表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

367/403

第三百六十七話 第二番施設キモン

 開かれた扉を抜けると、其処は見慣れた古代エルフの遺跡が続いていた。入り口こそ大きかったが、空間は徐々に狭まり、3人が横並びに歩いても窮屈しない程度の幅に収まった。


 そんな廊下をダニエラと二人歩く。扉から先は何かの魔法が発動しているのか、煙の侵入が止められていたのでお姫様抱っこは終了した。

 

 見慣れた空間とは言え、此処は古代エルフの遺跡。警戒はしている。ダニエラは広範囲に《気配感知》を広げ。僕は先頭で剣の柄を握りながら進む。


 剣を抜かないのは古代エルフに対して敵対していると思われたくないからだ。いつでも抜けるようにはしているが、手を離せば戦う意思がないことも証明出来る。


 《ノヴァ》がネットワークから切り離された存在であっても、繋ぎ直すことくらい簡単だと踏んでいる。だから、カルマさんが味方だと安心していても、実は操られている……なんて展開だってありうるだろう。


 だから呑気にお散歩気分で進むことは出来ない。


「其処に扉があるな……」

「覗いてみるか? 《気配感知》には何の反応もないが」


 自動人形や鑑定眼鏡のこともあるし、覗くだけ覗いてみるのも良いかもしれない。


「でも下手に扉を開いて警報とか鳴ったら嫌だな」

「……それもそうか」


 と、僕はダニエラの言葉を聞いて取っ手に掛けた手を引っ込めた。


 その後は幾つか扉を見つけたが、スルーして奥へと向かった。僕の好奇心が開けろ開けろと煽ってきたので我慢するのが大変だったが、暫く進むと道が二手に別れた。


「今までの遺跡では分かれ道というのは無かったが……」

「レゼレントリブルでは沢山あったけど、あれは防衛機構が作動してた状態だったしなぁ」

「では今回も作動しているということか?」

「いや……流石にこんな場所に誰かが来てるとは思えないけど」


 あの扉だって沢山埃が積もっていた。暫く開いてない証拠だ。


「じゃあこれはただ単に分かれ道になってるだけか」

「そうみたいだな。さて、どっちへ行こうか……」


 右か左か。どっちも特徴のない道だ。看板もなければ目印もない。《気配感知》を広げてみるが、やはり反応は何もない。まったく判断材料がない分かれ道である。


「右か左か……どっちだと思う? アサギ」

「……今考えていることの逆が正解。こっちの道にしよう。僕の勘がこっちだって言ってる」

「勘に従っていいのか不安だが……確かに判断基準がないからこっちに行くしかない、か」


 間違えたのなら反対側に行けばいいだけだ。戻ってこられたらの話だが。


 ダニエラも頷いてくれたので僕達は右の道を進むことにした。相も変わらず景色に変わりはないが、何か目的地に近付いている気がするのはやはり僕の勘だろうか。どうも右腕が引っ張られてるような気がする。気の所為とは思うが、多分僕の勘がそう感じさせてるのだろう。勘だけに。




 暫く進むと、やはり此方の道が正解だったと確信出来た。何故なら、僕とダニエラの前には大きな扉があるからだ。きっとこの先にカルマさんが居る。


「見たことがある扉だ。触れれば勝手に開く扉だな」

「ダニエラの苦手なやつだな」

「苦手ではない。慣れてないだけだ」


 横目で僕を睨みながらダニエラが扉に手を触れると、パシュッと空気が抜けるような音がして扉が開いた。ソっとダニエラの後ろから覗き込み、ガッツポーズ(小)をした。


 何故なら部屋の中心に正方形のコンソールが見えたからだ。遺跡の壁や床を走る光のラインはあのコンソールへと向かっている。


「いつも通り私が先に入る。一応な」

「了解」


 カルマネットワークに登録されていると分かってはいるが、一応、な。


 ジッと奥を見据えたダニエラが一歩踏み出し、部屋に入るとラインの光がコンソールへと収束していく。やがてそれは眩い光となり、空間を埋め尽くした。


 そしてその光の中から、声が響いた。


『ようこそ、此処は第二番施設キモンです。お待ちしておりました。ダニエラ様、アサギ様』


 声と共に光が収まっていくので目を開くと、其処には白金髪の女性がコンソールの上に浮いていた。顔と姿は違うが、彼女もカルマさんだ。しかしいつもであれば多少の壁を感じる対応から始まっていたが、今回は待っていてくれたようだ。


「待っていた、とは?」

『言葉通りでございます。第三番施設ウルベサルトスで鍵を手に入れたと報告が入っています。次に向かうはこのキモンとも。であれば私はただジッと、貴女方の事を待つだけです。この《鍵》を準備しながら』


