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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第三百七十一話 鬼の里

 孤島の夜空はとても綺麗だ。町の明かりよりも星の明かりの方が圧倒的に明るい。


 そしてこうして空中散歩を行って気付いたのだが、フスクス、レルクル以外にも町があるようだ。島の外周をなぞるように、知らない町が1つ、フスクス側にある。フスクスからは離れているが、知らない町はどの町よりも大きい。


 フスクスが温泉街兼宿場町だ。金があり、良識ある冒険者の殆どはフスクスに泊まる。金のない冒険者は、冒険者の町レルクルの酒場兼宿屋に泊まる。アレッサにあったようなお店だな。

 そうして用途を考えていくと、あの大きな町は港町だろう。《夜目》を使えば幾つかの船も見える。レヴィも彼処から島を出たんだな。


 きっと港町だから物資も豊富だろう。この島で使う為の食材や道具を仕入れてるはずだ。帰りにチラッと見たいな。


「見えてきたな」


 ダニエラの声に夢想から戻り、進行方向を見ると町のが見えてきた。レルクルの街明かりだ。《夜目》で逆にぼやけて見えるが、彼処は夜も冒険者達が騒いでいるから見つけやすい。


「路地へ行くんだったな」

「うん。其処に鬼さんが待ってるはず」


 ただし、透明の姿でだ。


 町に近付き、《気配遮断》のスキルは発動させる。これでよっぽど勘の良い人間以外には見つかることはない。候補の一人であるレヴィは島を出たし、まぁ、見つからないだろう。


 安心しつつ町の上を駆け、目的地の路地裏へと舞い降りた。


「来たよ。居るんだろう?」

「……」


 小さめの声量で声を掛けると、ダニエラが鋭く辺りを見回す。


「……その女は?」

「僕の仲間だ。大丈夫、危害は加えない」

「分かった」


 返事と同時に真正面に昼間の鬼さんが姿を現した。さっきと同じ姿だ。


 改めて見ると、何処から見ても鬼だ。薄っすらと赤い肌。額から生える二本の角。そして豊かな黒髪は腰まで伸びている。

 手に金棒を持っていれば想像通りの鬼だ。まぁ、僕が読んだ昔話よりは人間寄りだが。


「改めて自己紹介しようか。僕はアサギ。冒険者だ」

「ダニエラだ。此奴、アサギのパートナーだ」


 目で促すと頷いた鬼さんが自己紹介をしてくれた。


「我は鬼族のユウナギだ。よろしく、同志よ」


 ユウナギさん。同志ということで心を許してくれたのか、先程よりも柔らかい口調だ。こっちが素かな。


「よろしく、ユウナギさん」

「敬称はいらない」

「よろしく、ユウナギ」

「うむ」


 言い直すと嬉しそうに頷いてくれた。


 その機嫌が良いうちに、ささっと僕は虚ろの腕輪から鬼族の秘宝、『鬼門独鈷・遠雷天雨』を取り出した。


「ダニエラとは既に話し合って、貴女にこれを返すことにしてる。さぁ、受け取ってくれ」

「……これを再び我等の手にすることだけを目的に、長い時を生きてきた」


 鬼の顔が刻まれた古びた独鈷は、今、ついに鬼族の手に戻った。


 きっと過去の鬼族はこの秘宝が誰かの手に渡らないように、あの遺跡に隠したのだろう。それこそ、鬼族すら手が出せない場所だ。盟友とは言え、一介の鬼が侵入すれば防衛機構が働いて二度と手にすることが出来なくなるだろう。


 ノヴァに対抗する白エルフ族が現れるのをずっと待っていたんだ。ダニエラが生まれて、生きて、僕と出会い、全ての真実を知り、抗う事を決める日までずっと。


 全ての偶然と必然が重なり合い、今こうして、現実となった。鬼族の悲願が達成されたのだ。


「……いや、これからだ。僕達はノヴァを倒す。鬼族にもそれを手伝ってほしい」

「私の意見だけでは決められない。鬼族の里へ来て、其処で族長と話してくれないか?」


 鬼族の里ときたか……。この展開は、まぁ、予想はしていた。もしかしたら行くかもしれないけど、怖いから行きたくないなぁというネガティブな予想だけど。


「分かった。案内してくれ」


 と、ダニエラが二つ返事で応えてしまう。僕と違ってポジティブだからしょうがないね。


「では行こう」

「鬼の里ってのは何処にあるんだ? この島なのは間違いなさそうだけど」

「里は島の中だ。地中の奥深くにある」


 奥深く……。この島は火山島だ。溶岩が怖いな。


「エルフの遺跡の傍にある洞窟から進む」

「あぁ、あの洞窟は鬼の里に続いていたのか……」

「そうだ。ところでアサギよ、貴様、空を飛んできていたな」


 あの洞窟の意味を知り、ふむふむと一人頷いていたら、僕より大きいユウナギが上から聞いてきた。


「厳密には飛んでないけど、どんな場所にも行けるよ」

「よし、連れてけ。此処からは遠いから時間が掛かる」


 ほぅ、そうきたか。僕より大きいし、筋肉質だから重そうだけど時間短縮には賛成だ。ダニエラの魔法も加えれば一緒に行けないこともない。


「分かった。ダニエラ、手伝ってくれ」

「了解」

「ふふ、これで楽が出来る……」

「何か言ったか?」

「いや、なんでも無い」


 ふるふると首を横に振ると納得したようにダニエラが頷く。でも僕はしっかりと聞いていた。


 この鬼、意外とぐうたらだった。



  □   □   □   □



 ダニエラと協力して再び火口の底。古代エルフの遺跡の入り口までやってきた。夜でも溶岩はグツグツと、鬼にはちょうど良さそうな湯加減だ。


「期待の眼差しで見るな。あれは我等でも火傷じゃ済まない」

「ごめん」


 考えてることがバレバレだった。


「この洞窟にある隠し通路の先が我等の里だ。中は見えるか?」

「照明の魔道具使ってもいいか?」

「構わん。我もスキルを使わなくて済む」


 てことはユウナギは《夜目》のスキル持ちか。明かり一つない洞窟を通っていれば発現するのは当然か。


「よし、久しぶりの照明だな」


 僕のコレクションアイテムが火を吹くぜ!


 取り出したのは一見、ボロい筒だ。でもこれ、魔力を流すと懐中電灯になるのだ! 電力じゃないから懐中魔灯だけど。明るさも、良い魔石を使ってるから他のものよりも明るい。


 先頭に立った僕は明かりを付け、元気よく歩き始めた。


「よーし、行くぞ、二人共!」

「ダニエラ、何故アサギはこんなに元気なんだ?」

「好きな物には元気になれる奴なんだ」

「なるほど。里にもそういう変わった奴は居る。理解した」


 僕は変わり者じゃない。

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