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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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351/403

第三百五十一話 一匹狼×3

本日、『異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする 3』の発売されました!

ありがとうございます。こうして続刊させていただけたのも読んでくださり、買ってくださった皆様のお陰です。

今回もまた紙媒体、電子媒体の同時出版となっておりますので、お好みの媒体を買っていただけると幸いです。

1巻2巻も絶賛発売中です。この機会に買い揃えてみてはどうでしょうか₍₍(ง˘ω˘)ว⁾⁾


更に更に、コミカライズも決定いたしました!

現在、鋭意製作中ですので、暫くお待ち下さい。

今後とも、どうぞよろしくお願いします。





では、本編です。

 《神狼の脚》で空を踏みながら眼下を見る。結構な高さに居るが、空気は不思議と薄くない。この沢山ある森が酸素を作ってるからだろうか。でも四方を山に囲まれたこの場所は日が差さないように思うけど……。


「……ん? あれは……」


 ダニエラが向かった湖が見える。その周辺には何もない。てっきり、キャスパリーグのような移動式家屋が広がっているものだと思っていたが……。なら、アーサーは何処に居るんだろう?


 段々と湖が近くなり、ダニエラの姿を視認出来たので速度を上げる。しかし何処か様子が変だ。武器を構えてジッとしている。


「ダニエラ!」

「気を付けろ、アサギ! 魔物だ!」


 すぐに槍を構えてダニエラの隣に立つ。すぐに周囲に《気配感知》を広げるが、何の反応もない。


「感覚を研ぎ澄ませろ。私でもほんの少ししか気配を感じない。《気配遮断》持ちだ」

「蛇以外にも居たのか……」

「気を付けろ、油断するな」


 ダニエラの言葉に頷きながら、《気配感知》を広げる。しかし何処にも気配は感じない。ならばと視界に映る森へと一点集中で感知エリアを絞ると、ほんの少しだけ、魔物の反応があった。強いか弱いかも、種族すら分からない。でも魔物であることだけは確か。そんな微細な反応。


「視線を感じて森へと《気配感知》を飛ばしたら少しだけ反応があった。今もジッと、私達を見ているぞ」

「クソ、奥は暗くて見えないな……」


 目を細めてみても奥までは見えない。僕とダニエラの《気配感知》でも微細な反応しか拾えない、高レベルな《気配遮断》を持つ魔物。油断なんて出来るはずがなかった。


 そんな僕達の耳に、低く、唸るような声が聞こえた。


「何だ、何か聞こえたぞ」

「……駄目だ、聞き取れない。怪我した奴の呻き声みたいな……」

「シッ、また聞こえる……!」


 ダニエラが僕の顔の前に手を伸ばすので口を閉じ、耳を澄まして息も止める。


「…………匂う……匂うぞ……同族の匂い……」

「は……?」


 確かに声は森から聞こえたが、言葉の意味が分からない。ていうか、話せるのなら相手は……。


「弟の、匂い……!!」

「来るぞ!」


 一瞬、思考に意識が向いてしまった。ハッとして森を見ると、大きな体躯と3つ頭を持つ狼が森から飛び出してきた。


「貴様らかああああああああ!!!」


 鋭い爪を振り下ろしてくるのをバックステップで躱す。まるで切り取られたかのように地面が抉れ、土埃が舞い上がる。


「何の事だ! お前の同族なぞ知らん!」

「たわけェ女! その男からこれでもかと匂う! これが何の言い訳になる!?」


 やっぱり僕か。しかしどう説明したらいいものか……絶対に誤解しか生まない自身がある。


 此奴、どう見ても《ケルベロス》だ。そして此奴の言う『弟の匂い』。十中八九、皇帝から貰ったあの剣、『双頭の狼(オルトロス)』の事だろう。それを出したら絶対に話が拗れる。しかし、話さないでいれば何方かが死ぬまで戦いは終わらないだろう。どうしたものか……。


「死ィィねェェェェ!!」

「くっ……!」


 下段に構えていた槍を回転させ、上から振り下ろされてきた爪を石突で弾く。しかし防いでいても戦いは終わらない。


 此処は、覚悟を決めるしかない……。


「ダニエラ、此処は任せてくれ」

「分かった!」


 大きくバックステップし、ダニエラが後方へと下がってくれたので僕は安心して前を向いて声を張り上げた。


「お前に話がある!」

「言い訳なら聞かん!」

「言い訳じゃない、説明だ!」


 手にしていた槍を地面に突き立て、武器を持たないという意思を伝える為に腕を組む。此奴が牙を剥いても、僕は武器に手は伸ばさない。


「アサギ!」


 叫ぶダニエラに視線で落ち着くように伝える。渋々、といった顔だ。


「それが最後の言葉か?」

「お前の弟に悲劇が起きたのは何時の話だ?」

「何……?」


 突然の問いに3つの首を傾げる魔物。


「何時の話だって聞いてるんだ」

「遥か昔だ! 人間共に……殺された!!」

「僕がそんな前から生きてるように見えるか?」

「む……」


 皇帝は『遥か昔、南の森に……』と言っていた。であれば、此奴の弟、オルトロスを殺したのは僕じゃない。頭に血が上っていなければ気付くような話ではあるが……致し方ないとも言える。それに、長く生きる種族は時々、他の生き物と時間の感覚が異なる。ダニエラみたいに。ダニエラみたいに。


