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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第三百六十一話 鬼の巣

「しかし……キモンとはのう」

「何か知ってるのか?」


 レハティの料理が出来る間、僕とダニエラとレイチェルは話の続きをしていた。その中で僕が話した次の目的地、『第二施設キモン』の話題にレイチェルが何か知ってる風に食いついた。


「この島は大昔、鬼が住んでいたという伝説があるんじゃ」

「鬼?」


 ダニエラが首を傾げた。


「確か鬼族というのが最果ての島に住んでいたと聞いたが……此処がそうなのか?」


 フィラルドだったかな……ダニエラと僕の髪色の話になった時に話題にあがった気がする。僕と同じ黒い髪の種族と聞いていたけど……まだ生きてるのかな。


「いや、残念ながら確認はされておらん。まぁでもエルフのような長命種というし、もしかしたら生き残りが……まぁ、今はどうでもよい」


 グイ、とコップを傾けたレイチェルの言葉を待つ。


「この島の奥には確かに鬼族が住んでいた形跡があるんじゃ。つまり家とか、そういった類の残骸がの。そして噂では其処に鬼族の宝が隠されてるらしい」

「宝か……なら、冒険者が黙っていないだろう」

「まさにその通り。この島までわざわざやってくる物好きは後を絶たん。その宝は、金銀財宝だったり、最強の武具だったりと色んな説があるが、ワシには皆目見当もつかん」


 鬼族……鬼といえばやはり金棒のイメージが強い。でもまぁ中には鬼の武者も居たかもしれないし、ひょっとしたら剣もあるかもしれないな。


「そうした廃墟が多い島の奥なら、お前達が探している施設もあるかもしれん。なんたって、『キモン』なのだから」

「……あ、なるほど」


 キモンは『鬼門』とも書ける。鬼族の暮らした場所にある施設かもしれないと言われると、ある程度の納得は出来る。


「しかし分からないのが、何で鬼族の暮らした場所に、古代エルフの施設があるんだ?」


 正確にはまだあるかどうかも分からないが。


「それは知らんな。鬼族が居なくなった後に古代エルフが建てたのかもしれん。魔素的に立地が良い場所なのかもな」


 確かに施設を作るのに魔素的立地は重要だ。カルマさん達が使うカルマネットワークは龍脈を基盤に構築されているからな。この島が実は結構龍脈に近い場所なのかもしれない。それは調べてみないと分からないな……。


「じゃあとりあえず今後の動きとしてはその、鬼の集落を探索してみるか」

「ちなみにその場所は『鬼の巣』と呼ばれておる」

「鬼の巣、ね……」


 キモン探しは鬼の巣を探索することで可能のようで安心した。何のヒントも当てもなく探索するところだったから助かったぜ。


「ご飯、出来ましたよ!」


 その後はレハティが用意してくれたご飯を皆で食べた。レイチェルが好きそうな和風の料理だった。勿論、味は最高だった。



   □   □   □   □



 さて、腹が膨れた僕達は一旦レイチェル達と別れて冒険者ギルドへとやってきた。これから色々と活動する上では顔を出しておかないと何かあった時に面倒だからだ。


 ギルドは温泉街にはなく、徒歩で1時間程離れた場所にある別の町に向かう必要があった。


 其処は『青屋根冒険街 レルクル』。フスクスとは対照的な青い屋根が特徴の町だ。此処は冒険者が主に利用する町となっている。


 レイチェルに聞いたところによると、この島の鬼の財宝の噂が流れ始め、沢山の冒険者が島にやって来た時に色々と問題が起こった為に、隔離の意味も込めて新たに町を一つ用意したらしい。


「何でこうなったかと言うとじゃな、冒険者が絡んだ相手が貴族じゃったんよ。まぁ、貴族が多い町じゃし、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるってやつじゃな。それで揉めに揉めた結果、複数の貴族が出資して町一つを作り上げたんじゃよ」


 ってのが経緯だ。そんな恐ろしい冒険者が居るとは、まったく恐ろしい話である。怖くてちびりそうだ。冒険者に会ったら気を付けようと心に決めながら、僕達はレルクルの町へと入っていった。



  □   □   □   □



 町の様子としては……あー……残念ながら野蛮という言葉がぴったりだった。街並みはフスクスと似た造りで、しかもあの赤屋根温泉街とは対照的な青色が美しいのだが、それは屋根だけ。屋根からしたは何の汚れなのか、黒っぽくなっていて、町全体が青黒かった。


「貴族も町を作って冒険者を収容した後は手を出さなかったようだな」

「収容って言うなよ……」


 囚人か、僕達は。しかしまぁ、その言葉がぴったりに思えるくらいには荒れていた。


「てめぇふざけんな!」

「オラァ!!」


 今も酒瓶で頭を叩いている。何でもない街角で、だ。見た感じでは人が死んでないのが幸いか。血溜まりに人が沈んでいる様子はない。


 こんな町ではあるが、ギルドは存在しているはずだ。まずはそれを探し当てるところから始めたいのだが、無事に通り抜けられる保証なんて何処にもないのが現状だ。さて、どうしたものか……。