 そう言うとカルマさんの下にあるコンソールの側面が四角く光り、蓋が開き、其処から僕達が求める《鍵》が現れた。


「貰ってもいいか?」

『えぇ、勿論。どうかノヴァを……』

「任せてくれ。必ず計画は阻止してみせる」


 そう言ってダニエラは両剣水晶の鍵を手にする。ウルベサルトスの鍵は薄っすらと青かったが、この鍵は薄っすらと赤かった。


「何か情報はないのか?」

『報告することが一つあります』


 僕達に報告とは……。自然と身構えてしまう。


『北の第一番施設エレスへ侵入者が現れました』

「なっ……」

「それは、誰か分かりますか?」


 まさかの事に言葉を失うダニエラに代わり、カルマさんに尋ねた。カルマさんは僕に視線を合わせ、一つ頷くとゆっくりと微笑んだ。その表情からは答えが読み取れず、首を傾げた。


『侵入されたのはリンドウ=キヅガワとレモンフロスト=グラシルフです』

「はぁ!?」


 全く予想していなかったからか、自分でも驚くくらい素っ頓狂な声を出してしまった。なんで店長とレモンがエレスに?

 確か、ヴェルフロストを出る前に話した時は、近々レモンと一緒に旅に出るとは言っていたが……。


『エレスからの報告では、最初は数百年ぶりの侵入者で防衛機構を構築したそうですが、照合してみたところ、レゼレントリブルへ入り、アサギ様やダニエラ様と共に居た人間だったということで奥まで案内したそうです』

「確かにリンドウとレモンはレゼレントリブルへ共に入ったが……」

『事情を聞いたところ、アサギ様とダニエラ様の力になりたくて探索していて、たまたま見つけたそうです。リンドウ様はアサギ様と同じく、異世界から来られた方。人となりはレゼレントリブルで確認出来ていましたので、情報を開示致しました』

「ということは、店長は僕とダニエラがノヴァを停止させようとしてることに?」

『はい、怒っておられたようです』

「お、おこ……えっ?」


 店長に怒鳴られるのはバイトの時以来だ。あの時を思い出し、ついつい身を護るように自分の体をギュッと抱き締めた。それを見てクスクスとカルマさんは口元を隠しながら上品に笑った。


『保存された音声記録を再生します』

「嫌だ、聞きたくない!」

『《あのクソ馬鹿たれ!! こんな大事なことをこの私に隠していたとは……!! 良い度胸だ、次に会った時は目に物見せてやる!!!》』

「ひ、ひぃぃ……っ」


 静かな空間に店長の怒声が響き、反響し、僕の精神と三半規管を揺さぶった。


『とのことです』

「アサギ……ドンマイ」

「……」


 お前そういうこと何処で覚えてくるんだ……。


 げんなりとした僕は力が抜けてその場に腰を下ろした。


『偶然とは言え、第一番施設へとリンドウ様が来られたことで開かれた会議で、私達はリンドウ様へ鍵を託すことを決定しました。最後の鍵はリンドウ様が所持してます』

「そうか……リンドウが戦力になるのは心強いが……」

「駄目って言ってもついてくるだろうな……だから僕は言わなかったんだ」


 店長は元の世界に帰ることが出来ないと知った時、とても落胆していた。現時点では帰る方法がないと。そんな店長に言えなかった。知らせたくなかった。ノヴァを停止させるなんて。


 だって無理だと言われても可能性を感じてしまうだろう?


 異世界から呼び寄せたのなら、もしかしたら、万が一、億が一、逆のことも可能なんじゃないかって。ノヴァを逆に制御し、操作してやればもしかしたら帰れるかも、なんて。


 だから僕はその可能性を黙って誰もに言わず、ノヴァを停止させることに決めた。


 《神界接続(リンカネーション)》を許したくなかった。その所為で此方へ呼び出されてしまう人達が可哀想だった。何も知らない世界へ、拉致される恐怖。帰れないと知った時の絶望。


 あの時の松本君と店長の姿を思い出すだけで、ノヴァを制御して……なんて僕には考えられなかった。


「出来れば、知らずにいてほしかったな」

『……申し訳ありません。私達にはアサギ様の意見を仰ぐことが出来ませんでした』

「いや……カルマさんを責めてる訳じゃないよ。多分、僕が弱かったのがいけなかったんだ」


 事実を知って怒った店長の事を考える。あの性格だ。考えてみれば分かりやすい。


 きっともう、店長はちゃんとこの世界で生きる事を心の底から決めたんだと思う。あのレゼレントリブルでは諦めたように笑っていたが、きっと、何か生きる目標を見つけられたんだろう。そう思いたい。


 だって店長は店長だ。僕の上司が僕より弱い訳がない。そう思えない僕の弱さが店長に隠し事をしてしまったんだ。


「よし、店長も戦力になってくれるんなら怖いもんなしだ!」

「……だな。リンドウなら安心して背中を預けられる」

「僕は!?」

「お前はすぐ何処かへ行ってしまうだろう。当てにならん」

「酷い!!」


 僕は遊撃に真価を発揮するタイプなんだからその場に留まって戦闘なんて出来ないのに、此奴……!!