「しかし、現にお前からは弟の匂いが……」

「それに関しては言い訳はしない。お前の弟を、僕は知っている」

「何……?」


 腕を解き、虚ろの鞄から『双頭の狼(オルトロス)』を取り出し、ゆっくりと地面に寝かせた。


「お前の、弟だ」

「こんな……こんな、剣に……」


 地面に置いた剣を嗅ぎ、静かに涙を流す魔物を見て何とも言えない気持ちになる。


 僕だって今まで魔物を殺し、剣や鎧にしてきた。今着ている服だってそうだ。身に付けている物の殆どが魔物製だ。生きる為にしてきた事とは言え、何だかな……それだけが生きる術ではないと言われればそれまでだが、僕には僕の事情があった。生きる為にはそうしなければならない時があった。


 だからこそ、人と魔物は相容れない。でもだからこそ、こうして話をして、理解し合える魔物と相容れたかった。


「過去の人間がしたこととは言え、すまなかったと思う。弟さんはお前に返すよ」

「こんな剣にされて、今更帰ってきたところで……」

「でも、兄弟なんだろう。家族は、一番傍に居た方が良い」

「アサギ……」


 僕の事情を知っているダニエラがそっと呟く。もう、僕は家族に会えないから……だからこそ、どんな形でも家族とは一緒に居るのが良い、今では思う。


「……お前が、弟を殺した人間ではないとは理解した。しかし、頭で理解しても心がそれを許さない。人間と、和解は出来ない」

「それでも良い。出来れば仲良くなれたらとは思うけどね……同じ、狼に縁にある者同士なら、尚更だ」

「そうだ……何故、お前から……人間から狼の匂いがする?」

「それは、僕が神狼の眷属だからだよ」


 レイチェル=ヴァナルガンド。狼に生まれ、魔狼として生き、神狼となった転生者の眷属。それが今の僕の身分だ。


「神狼……そうか、あの御方の……」

「レイチェルを知ってるのか?」

「随分昔に助けられた……弟が、殺された夜の事だ」


 言葉の続きを待ってみるも、語るつもりはないみたいだ。弟さんを亡くした日のことだ。語るにしても相手が僕では口も開かないだろう。


「僕も、色々レイチェルには助けられた。そういう意味では僕から狼の匂いがするのも分かる気がする」

「あの御方に敬称を付けずに呼ぶ貴様は一体何者なんだ?」

「言っただろ。レイチェルの眷属だと……いや、盟友という関係にしてもらってる」


 眷属は嫌だなぁとダニエラに話したら『盟友でいいんじゃないか』と言われた。レハティを助ける時の話だ。レイチェルも眷属になれとは言ったが、そういう認識でいると僕は思っている。


「そうか……神狼の盟友とあれば、我も歩み寄るべきであろうな」

「良いのか? 僕は人間だ」

「人間であり、狼でもある。貴様は妙な生き物だ」


 人をUMA扱いしやがって……頭が3つある此奴も中々のUMAっぷりだ。ちなみに話す時は3つとも一緒に喋っている。立体音響かな?


「であれば自己紹介をしよう。我が名は『ポチ』。貴様達の名を聞きたい」

「僕はアサギ……ちょっと待って」

「何だ。名乗りを上げるというのは大事な儀式……」

「いや分かるんだけど、待って。ポチ?」

「そうだ。我が名は神狼より賜った名誉ある名だ」


 あの女、絶対適当に付けただろ! お前が雑にネーミングしたポチ、ケルベロスになってるぞ!


「いや、悪かった……うん、うちのレイチェルが本当に……」

「さっきから何の話だ?」

「いいんだ、いいんだ……」


 気を取り直して自己紹介といこう。


「僕はアサギ=カミヤシロ。神狼レイチェル=ヴァナルガンドの盟友だ」

「私も名乗っておこう。ダニエラ=ヴィルシルフだ。レイチェルとは眷属契約はしていない。ただの友人だ」

「アサギに、ダニエラだな。そうか、ダニエラは神狼の眷属ではないのだな」

「そうだな。私はエルフ族だから、眷属にはなれない」

「なるほど……では我とも友人という関係を築かせてもらえると嬉しい」

「あぁ、此方こそよろしく」


 ダニエラとポチはすぐに仲良くなれた。先程まで剣と牙を突き合わせていた関係だったが、誤解がなくなり、お互いに歩み寄る努力をすればこうして人と魔物も仲良くなれる。


「アサギとは同じ狼の眷属として盟友になれたらと思うが、どうだろう?」

「あぁ、僕は大歓迎だよ」


 森狼の友となり、神狼の盟友となった僕には今更拒む理由がない。


「感謝する。ではケルベロスである我、ポチと、神狼の盟友である汝、アサギと、此処に盟友となったことを宣言する!」

「ははっ、大層な……は?」


 ポチが宣言とやらをすると、ポチの体から銀と黒の粒子が浮かび上がる。それは徐々に多くなり、まるで星空のように輝く。


 溢れんばかりに膨れ上がった粒子は、一斉に僕へと降り注がれた。服を通して僕へと染み込んでいく粒子。


 それがどんどん体の奥へと浸透していき、最後の一粒が入り込んだ時、僕は新しいスキルを身に付けたのだった。

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