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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第三百六十八話 お宝探し、軽くテンションMIN↓

 カルマさんの部屋を出た僕達は一先ず分かれ道まで戻った。


「じゃあまずはこっちの道から見ていこうか」

「了解」


 今回はカルマさんにちゃんと聞いたので不安もない。不安がないので安心して先頭を歩ける。さーって探険探険。


 とは言っても此処は古代エルフの遺跡。今まで何度も見てきた場所と何も変わらない、殺風景な通路が続いているだけだ。探険もクソもない。ただ、やはり古代のオーバーテクノロジー的な構造は見ていて飽きない。古代なのにこの未来感。この世界も現代世界も追いついていない先取りスタイルはまるでSFだ。




 分かれ道を少し進んだところで扉が見えた。壁を走る光のラインが四角く区切られ、扉っぽい形になってるので扉だと思う。


「彼処かな」

「行ってみよう」


 ダニエラの言葉に頷き、小走りで近寄って扉の前に立つ。すると扉は自動で開かれる。


 開かれた扉の奥を覗くと、其処には1つの箱が置いてあった。鑑定眼鏡が入っていたのを思い出す光景だ。


「さっさと開けよう」

「ちょっとは警戒しろよ」

「私はエルフだぞ。古代エルフの罠に引っ掛かる訳がない」


 その自信が何処から湧いてくるのか分からないが、ダニエラが淀みなく箱に触れる。すると床を走るラインが箱へと伸び、綺麗に真一文字の線を描き、カチリと音がして上下に分かれる。


 そして少し浮いた箱の上部を持ち上げると中身が見えるようになった。それをダニエラの後ろから覗き込んだ。


「……これは……短剣か?」

「こんな黒い剣、見たことないな」


 僕の持つ黒帝剣よりも黒い。例えるなら影がそのまま剣の形になったような、光さえ吸い込むような漆黒が2つ、其処には安置されていた。


 僕は虚ろの腕輪から鑑定眼鏡を取り出し、その2つの短剣をジッと見た。


『常闇の三双剣 3枚刃になった闇属性の短剣。2つで一つ。刃は失われた闇鉱石製』


 へいへいへい、とんでもない代物だこれ!


「闇鉱石の短剣だとよ……こんなもんポイッと置くなよ……」

「闇属性か。大昔に失われた属性だな。ということはリンドウ向けか」


 確かに店長は此方の世界に来る際に闇属性というチート属性を手に入れている。まったく羨ましい話である。


 そんな店長に無償でこの激レア武器を献上するなんて……いや、エレスの鍵を入手してもらってるからお礼として使えるな、これ。しかも僕が隠し事して怒ってたお詫びにもなる。一石二鳥か?


「悪い顔してるぞ」

「へっへっへ、これで死なずに済むぜ」


 この世界に来てから一番下衆な顔で短剣を虚ろの腕輪に収納する。いやぁ良いもん手に入れちゃったぜ。



  □   □   □   □



 それを皮切りに、幾つかの部屋でお宝を見つけた。鬼の残した刀剣や武具、魔道具だ。


 防具も色々あったが、僕には装備出来ない物だった。


 何故ならば、それは人間よりも明らかに大きかったからだ。


「鬼ってのはでかい生き物だったんだな」

「そのようだな。これをオークションに出しても観賞用にしかならんな」

「そういう点では貴族相手には売れそうだ」


 防具なのに金の話にしかならないとは……予想外だった。


 しかしそれ以外は優秀な物が多かった。中でもこの剣は彼にはぴったりの物だった。


『両刃・暁光 両刃の大剣。失われた光属性の鉱石を鬼の製法で鍛えられている』


 そう、先程の三双剣と対をなす激レア武器だ。光鉱石まであるとは驚きだ。一応呪われてるのではないかとしっかり鑑定してみたが大丈夫だった。やはり見たことも会ったこともない鬼の物ということで不安もあったが、古代エルフがしっかりと管理していたからか、そういったやばい物はなかった。


「この剣を餌にヤスシを戦力に加えよう」

「勇者が戦列に加わるのは心強いな。こき使おう」


 なんて好き勝手言ってる僕達は全ての部屋の捜索を終えて出口へ向かってる最中だ。実に有意義な時間だった。多少時間は掛かったけれど、レヴィも許してくれるだろう。


 何故なら僕達は捜索の末、鬼族の財宝を見つけた。


『鬼門独鈷・遠雷天雨 振れば雨を降らし地を潤す。投げれば雷となり敵を滅ぼす。鬼族に伝わる秘宝』


 仏具の独鈷によく似たそれは正しく財宝だった。雷魔法に関わる物というのは此奴のことで間違いなさそうだ。これ自体が雷となって……というのは魔法なのかどうか怪しいが、聞いていた魔法以上にとんでもない代物だ。