「おや、其処に居るのはもしかしてアサギさんとダニエラさんでは?」


 この荒れ果てた町に似つかわしくない透き通った声。ダニエラと一緒に振り返ると、其処には白いレイピアを腰に下げた綺麗な女性が立っていた。


「お前は確か、『白露』のレヴィ=バディだったか」

「えぇ、『白風』のダニエラさん。帝剣武闘会以来ですね」

「お久しぶりです。レヴィさん」

「あらあら、そんな他人行儀な挨拶は嫌ですよ。『銀翆』のアサギさん」


 全くもってわざとらしい挨拶だ。お陰様で先程酒瓶で殴りあっていた二人はこっちをガン見だし、他の連中も驚いたような顔で僕達を見ていた。


「牽制が上手くいったようで安心しました」

「下手だけどな」

「いえ、私も以前絡まれましたもので」


 その時は半殺しにしたのですがね、と小声で付け加えるレヴィ。相変わらず怖い女だ。


 『白露』レヴィ=バディは二つ名持ちのAランク冒険者だ。彼女の名の由来は『落ちる雫すら突き抜く』という細剣技術が元だ。加えて上位の氷魔法使いというのもあって、『白露』という名が付いた。

 その実力は帝剣武闘会で見ている。ダニエラとほぼ互角の腕前だった。いやーあの試合は物凄かった。バトルジャンキーのレヴィも冷静派のダニエラもお互い牙を剥くような迫力のある試合だった。


 そんなレヴィが何故この島に居るのだろう。


「私も鬼族の財宝に興味がありまして……なんでも雷魔法に関わる物だそうですよ」

「雷魔法かぁ」


 僕もレヴィも氷魔法の使い手だ。だから雷魔法関係は特に必要ないと思うが……ダニエラも使わないし。


「帝都のオークションに出そうかなと」

「あー……」


 悪そうな顔をしたレヴィの言葉に納得してしまう。使えない物で高価なものなら売ればいい。正にその通りだと思ってしまった。


「きっと皆さん、馬鹿みたいにお金を出してくれますよね、ふふ」

「悪い奴だな」

「でも一理あるよなー」


 使えない物を、使える人が使う。僕達はお金を貰える。ウィンウィンやね。


「まぁ私達は財宝が目的ではないけどな」

「あら、そうなのですか?」

「うん、鬼の巣には行くけどね」


 そうなのですか、とコテンと首を傾げるレヴィ。こうして見ている分には可愛らしい人なんだけどな。でもバトルジャンキーだしな。色々気を付けておかないと怖い。


「でしたらお邪魔してもいけませんね。あ、財宝を見つけた際は譲ってくださいね」

「ちゃっかりしてんな……了解」

「見つけられたら、な」

「えぇ、期待せずに待っていますね。それでは」


 ゆっくりとお辞儀をしてレヴィは山の方へと歩いていった。冒険者の流れを見るに、鬼の巣は山方面にあるようだ。見れば町の通りが山に伸びていて、門のような場所から出ていっていた。彼処が出入り口のようだ。ちなみに門は青い煉瓦製だった。


 レヴィを見送った後、僕とダニエラは一際大きい青い屋根を目指した。男臭い人並みを掻き分けながら町並みを眺めていると、まぁまぁ、汚い。何かよく分からんゴミとかが端っこに落ちてたり積み上げられていたり……。


「誰も掃除しないんだろうな」

「してる奴も居ると思うけど……」


 しかしそれでも目に余るレベルで汚い町だった。服装の乱れは心の乱れと言うが、町の乱れも心の乱れに繋がるようで、此処の冒険者は荒っぽい。見た限りでは酒場が多いようだが、そこら中から喧騒が聞こえてくる。やれ俺の女を奪っただとか、分前がおかしいだとか、そういうものだ。


 これじゃあレヴィも絡まれる訳だと納得してしまう。


 そうなると僕の隣に立つ一際美人のダニエラも他人事ではなかった。


「よぉ姉ちゃん、一緒に飲もうぜ」


 なんて声が掛かる。僕が隣に居るというのに、だ。勿論ダニエラは聞こえない振りをするが、冒険者にしてみれば無視された事になるので、おまけに酒も入っているから、当然面倒臭い事になった。


