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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第三百八十話 狼オフ

 雪道を走り続けてきたのだろう。白い息を吐き出しながら駆けつけてきたダニエラが僕の頭を引っ叩いた。


「痛い……」

「馬鹿野郎かお前は!」

「えぇ……」


 思っていた以上に怒っている。


「心配しただろう……まったくお前は……」

「ごめん……」

「ちょっと怪我してるじゃないか。気を付けろ」


 言われてみて初めて気付いたが、頬と腕を少し切っていた。今更になってじんじんと痛み出す。


「我の風の所為だろう。この極致の風は触れる物を凍てつかせ、切り裂くからな」

「なるほどね……いてて」

「しかしアサギも強くなったな……この辺りの冒険者共とは段違いの強さだな」


 何処からともなくやってきたスノーウルフが僕の前に薬草を置いてくれたので有り難く使わせてもらう。クシャクシャと揉んでから出てきた汁を頬に塗り、葉っぱを腕に押し当てる。これだけで治りは自然治癒よりも断然早い。


「君が噂の白い巨狼でアサギ君のライバルか。リンドウだ。よろしく」

「私はレモンフロストと言います。敵ではないので食べないでください」

「もうベオウルフではないが、ベオウルフだ。取って食わんから安心しろ。此奴との約束だ」


 もふんと大きな肉球で頭を小突かれる。なんだ、僕の頭はサンドバッグじゃないんだぞ。


 これで自己紹介は終わったかな。噂の真相もはっきりしたし、再会も約束も果たした。しかしやっぱり気になるのは何でこんな雪国に居るのかってことだが……。


「どうしてこんな場所に?」

「それは簡単なことだ。此処があの神狼の生まれた場所だからだ」

「あぁ、なるほど」

「此処なら更に強くなれるのではとな……実際、かつての自分よりも強くなれた。此処は氷属性の龍脈が地表へ溢れる場所のようだ」


 それでこの景色か。氷雪期でもないのに北国は凄いなと思っていたが龍脈が原因となれば納得出来る。此処は1年中雪国なのだ。


「魔素溜まりで魔素を吸収しているところを冒険者に見られて以来、何度か手合わせをしたが、それもあって人間相手でも上手く立ち回れるようになったが……アサギはそれ以上だったな」

「僕だってふらふら旅してた訳じゃないんだ。神狼にだって会ったぞ」

「なに!? それは本当か!?」


 何処かで見たような気持ち悪い食いつきっぷりに思わず一歩下がってしまう。


「我も会いたい。会わせろ」

「あー……ちょっと待ってて」


 今忙しいかもしれないけど、ちょっとくらい顔出しても大丈夫だろう。ちょっとだけだ。


 虚ろの腕輪から鍵を取り出し、その辺に差し込む。ガチャリと捻れば玄関空間への入り口が広がる。


「おぉ……」

「ちょっと呼んでくるから。ごめん皆、ちょっとだけ待ってて」

「私は構わん。ベオウルフの頼みであれば断る理由がない」

「レイチェルさんの機嫌が良い事を祈ってるよ」

「同じくお祈りしてますっ」


 よし、快く頷いてくれたのでさっさと連れてくるとしよう。



  □   □   □   □



「よし、行くぞ!」

「意味分からんし忙しい!」


 窓を開けるなり叫ぶがまったくノリが悪い。


「ちょっと知り合いにレイチェルのファンが居てさ、どうしても会いたいって言うから」

「はぁ~? お前、このクソ忙しい時期に……はぁ、まぁ、しょうがないのぅ」


 と、満更でもないレイチェルだ。この神狼、チョロすぎない?


「ちょっと待て、外行きの格好するから……」

「忙しいんちゃうんかい!!」



  □   □   □   □



 てな訳で連れてきたのだが……。


「あ、あの、えっと、神狼様ですか?」

「う、うむ……まぁ、そうなります……」

「陰キャのオフ会か!!!」


 ていうかこれ多分……。


「ベオウルフ、お前、記憶戻ってるだろう」

「む……」


 でないとこんな人間らしいキョドり方しない。ジッと睨むとふい、と目を逸らした。図星だな。


「進化した時にな……これでも戸惑ってるんだ。自分が魔物ということに。だから人の姿をした魔物である神狼に会いたかった」

「ふん、まぁワシもそうじゃったし、そうじゃな……お主には人化の魔法を教えてやる。全てが終わったらな」

「ありがとう……貴女やアサギ達に会えなかったら、きっと自分を保てなかっただろう」


 人に生まれられなかった人の行き着く先は自我の崩壊、か。僕が僕のままこの世界に転移出来たのは本当に奇跡だったのだろう。けれど、そんな奇跡は必要ない。転移自体が不必要なことなんだ。だからノヴァは野放しに出来ない。


「……ん? 全てが終わったら?」

「これから大きな戦いがある。お主も加わるが良い」

「ベオウルフが一緒に戦ってくれるなら心強いよ」

「これも人化の為か……仕方ない。我も参加するとしよう」


 良い流れだ。上手くレイチェルが引き込んでくれた。


「その戦いの概要を教えてもらえるか?」

「あぁ、勿論だとも。お前にも関係のある戦いになるからな」



  □   □   □   □


 で、説明をしたところ、ベオウルフは半ギレで参戦を了承してくれた。自分がこの世界で魔物として生まれ変わった原因だ。怒らない訳がなかった。


「教えてくれてありがとう、アサギ。全力で戦おう」

「うん、期待してる」


 最強の魔物が参加してくれるのだ。これ程心強いことはない。


「我が眷属達も戦う。鬼族も参加するのだから問題ないだろう?」

「あー、多分」


 僕達以外にも、もしかしたら参加する人間が居るかもしれない。それが混乱に繋がる可能性も無きにしもあらずだ。その場合はしっかり僕が中心になって周知していかないとな。


「結構寒くなってきたな……そろそろ帰らないと夜になってしまうよ」

「もうそんな時間か。アサギ、一旦戻ろう」


 ベオウルフと話しながらじゃれてきたスノーウルフの耳をワシャワシャと撫でているとダニエラから声が掛かる。言われて空を見上げると、太陽は天辺を過ぎ、ちょっと下り坂。確かにこれ以上居ると帰る時間が遅くなる。何があるか分からないし、そろそろお暇するとしよう。


「合流の事とか決めたいからまた明日来るよ。レイチェルも一緒に」

「はぁ? めんどいんじゃが」


 ブーブーと文句を言うが鬼族との連絡手段も含めてレイチェルには動いてもらうつもりなのでちゃんと打ち合わせしておきたい。電話がないこの世界では玄関空間を使えるレイチェルはとても便利なのだ。


「ではアサギ、また明日」

「ん、また明日な」


 ということで僕達は一旦エレディアエレスへ帰ることにした。また明日、再びレイチェルを連れ出して此処へ来るとしよう。



  □   □   □   □



 帰り道での出来事。


「おいアサギ、彼処にデカい蜘蛛が居るぞ」

「なんだと、雌か!?」

「いや、格好良い顔をしている。あれは雄だな」

「クソッッッッッッ!!!!!!」

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