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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第三十七話 3匹の巨豚

 スヤスヤとまではいかないがそれなりに眠っていた。そして今夜もダニエラに起こされる。


「アサギ、魔物だ」


 ガバリと起き上がる。瞼をグニグニと擦ってしっかりと目を開けて剣を手に立ち上がる。


「またグラスウルフか?」


 起き抜けだがしっかりと頭を働かせるために深呼吸する。冴えてきた頭を振りながらテントを這い出て使っていたカップに水を入れて一気に飲み干す。ダニエラは戦う準備をする程度の時間を置いて起こしてくれるから本当に助かる。


「いや、それが拙いことにオークだ」

「オークだって?」


 オークは北の森の奥にも住んでいるとガルドから以前聞いたが、その後聞いた話では大多数は南の山の麓にいるらしい。どちらもここからかなり離れているぞ。


「アサギは聞いているか? 前にオーク狩りがあったことを」

「オーク狩り?」


 しばらくガルドとネスを見なかったことがあった。南の山まで行っていたとしたらそれだろうか。実際に聞いた訳じゃないから断定は出来ないが。


「その狩りがあったのが、あの南の山だ」


 月明かりがうっすらと照らす山を指差すダニエラ。


「恐らく、その狩りから逃れ、流れてきた残党だろうな」


 なるほどな。そうでもないとこんな浅い森にオークは出ないか。

 オークは森に住むという。以前、北の森にオークが出ると聞いたがそれはもう奥の奥まで入り込まないと遭遇しないらしい。鬱蒼としたジャングル染みた場所を好むらしい。そして南の山の麓は樹海と呼べるほどに深い森だそうだ。南の、元フォレストウルフの森とは地続きなので行こうと思えば行けたが、まぁベオウルフのテリトリーに踏み込むので危険だが。今はいないけどな。


「こんな場所でオークに出くわすとは運が悪いというかなんというか……」

「気を引き締めてやるぞ、アサギ。オークは一撃一撃が重い。丸太を片手で振り回すような連中だからな」

「其奴は恐ろしいな。勝ち目はあるのか?」


 フッとダニエラが笑う。


「当たらなければどうということはない」


 最近のダニエラは格好良いな……しかし、言う通りだ。僕達はAGIにそれなりの自信がある。僕なんかAGIしか自信ないしな。


「一撃が重い強敵。それに対して僕達は……」

「素早さを活かす」


 そして今は、夜だ。ならば……


「奇襲からの即殺。これが一番可能性のある作戦だな」

「そういうことだ。よし、私は樹上から弓で攻撃する」


 ダニエラが頷き、弓を手にしてみせる。


「僕は地面に隠れて下から奇襲しよう」


 落ち葉も沢山あるし、水魔法で濡らして体に纏えば即席ギリースーツだ。後が大変だが。


「了解だ。よし、奴等は南方向からやってくる。3体だ。分かるな?」


 気配感知を広げる。すると離れた位置で3つの反応があった。頷いてみせるとダニエラも頷き返す。


「魔物と私達の距離は大体700といったところだ。そしてここから200程進んだ所に少し拓けた場所がある。野営をするには狭いが即殺するなら十分な場所だ」


 恐らく、反応があった時点で調べていたんだろう。正におんぶに抱っこだが、今はいつか近い未来に肩を並べられるよう努力するしか無い。


「よし、では作戦開始だ。やるぞ、アサギ」

「まかせろダニエラ。明日には町だ」


 お互いの拳を打ち合い、静かに走り出す。大丈夫、不安要素は何一つない。さっさと終わらせてスピリスに行くぞ。



  □   □   □   □



 樹上にダニエラが消えていくのを見届けてから地面に向けて手を伸ばす。手の平からシャワーのように水が出るようにイメージしながら魔法を使う。ちゃんとイメージ通り、吹き出した水が落ち葉を濡らす。その上に寝転んで何度も往復すればたちまち僕は妖怪・落ち葉人間だ。自身の姿を見て問題無いかを確認したら次は場所取りだ。ここは拓けているが、逆に言えば障害物が無い。身を完全に隠す場所がないのだ。

 しかし、今の僕には関係ない。寝転べばそこが隠れ場所だ。ならば何を気にするかというと、敵の動きだ。南から来るのは分かった。ならば、どこを通るかだ。何もない場所に隠れてやり過ごしては意味がない。隠れて、尚且つ奇襲出来なければならない。なのでしっかりと周りを見る。