「おい姉ちゃん、無視たぁいい度胸だなぁおい!」

「はぁ……」


 ドン! と木製のジョッキをテーブルに叩き付けて怒りを顕にするスキンヘッドの男。ダニエラは面倒臭いと言わんばかりの顔で小さく溜息を吐く。


「行こうぜ、邪魔臭いし」

「だな……」

「おいおいそんなヒョロガキを相手にするよりこっち来いよ!」


 カチンとくるが僕は大人なので無視だ。ダニエラも大人なので無視だ。


「けっ、言い返せないとは腰抜けだな!」


 それを良いように取ったのか、スキンヘッドと取り巻き達はゲラゲラと笑う。こんな事は今まで何度もあったし、その度に蹴り上げたり凍らせたりしてきたけど、一応、先を急ぐ身だ。ダニエラもそれが分かってるのか、横目で見ると涼しい顔で無視を決め込んでいた。


「ったく、これだから最近の新人くん共は……おぅわぁああ!!!」


 よーし安心したしギルド目指そうと思った途端、騒音と共に野太い悲鳴が聞こえた。慌てて振り向くと、男達の居たテーブルや椅子やらがひっくり返っている。勿論、テーブルの上の酒やツマミも全部ひっくり返って、酷いことになっている。海藻サラダみたいなのがスキンヘッドの頭に乗っかり、いい感じにパーマがかかっていた。


「おいダニエラ……」

「私は何もしてないぞ」

「え? てっきり風魔法とか使ったもんだと……」

「相手するのも面倒臭いしな。しかし誰がやったんだろうか」


 騒然とした現場では犯人探しのように皆がキョロキョロと辺りを見回している。けれど、それをやったような人間は何処にも居なかったし、僕達に接触してもこなかった。《気配感知》を広げてみても、人が多すぎてまったく分からない。


 結局、テーブルの立て付けが悪かったんじゃねーかという他所の冒険者の言葉に納得するしかなかったみたいで、パーマヘッドと取り巻き達は渋々他の台へと移動していた。


 僕達も関わっていた手前、疑われるのも嫌で犯人を探す程度の動きはしたが、徒労に終わった。



  □   □   □   □



 15分くらい足止めを食らってしまったが、目的地には辿り着けた。大きな青い屋根のギルドにはしっかりと『レルクル支部』の看板が下がっていた。


 中はそれなりに広いが、此処も町と同じくごった返していた。何処を見ても冒険者、冒険者、冒険者。まぁ冒険者ギルドに来てそれを言うのはおかしい話だが。


 いつもと同じく、『クエスト板』を覗く。多分此処に鬼の巣に入る権利的なのが貼ってあるかと思ったが……見当たらない。


「どうやったら入れるんだろう?」

「んー……聞いてみよう」

「それが一番か」


 という事で『質問・その他』のカウンターの前に立つ。幸いにも列は出来ていない。


「すみません、鬼の巣に行きたいのですが」

「鬼の巣ですね。では此処を出て正面の道を真っ直ぐ進んでもらうと右手に青い門が見えてきますので、其処を通ってもらって……」

「あー、えっと、入るのに許可とかいらないんですかね?」


 教えてもらえたのは道順だった。戻ってさっきの門に入ればいいのは分かるが、冒険者が入る場所だ。当然、ギルドが管理しているものだと思って此処へやってきた訳だが……ギルド員さんは首を傾げている。


「勝手に入ってもらって構いませんよ?」

「え? 記録とか取ってないんですか?」

「はい、取ってません。死んだらそれまでですし」

「あー……」


 割とシビアというか、冷淡というか……勝手に行っていいよ。死んでも知らんけど。みたいなスタンスなのが此処、レルクル支部のようだ。


「分かりました。ありがとうございます」

「いえいえ。お気を付けて」


 丁寧ではあるがクールな対応のギルド員さんだった。しかしなるほど、フリーパスだったか。無駄足になっちゃったな……。


「ついでだしステータスカードの更新でもしておくか?」

「……あぁ、瑠璃水龍(ブルードラゴン)倒したしレベル上がってるかもだな」


 と、ポツリと呟くと周りの音が消えた。


「……ん?」


 急に耳が寂しくなって周囲を見渡すと、全員が僕達を見ていた。もしかして聞こえてた? 耳良すぎでは?


「……瑠璃水龍っつったか……?」

「そう聞こえたぜ……」

「冗談だろ」

「伝説上の生き物だぜ?」


 皆がヒソヒソ話しながらこっちを見ている。割と近い場所の声は聞こえてくるが、奥の方は此方を見ようと背伸びしたら体を反らしたりして、何だか気恥ずかしい。


「行こう、ダニエラ」

「あっ、おい、更新……」


 なんかやっちゃった系主人公みたいな空気に耐えられなかった僕はすぐにギルドを出た。無理、恥ずかしすぎて死ぬ。割と今までやっちゃってこなかったから、ああいうのは駄目だ。

 やはり僕には主人公という立ち位置は不釣り合いだ。主人公補正も無ければ資格もない。モブの如き生き様がお似合いなのである。


 さぁ、鬼の巣だ鬼の巣。


 僕はダニエラの手を引っ張り、逃げ込むように門を潜った。

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