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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第三百六十九話 秘宝の持ち主

 まったく嬉しくない美女のサンドイッチからやっと解放された。大した時間ではなかったが、とても長かった。

 あれから空を駆けた僕達は一路、レルクルの路地裏へとやってきた。《気配遮断》を併用しながらだから恐らく誰にも見られていないはずだ。


「ふぅ……一応、人目を避けたが……」

「問題ないだろう。早くこの路地から出るとしよう」


 ダニエラの言葉にレヴィと共に頷く。人の気配はないが、どうも誰かの、何かの視線を感じる。《気配感知》にも反応はないのに、だ。


「見られてる気がする。早く行こう」


 二人を急かすように先頭に立ち、路地から出れば其処は冒険者の大群だ。賑やかな町の通りは、ただ賑わっているだけではなく、喧噪と表現した方がいいくらいの騒がしさだ。


 実際、此処は絶え間なく大なり小なり喧嘩が行われている。口喧嘩、殴り合い、果ては剣を抜いて……。まったく野蛮なこと野蛮なこと。僕のような平々凡々な一般冒険者には似つかわしくない世界だ。


 僕達は冒険者ギルドを目指して歩き出した。前回出来なかったステータスカードの更新をするためだ。レヴィはレヴィで別の用事があるみたいで、ギルドでお別れすることになった。


 その為に意を決して人波に突撃した訳だが、押し合い圧し合いでなかなか進めない。夏と冬のイベント会場程ではないが、剣だの鎧だので通りにくいのだ。その辺はちょっと似てるかも。


「ちょ、ダニエラ……待って、レヴィも」

「置いてくぞ」

「ほらアサギ様、こっちです」


 冷たいダニエラに代わってレヴィが手を伸ばしてくれる。


 それを掴もうと手を伸ばしたら、横から誰かに腕を掴まれた。


「は? え?」


 見ても意味が分からない。脳が追いつかない。それは透明な手に掴まれた(・・・・・・・・・)からだ(・・・)。そんな事がありえるのか?


「ちょ、うわっ!?」


 少しでも理解しようと頭を回転させるが、物凄い力で引っ張られ、考えが纏まらない。


「アサギ!?」

「アサギ様!」


 二人の呼び掛けに応えようにも、強制的に人波に引きずり込まれて反応出来ない。縺れる足を何とか制御して転ばないようにするだけで精一杯だった。口を開いても出てくるのは『いてっ!』だの『うぐっ』といった悲鳴だ。


 そうして僕は出てきた路地とは反対側の路地まで引きずり込まれた。


 人目がなくなり、漸く自分を引っ張る何者かの正体が分かると思ったが、依然として犯人は透明なままだ。透明な何かが僕の腕をずっと引っ張っている。


「おい、何だ、やめろって!」


 正直めっちゃ怖い。言葉が通じるのか? それでも言葉を投げかける。


 引っ張る腕の高さから僕と同じくらいの背丈だろう。掴む手の大きさはそれほどではない。女か? でもこの膂力、只者じゃない。


「もういいだろう! 止まれよ!」


 怖さから口調が荒くなるが、その言葉に漸く引っ張るのをやめてくれた。伝わったらしい。スッと掴まれていた手が離れ、解放される。


 その瞬間、頭があるであろう位置に向かって蹴りを放つ。《神狼の脚》を纏った特別製だ。いきなりこんな真似する奴に容赦なんかしない。殺しまではしないが、抗わないと僕の命に関わる。


 だが渾身の蹴りは見事に往なされた。防がれたのではなく、受け流された。蹴りの力の流れをそのまま利用され、僕はあっけなく地に転がされた。


「クソッ!」

「やめろ。危害を加えるつもりはない」

「はぁ!?」


 女の声だ。尻もちをついたまま顔をあげると、其処には一人の女が立っていた。


「貴様の持つ独鈷、それを返せ。それは我等『鬼族』の秘宝だ」


 薄っすらと赤い肌を着崩した赤銅色の着物で覆ったその女の額には、2本の角があった。


「鬼……?」

「あぁ。鬼だ」

「滅んだって聞いたけど……」

「いいや、滅んでない。我等は生きている」


 我等? 他にも居るのだろうか。


「そんなことより、独鈷だ。返せ」

「あ、あぁ……えーっと……ちょっと待ってほしい」

「待てないな」

「仲間と相談をしたい。一応、これは僕達が見つけた拾得物だ。今は僕と仲間の共有財産だ。相談する必要がある」

「その必要はない。それは我等の秘宝。権利は此方にある」


 確かにそうかもしれないが、こんなやばい物をはいそうですかと渡せない。もし、この鬼族が人類の敵だったら? 易々と渡せない理由はそれだけで十分だ。


「そうは言うけど、もしこれを使って人間に危害を加えようなんて考えていたら……」

「我等が打倒するのは人間ではない。盟友であるエルフを騙る簒奪者だ」

「簒奪者……?」


 オウム返しに聞き返すと、目の前の鬼は憤怒の形相でギリギリと歯を食いしばった。あまりの迫力に、思わず一歩下がってしまうくらいだった。


「ノヴァだ……奴だけは、どうしても殺す……!!」

「……ノヴァ? ノヴァだって!?」

「貴様、知っているのか? まさか……ッ」

「違う違う! 僕も、僕達もノヴァを倒そうと動いているんだ!」

「……そうか。あの遺跡から無事に出てこられたというのは、そういうことか」


 敵ではないことが分かって安心した。むしろこっち側だ。様子からしてカルマさんの事も知っているようだ。


「詳しく聞きたいんだが、貴女が引っ張ってしまった所為で仲間とはぐれてしまった。心配もしてるし、今夜、改めて話がしたいんだが良いかな?」

「そうだな……我も強引過ぎた。申し訳ない。同志ということなら独孤は一時的に預けても構わない。では今夜、此処で落ち合うとしよう」


 それだけ言うと鬼の女はその場で溶けるように消えた。驚いているとクスリと笑う声だけが聞こえる。


「これもまた我等の秘宝の一つだ。ではまた夜にな」

「あ、あぁ……」


 今度こそ居なくなったようで、《気配感知》も反応しないし、肌でも感じない。


 あまりにも突然の展開で少し呆けていると、僕が連れ込まれた路地からダニエラとレヴィが大慌てで駆け寄ってきた。


「アサギ、無事か!?」

「アサギ様!」

「あぁ、大丈夫だよ。ちょっと変なのに絡まれただけ」

「そうか……此処は野蛮な町だ。気を付けろよ」


 コツンと軽く肩を叩かれる。苦笑気味だが心配してくれる気持ちが伝わってくるのが嬉しい。


「悪い悪い。さ、ギルドに行こうか」

「あぁ」

「まったく、ヒヤヒヤさせてくれますね。そんな所も母性がくすぐられます」


 怖い怖い。僕のママはダニエラだけで十分だぜ……。

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