 そして見つけた2本の木。その間を通るならばすぐ側の地面に隠れることが出来る。いざ攻撃すればそこだけは狭いので混雑する。あっという間に首を飛ばせるだろう。ではどうやってそこへ誘うか。

 僕は木の枝に干し肉を引っ掛ける。ダメ押しに果物もだ。これは勿論、虚ろの鞄から取り出してきたものだ。こんなこともあろうかと持ってきていて良かったぜ。


 さて、準備は完了だ。そっと地面に剣を置いて落ち葉を掛ける。そっと伏せて柄を握ってふぅ、と息を吐いた。異世界アンブッシュ開始だ。




 時間にして10分くらいだろうか。雲が晴れて差し込んだ月光が何かを照らした。目を凝らすと3つの巨体が歩いてくる。所々に傷があるが塞がっているようで、さながら歴戦の戦士だ。だがその体はうっすら緑色。人間じゃない。魔物だ。一見して肥満体型ではあるがその腕や足は筋骨隆々でスモウレスラーといった感じだ。木を削ったというより、いっそ樹木を削って作ったと言った方がわかりやすい無骨で巨大な棍棒がその手に握られている。

 見間違いようもなく、そして僕のファンタジー知識にも当てはまるその姿、まさしくオークだった。


 ブゥブゥと呼吸音か鳴き声か分からない音を漏らしながらまっすぐ此方へやってくる3匹の巨豚。ゆっくりとその時を待ちながらジッと睨む。辺りをキョロキョロと見ているが何を探しているのだろう。と、そのうちの1匹が此方を見て指をさす。なるほど、探していたものは食料か。

 干し肉と果物に気付いた3匹は不用心にも走り出す。相当疲弊していたと見える。しかし申し訳ないがこの旅はここで終わりだ。

 僕はじわりと魔力を地面に流す。すぐ側にいるオーク達の足元に伸びた所で紺碧の色を流して、氷魔法を発動する。魔法名は無い。敢えて付けるなら『逆さ氷柱』だ。


「ヒギャアアアア!!!!」


 彼らの足の裏を貫いて恐らく血の色であろう汚い青色に染まった鋭利な氷柱が生える。そして間髪なく頭上から矢が飛んできて1匹の脳天に突き刺さる。命を刈り取られたオークが背中から倒れる。足は固定されているので膝だけ立てている。

 僕も立ち上がり勢い良く近寄り目の前のオークの首目掛けて剣を振るう。斜めに振り下ろした剣が肉厚な首を切り裂く。クソ、落とすことが出来なかった。しかし深く切り裂いた傷口から鮮血が噴き出して森を濡らす。この傷なら放って置いても死ぬだろうが油断大敵、止めはしっかりとが戦いのコツだ。

 氷魔法を中空に生成する。形は剣。鋭く薄く固く。出来上がったそれを魔力で振る。狙うは千切れかけの首だ。僕が描いた剣筋そのままに重傷のそこへもう一度一撃を入れる。

 目で確認していると一瞬、背筋を悪寒が走った。何事か確認する余裕も無く低く真っ直ぐ、前に飛び込むと重い音と風圧が僕の頭の上を過ぎる。今正に僕がしゃがんでいた場所にあった頭の位置を棍棒が薙いでいた。あっっぶねぇ……確かに足を逆さ氷柱で貫いていたはずのオークが僕をしっかり見据えていた。足元は血だらけだが氷柱はない。折りやがったな……馬鹿力め。

 すると側でバキン、と音がなった。油断なく見やるとオークが倒れるところだった。足元には首が落ちていて、その側に氷の剣が突き刺さっていた。魔法攻撃は確実にオークを仕留めていた。バキンと鳴った音は倒れるオークの体重に耐えられずに折れた氷柱の音だろう。つまり体重並の力を入れれば折れる程度の強度だった訳だ。まだまだ作りが甘いな。


 突き刺さっていた氷の剣を手に握る。ちょっと冷たいが問題無い。魔力を流せば冷えた感覚は消えた。目の前のオークを見据えて鋼鉄の剣と氷の剣を構える。あとは、此奴だけだ。

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