが僕の腕に乗っかる。筋肉質な重みを感じながら『ふんっ!』『いってぇ!』両足に白銀翠の風を生み、ゆっくりと走り出す。後は《神狼の脚》が推進力となり、僕とダニエラはゆるりと空の旅を楽しんだ。