 これ一つあれば干ばつに怯えることがなくなる。干ばつがなくなれば飢饉もなくなる。食糧事情は安泰である。これをレヴィにあげて、彼女がオークションに出す……ってのはちょっと怖いな。あげようかあげまいか悩む。


「渡した後のことはレヴィが考えることだ。これをそのままオークションに出せば荒れることは彼奴も分かるだろうしな」

「これがあれば世界が救えると言っても過言じゃないしな……ま、約束は守ろう」


 あげるまでが僕達の約束だ。それから先はレヴィの自己責任だ。


「扉が見えてきたな。今回も無事に終わりそうだ」

「おっとそうだ、出る前に準備しないと」


 外は火山ガスと熱気に満ちている。出る前に再びダニエラを抱えないといけない。


「よいしょっと」

「……よし、魔法は問題ない」

「僕も大丈夫だ。行こう」


 準備が終わったので扉を出る。入った時には開きっぱなしだった扉が、僕達が出たところでゆっくりと閉じていく。この扉を再びくぐることがあるかは分からない。次に人が来るのは何年後か……。


 扉が締まりきったのを見届けてから《神狼の脚》でゆっくりと山頂に向かって登っていく。短い間ではあったが、冒険っぽくて楽しかった。これから向かうエレディアエレス法国は寒い場所だそうだから、この熱気とは暫しのお別れだ。まぁ魔法で暑さは感じないのだが。


「あっ、アサギ様ー!」


 上から聞こえてくる声に顔を上げると、山頂の際からレヴィが顔を出して手を降っていた。ずっと待っててくれたのだろうか。危ないから手や顔は出さない方がいいと思う。


「ただいま。遅くなってごめん」

「いえ、逆に早すぎるくらいです。古代の遺跡を探索してきたのですから」


 そう言われるとそうか。未知の遺跡を日帰りで探索してきたのだから早いと言われるのも納得である。


 ダニエラを下ろした僕は魔法と《神狼の脚》を解除し、ぐるぐると肩を回しながら山道を下る。


「いやしかし《神狼の脚》と魔法の並行使用は疲れるなぁ」

「今まであまりやってこなかったからな。疲れるのも仕方ない」


 実はあんまりやらない使い方だったりする。《神狼の脚》を使う時は『氷剣』とか、すでに準備したものを使うが今回はシールドとして常時発動させていたので結構くたびれた。まぁそれでも《器用貧乏》先生のお陰で楽っちゃあ楽なのだが。


 しかし今回の使用で大体の使い方は分かった。これからは何か魔法を発動させながらの戦闘も可能になるだろう。早く戦いたいぜぇ……。


「遺跡はどうでした?」

「上々だな。得る物は多かった」

「では鬼族の秘宝も?」

「……あるにはある」

「?」


 ダニエラの言葉に首を傾げるレヴィ。まぁ、約束だからと渡すことは出来るが、物が物だからちょっと考えてしまうのはしょうがない。


「……という品で、これが世に出回れば、まぁ戦争にはなるだろうな」

「とんでもない物持ってきましたね!?」

「だよなぁ……僕もぶっちゃけやべぇもん見つけちゃったなとは思ってる」

「はぁぁ……こんな物、貰っても管理しきれません。何か別の物とかないんですか?」

「おぉ、沢山あるぞ。アサギ、出してやれ」

「はいよ」


 野営地に戻ってきたので虚ろの腕輪から布を取り出し、その上に見つけた物の中からレヴィに合いそうな物を選んで並べてやる。


 魔道具とか、刀剣類だ。防具はあまりにもデカいので殆ど拾ってこなかった。一部、何か鬼族の伝統的なものを感じる鎧は金銭的に貧相になったら売る用に貰ってきた。


「これも鬼族の剣ですか?」

「そうだな。どれどれ……『小太刀・薄氷(ウスライ) 高純度の氷鉱石を鬼の技術で鍛えた小太刀。刃は触れると凍結する』……だそうだ。レヴィにぴったりじゃないか?」

「細剣ではないのが信条に反するのですが、新しい技術を身に付けるのも必要ですかね」


 そう言って『薄氷(ウスライ)』を鞘から抜くレヴィ。露出した刃は紺碧の色から一瞬で白く凍結し、冷気を纏う。これはうっかり肌に触れれば皮ごとベリベリだな……恐ろしい。