「まぁ、リンドウが居ればアサギは安心して走り回れるだろう?」

「お、おぅ……まぁ、そうだな……うん」

「そういうこと、だ!」

「いっって!!」


 バッシィン! と思い切り背中を叩かれ、前のめりになる。背中がアホほどヒリヒリするが、気合いも入ったみたいだ。本当に怖いもんなしって感じだ。


『解決したようですね』

「あぁ、鍵を渡してくれてありがとう。心強い味方が増えたよ」

『それは良かったです。では最後に新たなノヴァの情報を開示致します』

「!」


 さっきの報告とはまた別っぽいな……。情報の開示と報告は別物のようだ。


 僕とダニエラはカルマさんの言葉を黙って待った。


『第二百四番施設エルミナータが機能停止と引き換えにノヴァへ接続し、偵察をしました。ノヴァは1000を越える自動人形部隊を戦力として準備しているとのことです』

「1000!? いや、それより機能停止って……それは、死ぬってことか……?」

『はい。現在、エルミナータは機能を停止しています。ノヴァへと接続した為、反乱分子として一時的に繋がれネットワークを介して破滅因子を送り込まれました。ですが、これは予想の範疇の事です。なので機能停止と引き換え、と言いました』

「それは……僕達にノヴァの情報を伝える為だけに、自殺したってことか?」

『はい、そうなります』


 ダン!! と強く床を叩いていた。まったくの無意識だった。


「頼むから……今後はそういう事はやめてくれないかな。たかが情報の為に死ぬなんて許容出来ない」

『ですが情報は重要な武器です。それがあるとないとでは……』

「それでもだ! 誰かが死ななければいけないのであれば、僕達は情報なんて必要ない。どんな地獄が待ってようと、そんな真似はしてほしくない」


 会ったこともないし、何処に存在してるのかも分からないエルミナータのカルマさんは、見ず知らずの僕達の為に命を落とした。そんなの、あって良いはずがなかった。


「『私達は魔道具です。与えられた機能を遂行するだけの道具です』なんて古い言い回しなんか聞かないからな。僕達は貴女方の死を望んでいない」

「あぁ、今の時代を生きる私にどれだけの権限があるかは分からないが、この件に関わる白エルフを代表してお願いする。命を粗末にしないで欲しい」

『畏まりました。今後は一切行いません』


 ゆっくりとお辞儀をしたカルマさんを見てほぅ、と息を吐いた。分かってくれたようで安心した。


「あぁ、そうしてくれ。……でも情報はありがとう。エルミナータは生き返らないのかな」

『修復には実際に第二百四番施設へ行き、回路を再構築して人格プログラムをインストールする必要があります』

「修復か……全部終わったら直しに行かないとな」

「だな……よし、じゃあまずは店長と合流して鍵を手に入れないとな!」


 膝を叩いて立ち上がる。まだ手にはしてないが、鍵は全部揃った。あとは霧ヶ丘地下のノヴァを叩くだけだ!


「その前に聞きたいだが、此処に来るまでに幾つか部屋があった。彼処には今後の戦いに役立つ物はあるのか」


 おっと忘れてた。お宝!


『はい、幾つかの武器や防具、魔道具が安置されています。お二人の力になれるのであれば喜んで提供します』

「それは助かる。ありがとう』

『いえ、これくらいしかお役に立てませんので』


 これくらいだなんてとんでもない。助けられっぱなしだ。尊い犠牲はあったが、重要な情報ももらえた。自動人形1000体なんて想像もつかないが……。


『ではこれにて失礼します。貴方がたの未来が幸せであることを祈っています』


 そう言うと微笑んだカルマさんはふわりと輝き、コンソールの中へと消えていった。


 祈られてはしょうがない。頑張るしかないな。


「よし、まずは回収出来る物は全部回収していこう」

「切り替え早いね……はぁ、行くとするか」


 レヴィも待たせてるし、とっとと回収して島を出るとしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