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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第三百七十九話 白狼・ベオウルフ

朝更新してます。そちらを先に読んでからどうぞ。





「ふふ、まるで狛犬だね」

「異世界ジョークはやりすぎ注意ですよ」

「分かってるって」


 ちょこんと座る姿はまぁ、狛犬に見えなくもない。けどサイズがな……ああやって座ってるだけで子供の背丈くらいある。立ち上がれば大人といい勝負だろう。

 あれが彼奴の眷属だとしたら元はフォレストウルフだったのだろう。でもサイズが違うな……進化したからだろうか。


 一応、警戒して近付くが襲ってくる気配はまったくない。大人しいもんだ。


「ん……っ!」


 だが動きがあった。でもそれは戦闘行為とはまったく違った。


「これは……」

「こうなるともう、大きなわんちゃんにしか見えないですね……」


 僕が近付くとスノーウルフ達は揃って地面に伏せてしまった。それもチラチラと尻尾を揺らして、だ。何だろう、野生の動物、魔物なのに白いおっきなもふもふにしか見えなくなってきた。


「僕には斬れない……」

「私もだ」

「私もです!」

「これに剣を向けるのは勇気が必要だね……」


 それくらい愛らしい。自然と手が首筋に伸び、ゆっくりと撫でてしまう。触り心地はあんまり良くなかった。


「さて、じゃあお前達、案内してくれるか?」

「ウォフ」

「ウォン」


 短く答えた二匹のスノーウルフが踵を返して森の中を走り始める。此方への配慮なんて微塵も考えない速度だ。流石氷属性特化の魔物、パウダースノー、どんと来いだ。


「先に行きます。ダニエラと一緒に居れば多分大丈夫だと思うので後から付いてきてください!」

「あ、ちょっとアサギ君!」


 店長が手を伸ばすが、僕はもう走り出していた。待ち切れない。申し訳ないが今日だけは僕も配慮が出来なかった。


 すぐにスノーウルフ達に追い付いた僕は暫く走り続ける。勿論、《神狼の脚》を使ってだ。普通に走ればすぐに足が埋まって震えることになる。


 一度、ちらりと後ろを確認した後はまっすぐ振り向かずに走る狼達。追い付いて当然とでも言いたいのかもしれない。


 森は暫くすると広い空き地のような場所へと変わる。《気配感知》を広げるまでもない。その広場の真ん中には白い1匹の巨狼が待ち構えていた。


「来たか、アサギよ!」

「ベオウルフ!」


 四肢を白銀の風で覆ったベオウルフが飛びかかってくるのを転がるように避ける。防寒着を着ていては戦えない。僕はすぐにそれを虚ろの腕輪に仕舞い、代わりに武器を取り出す。


「ふん……ッ!」


 振り上げた大剣を振り下ろす。叩きつけた『双頭の狼(オルトロス)』が雪煙を巻き上げる。


「久し振りなのに随分なご挨拶だな!」

「それはお前もそうだろう? アサギよ」


 お互いに間合いを確かめ合うように距離を保ちながら、成長した姿を確認する。


 確かに相対しているのはベオウルフだ。けれど昔のような姿ではない。エレディアエレスに流れる噂の通り、白い姿をしている。尾は以前と同じく三叉だ。


「進化したのか?」

「あぁ、お陰様でな。魔素より生まれた我を進化させたのもまた、魔素だった。我はこの地で自身の限界へと至ったのだ」


 素直に頷ける程の強さと貫禄が滲み出る姿だ。向かい合うだけで此奴が以前のベオウルフでないことははっきりと分かった。


「感覚で分かった。ホワイトウルフへと進化したことで我は最強になった」

「なるほど、最強ね」


 色の名を冠する魔物は最強の証。それはこの世界の摂理だ。だけど最強ってのはちょっと違う。


「僕の方がまだ強いな」

「ほう……我を前にして言ってのけるか」


 ベオウルフが姿勢を低くする。四肢を纏う風の勢いが高まる。


「どれだけ成長したか確かめてやろう」

「教えてやるよ。僕の旅の成果」


 両足を白銀翠の風で覆い、オルトロスを後方に構えた、一瞬にして両者の距離はゼロになる。ギィン、と鈍い音を響かせ、風と剣がぶつかり合う。


 すぐにまた距離を取るが、ベオウルフがそれを許してくれない。まるで路地に吹き込む風のように、歪で無軌道な小さな竜巻のように僕を追い、あらゆる角度から爪を振り下ろしてくる。


「ほう、これを凌ぐか」

「馬鹿にするなよ!」


 全方位からの攻撃なら僕だって十八番だ。ただ、こうも攻めを封じられると中々抜け出せない。自分の攻めを身を以て味わうのはあまり良い気分ではない。


 なので意図的に《神狼の脚》を半端に解除し、爆風を生み出して周囲をまとめて吹き飛ばした。不意を突かれたベオウルフも飛んでいくが、流石に為す術もなく飛んでいくような無様な姿は見せない。追撃を仕掛ける僕に向かって『氷矢(アイスアロー)』を放つ。


 それを剣の腹で防ぎながら距離を詰め、下方から剣を振り上げる。だがベオウルフは『氷盾(アイスシールド)』で防御する。ただの盾ではない。何十にも重ねた分厚い盾、もはや壁だ。しかしそれが仇となる。


 一瞬、視界が防げるなら何の問題もない。神狼の力が宿ったこの装備なら、一瞬で背後を取れるのだから。


「ハァッ!!」

「なっ……ぐあぁっ!!」


 《神速》でベオウルフの背後へ移動し、オルトロスの峰を振り下ろす。吹き飛ばされたベオウルフが背中から雪原に叩きつけれられ、更に雪煙が舞う。


「やるね……」


 叩きつけはしたが、峰打ちの瞬間、ギリギリのところでまた『氷盾』で防がれたのを見た。あの一瞬で生成するとは、流石はホワイトウルフ、氷系最強の狼だ。


 地上へ降り立ち、ゆっくりと立ち上がるベオウルフに剣先を突き付ける。


「ははっ、僕の勝ちだな」

「むぅ……」


 悔しそうに唸るも、反撃の様子はない。


「へへっ、やったー」


 剣先を外し、肩に担いで懇親のドヤ顔をしてやった。と、其処でダニエラ達が追い付いてきたのが視界の端に映った。

 ベオウルフもそれが見えたようで、溜息を吐きながら地に伏した。


「久し振り、ベオウルフ」

「あぁ、元気そうで何よりだ」

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