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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第三百七十四話 フスクスへ

 部屋を出てダニエラと合流し、ユウナギも含めた3人で夕飯を食べた広い部屋へと行く。其処には朝食とは思えない量の料理が並んでいた。


 お誕生日席に座ったヤマトさんの隣には、昨日は見当たらなかった美人さんが座っていた。


「おはようございます、ヤマトさん」

「おはようさん。昨日は会ってないよな。嫁さんの『クシナ』や」


 ヤマトさんが紹介すると、クシナさんがゆっくりと会釈する。


「おはよう、君がアサギ君やね。独鈷、持ってきてくれてありがとうね」

「いえいえ、此方のダニエラの助けがないと持ち帰ることは出来ませんでした」


 流れで促すとダニエラも会釈した。クシナさんも柔らかい笑みを湛えたまま、ダニエラの手を取った。


「あぁ、エルフさんに会えるなんて、今日はええ日やわぁ」

「私も鬼族の方に会えるとは思っていなかった」

「ふふ、うちらは外に出ぇへんからねぇ」


 そんな感じで和やかな雰囲気で朝食を食べ始める。クシナさんはダニエラに会えたのが嬉しかったのか、ずっとダニエラとお喋りをしながら食べている。クシナさんの話し方はほんわかしてて、聞いてると安心感が凄い。比例して眠気も凄い。


「アサギよ。昨日一晩考えたんやが、俺等はお前の下につこうと思っとるんやが」

「等って事は、鬼族全員ですか?」

「せや。ノヴァと戦うんは総意や。異議はない。もともと独鈷が手に入り次第攻め込む予定やったしな。せやけど俺等が好き勝手暴れるには流石に時代が流れ過ぎた。お前っちゅう指揮官の下なら多少は融通効くやろ?」

「まぁ、ある程度の地位はあるとは思ってますが……」


 冒険者界隈では、だ。遺憾だが。遺憾だが。


「鬼族連れてきました! で何とかなると思います」

「それはそれでどうかと思うけど、まぁええやろ」


 それ以上は話してもしゃーないと言わんばかりに米を食らうヤマトさんに習ってお米を口に運ぶ。うん、旨い。




 食後は僕からの提案でユウナギを連れてレイチェルの家に行くことになった。レイチェルを勧誘するためだ。色々事情説明をしたいので鬼族の人についてきてほしいとお願いしたところ、情報収集として何度も外に出ているユウナギならフスクスまでは難なく行けるからという事で選ばれた。


「ほな頼むで。レイチェルさんによろしゅうな」

「ん」


 不貞腐れたような短い返事。難しい年頃なのだろう。子供には見えないけれど、長命種というのはそういうものだ。多分。


 昨日通った大通りを3人で並んで歩いていると、鬼族達が不思議そうに僕達を見る。けれどそれは不快なものではなく、何処か待ち望んだ人物がやってきたような、そんな何かを期待したような眼差しだ。独鈷が戻ったこと。それを持ってきたのが人間ということ。それが既に里全体へと広まっているんだろうな。なんか照れ臭い。


「アサギ、ダニエラ、いっこだけ気を付けてほしいことがあるんやけど、ええか?」

「うん」

「なんだ?」


 里の出入口まで来たユウナギが真面目か顔で振り返る。昨日までのくだけた雰囲気は微塵もなく、初めて会った時のような空気だ。


「……これからは外用の口調と態度になる。此処での我と外の我は別人だ。いいな?」

「分かった。……ふふっ」

「何で笑うねん!」


 いやさっきまでのユウナギを思い出したら申し訳ないけど笑う。


「お前も田舎って馬鹿にするんか!」

「いやギャップおもしれぇなって……」

「萌えとけボケ!」


 ツッコミの文化もあるのか……さては鬼族に和風文化をもたらした勇者、関西人だな?


「ではそういうことで。ほら行くぞ」

「はーい」

「了解」


 なんて緩い空気で僕達はヤクシャシュタットを後にした。



  □   □   □   □



 洞窟の分岐の一つは地上へと繋がる道だった。巧妙に隠された洞窟から抜けると、其処は山の中腹だった。


 眼下に広がる赤と青の屋根を見下ろしながら砂埃を叩いていると、水分補給をしていたダニエラがぽつりと呟いた。


「レイチェルは参戦してくれるだろうか……」

「んー……どうだろうな。性格曲がってるし頑固だし意地っ張りだし、難しいかもな」

「何なん其奴、大丈夫なん?」

「田舎出てるぞユウナギ」

「田舎言うなハゲ」

「ハゲとらんわ」


 手頃な岩に腰を掛けたユウナギとくだらないやり取りをし、ダニエラの言葉をもう一度頭の中で反芻する。


 まぁ確かにレイチェル=ヴァナルガンドという神狼は捻くれた女だ。でも何だかんだ言って助けてくれる。僕の師匠だし。


 それに、彼女だって被害者なのだ。死んだ魂を縛られ、狼の体に押し込められ、800年を生きた。今の生活に満足していたとしても、恨みはある……と、僕は思っている。


 そんなレイチェルをノヴァ戦に引き込むべく、下山した僕達はレルクルを通り、フスクスへとやってきた。


「レイチェルの家は……何処だっけ」

「確か、この通りの裏だな」

「そうだったっけ。思い出せないから任せる。ユウナギ、ちゃんとついて来てるか?」


 ダニエラの後ろを歩きながら聞くと、脇腹を指で突かれ、変な声が出た。下山してから透明化しているから声が出せないのは分かるが、突く場所を考えてほしい。


 レイチェルの家へはすぐに到着した。1回来ただけなのにダニエラは凄い。部屋の番号まで覚えてるのだから凄い。


「私だ。開けてくれ」


 訪問の仕方は下手くそだが。そんな訪問だからレハティが警戒しながら扉を開けた。


「あっ、ダニエラさん。アサギさんも」

「突然悪いな。レイチェルは居るか?」

「今ちょっと、あっちに……」


 申し訳なさそうに眉尻を下げるレハティ。あっちというのは玄関空間のことだろう。


「そうか。じゃあそちらへ行くとしよう。行っても問題ないだろうか?」

「大丈夫だと思いますよ。ランブルセンの仕事をしてるはずなので」

「宮廷魔術師の仕事か。そういえば彼奴は職があったな」

「あはは、無職ではないですよ……」


 ともかく、居場所は分かった。僕はその場で虚ろの腕輪から鍵を取り出し、空間に差し込んだ。


「ありがとう、レハティ。何か伝言はある?」

「あ、じゃあ今夜は外に食べに行きましょうって伝えてもらえると嬉しいです」

「分かった。またね」

「はい、アサギさん。ダニエラさんもお元気で」

「あぁ、レハティもな」


 クシャクシャとダニエラが頭を撫でるとレハティは照れ臭そうに笑う。初めて会った時は大変だったけど、幸せそうで良かった。レハティの幸せを叶えたレイチェルを連れていくのはちょっと忍びないが、念には念を、だ。僕達だけじゃ自動人形1万を相手にするのは厳しいだろう。

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