「切ると言うよりは触れさせて相手を凍らせる……という使い方でしょうか。刺せば内側から凍るというのは私好みですね」

「末恐ろしい女だな……」


 刃を見つめてうっとりするレヴィにドン引きするダニエラ。まぁこの女がやべぇ奴なのは皆知ってるよ。


「後は何か持っていきたい物とかあるか?」

「あら、太っ腹ですね?」

「沢山あるからな。持ってきたは良いが使い切れないし」

「そういうとこ、貧乏臭いよな、アサギは」

「うるせぇやい」


 自分でもそう思ってるから改めて言うのはやめろ。


 レヴィが広げた物品を検証して、気に入ったのがあれば聞いてくるので逐一説明してやる。それを数回繰り返し、お気に入りの品を見つけた。


『氷結界の魔道具 氷鉱石を使用した結界の魔道具。近寄る者を凍らせる』

『暗器・氷針 魔力を流すと氷の針を生成する腕輪』

青鷹(ブルーホーク)の羽鎧 青鷹の力を封じた羽を使用した鎧。羽製なので衣服のように軽い』


 ちなみに『青鷹(ブルーホーク)』とは紺碧属性最強の鷹系魔物だそうだ。色を冠する魔物は最強だから、これも実はとんでもない物だ。鎧扱いされる服。見た目は青い羽を使ったノースリーブワンピースだ。でもこれ、きっと素材の味が出て腕とかも防御力高いんだろうな……。


 そんな欲張りセットを手にしたレヴィはほくほく顔だ。まぁ当然だ。これで不満があれば行って取ってこいと言いたくなる。


「ではこの三点をいただきますね」

「あぁ、どれもレヴィ向きだろう。この羽鎧というやつなんかはうってつけじゃないか?」

「私もそう思います。生涯を共にする防具に巡り会えて感激です。ありがとうございます」


 一生涯を共に出来る物と出会える確率は低いだろう。それに出会えたチャンスは手放せない。僕もこの『神狼闘衣(グレイプニル)』とは一生付き合っていくつもりだ。


「さて……じゃあ用も済んだし下山するか」

「見る物もないし、一気に下るか」

「《神狼の脚》……でしたっけ」


 《神速》を使いたいところだが、あれは一人用だ。誰かと一緒の場合は高度な風魔法が必要になるため、今回は《神狼の脚》を使う。


「じゃあダニエラ」

「今回は後ろだ」

「そうか……お前が言うんなら。じゃあレヴィ。今回だけだぞ」

「?」


 首を傾げるレヴィだが、僕の背中に抱き着いたダニエラを見て、僕が両腕を挙げたのを見て、理解したようで顔を真っ赤にする。


 僕としては不本意ではあるが、ダニエラがお姫様抱っこを譲って背中に張り付いたので前はレヴィとなった。僕自身は身持ち硬いつもりでいるが、ダニエラは結構ライバル女子に甘いところがあるんだよな……僕としては僕を独り占めして欲しいが、ダニエラがそういうスタンスなら、それに従うまでだ。


「ほら、早く」

「あっ、あっ、は、はいっ!」


 氷のように冷たいヤンデレバトルジャンキーは少女のように頬を赤らめながら僕の腕に飛び込んでくる。ぶっちゃけ可愛い。やばい要素に目を瞑ればラブコメ書けるんじゃないかってくらいだ。いや、やばい要素もそれはそれでスパイスか……。


「早く行け。これ以上ダラダラするなら背中から刺すぞ」

「寛容なんか狭量なんかどっちかにしろ!!」

「アサギ様アサギ様アサギ様アサギ様アサギ様アサギ様アサギ様アサギ様……」

「怖ぇよぉ……前と後ろで怖すぎる……!!」


 前後で騒がしい中、《神狼の脚》を発動させる。精神的な揺さぶりでスキルの制御が難しい。しかし人命が関わってくるので必死に制御する。まったく、二度とこんなことはしたくない。


 そんな逸る気持ちも必死に抑え、僕達は一路、レルクルを目指した。

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